大井競馬場はレース前の喧騒に包まれて、非常に盛り上がっている状況。
今回のJBCSはアマゾンオペラが優位だと思われているようで、地方競馬の観客としては所属場所が違えど応援しやすい余地がある。
これが中央で開催されていたらヤマトノミオが1番人気になった可能性は高く、中央と地方の意識差が人気の明暗を分けた感じだろう。
だが、そんな事はお構いなくレース開始時間が迫っており、ゲート前で各馬は誘導員に曳かれて輪乗りしている最中。
そして、スターターが台に上がってからバッと両手くらいのサイズである赤旗を大きく振り、レース開始を告げる。
すると、ウイナーズサークルの横に佇んでいた奏楽隊が大井競馬場のファンファーレを演奏し始めて、観客の盛り上がりが最高潮に達する。
各馬に騎乗する騎手はゴーグルをしっかりと装着し、相手に表情を読まれない様に頭の中に描いた作戦を実行する為に気合を入れた。
奇数番号から順次ゲート内に収まっていき、ヤマトノミオは6枠11番からのスタート。
最後の馬がゲートに入る前に1頭だけが嫌がる素振りを見せ、後ろ脚を蹴り上げたりして一向にも落ち着く様子を見せない。
騎手が馬の尻尾を掴んでから、別の馬を曳いていた誘導員が目元と耳の部分がしっかりと覆われた黒いメンコを馬に被せて馬が急速に落ち着く。
ようやく最後の馬が8枠16番の場所に収まり、ゲートが開き各馬一斉にスタートする。
真っ先に飛び出したのはヤマトノミオで、騎手はポンと最高のタイミングでスタートを切った事で腹を括ったようだ。
ゲートから出た瞬間にヤマトノミオは騎手に従って、じんわりと2番手の馬を突き放す。
そのまま先頭に立って、いつもの差しと違う脚質――逃げで1200mを突っ走る方を選び、観客席からざわめきが広がる。
「先頭に立ったのはヤマトノミオです。ここからどういうレース展開が見られるのか?」
実況が喋っている様にヤマトノミオが珍しく先頭に立って、スイスイと他馬を引っ張ってレースを作り上げていく。
思わぬ展開になったので、各馬の騎手はヤマトノミオの動向をしっかりと注視しなくてはならなくなった。
好スタートを好機と見なしたのかヤマトノミオの騎手は淡々とペースを上げて、ペースを他の騎手に悟られない様にゆっくりと下げたりする。
そのため後方に位置している馬が牽制し合って、徐々にヤマトノミオ以外の馬が団子状態で動きにくくなってしまった。
1200m戦とは言え、決着まで約1:10秒台も時間があるのだから、淡々と逃げているだけでは勝てないのだから。
そして、ただ1頭――アマゾンオペラだけは馬群に囲まれてスタミナを浪費する素振りも見せず、徐々に中団から進出し始めている。
2番手以降の馬との差は3馬身程あるが、セーフティーリードとしては十分な差ではない。
初の逃げとなったので、先頭に立ったまま押し切るのは非常に厳しいだろうし、出来るだけ余力が無くなってからもリードは有った方が良い。
「まさかの逃げだが他の馬が絡まないし、上手くいきそうな気もするが……」
「ヤマトノミオはちょっとスタミナに不安がありますからね。逃げてペースを握っている時点で危なっかしいですね」
「かと言って、ここから下げるのも無理だけどね。後はこのまま粘るのを期待するしかないなー」
3人はレース展開を握っているヤマトノミオを見守る形で、馬主席からターフビジョンを眺める。
そして、残り距離は600mを過ぎてレースは終盤を迎える。
先頭は相変わらずヤマトノミオが粘って、2番手以降との差は2馬身程に縮まっているが、まだまだ余力はあるようだ。
ここで一気に進出してきたのはアマゾンオペラ。
中団から徐々に馬群の中から進出していたが、ここで3番手に浮上し観客席を大いに沸かせる。
「各馬、直線に入ってどの馬が先頭でゴールを駆け抜けるのか!!」
既にレースの集点はヤマトノミオとアマゾンオペラの一騎打ちになっており、アマゾンオペラは2番手に上がって、ヤマトノミオを射程圏内に捕らえる。
だが、ここまで来てヤマトノミオも簡単に先頭を譲る訳も無く、残り200mで優勝が決定するのだから、気力で粘りつくすしかない。
ここでアマゾンオペラがヤマトノミオの外から馬体を合わせて、お互いに最後の気力を振り絞って叩き合う。
残り100m。
最後の最後で抜け出したのはアマゾンオペラ。
徐々に頭、首と差が付いていき、ヤマトノミオは気力を尽くしたのか既に体力は限界に達している。
ヤマトノミオの結果は逃げながら1馬身差の2着と、非常に惜しい結果を残した。
だが、敗れた事は変わり無いので、1着になったアマゾンオペラに比べると後1歩が足りない結果となってしまった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。