ファントムロードは初のレースでは6着と敗れてしまったが、連闘で出走した未勝利戦では内からスルスルと抜け出して勝利を飾っていた。

     さすがに新馬戦で敗れ方が不味かった様で人気は3番人気に留まっていたが、キッチリと2戦目で勝ち上がった事でまた評価は著しく変わるだろう。

     G�鞠呂任△襯ぅ船乾汽鵐如爾糧渉錣噺世�事で人気になると思われるが、現状での評価はまだまだ重賞クラスで走れるとは思われていない。

     何故なら内ラチの最短距離を利用した走りだったのに、2着との差が1/2馬身と、外と内の差が現れた結果だったのだから。

     この後は暫し、レースには出走せず休養に充ててOP戦を目指すのではなく500万下から狙う措置が案として出ている状況。

     そう、夏の間はしっかりと調教で鍛えてから秋に500万下から再動すると言う事である。

 

    「連闘で疲労が溜まっているでしょうし……分かりました。では次走は500万下からの始動でお願いします」

 

     秋子は受話器越しで調教師にファントムロードの次走をお願いし、最後に軽く挨拶をしてから受話器を元の場所に戻す。

     そして、軽く吐息を吐き出してから、メモ用紙にファントムロードの次走を秋に500万下と簡潔に記入する。

     それでも流暢な文字であり、秋子の人柄が滲み出ているのが伺える。

 

    「次走は2ヵ月後くらいか。放牧する訳でもないから十分だな」
    「放牧するほど疲労が溜まっている様ではないので、放牧する必要が無いと感じましたから」

 

     そうか、と秋名は納得したようで、小さく頷いてからテーブルの上に畳んで置かれている真新しい競馬新聞を手に取る。

     その競馬新聞は主に土曜日に開催されたレース結果が掲載されているが、トップを飾っているのはアメリカンオークスの詳細。

     刻々とアメリカンオークスの開催まで3日と近づいているので、どこの競馬新聞も調教タイムを掲載している。

     特に最近は海外遠征の機運が高まっており、今年は既にイチゴサンデーのアメリカンオークスを含めて、ダンスパートナーがヴェルメイユ賞に。

     そして、世界最高潮の芝G�機宗蹴�旋門賞に挑戦するナリタブライアンが遠征するのだから、盛り上がるのも必然だろう。

     既に3頭とも海外に遠征して、最後まで気を抜く事無く調教を続けられている状況で、先鋒を切るのはイチゴサンデー。

     欧州の各1000ギニーを勝ち上がってきた相手とホーム――ハリウッドパーク競馬場での実績を持つ馬を相手に何処までやれるかが話題に。

     イチゴサンデーもNHKマイルカップで牡馬を下してG�気鮠〕�しているとは言え、現在は日本の牡馬よりも他国の牝馬の方がレベルは上だろう。

     それが日本競馬の現状だが選出されたチャンスを無駄にせず、様々なものを学んで持ち帰れば、後の競馬に繋がるのだから。

 

    「結構メンバーが集まっているな」
    「ええ、特に欧州からの遠征組が多くアメリカからの出走馬の数は少ないですね」
    「仏1000ギニーのマティアラと英オークスのムーンシェルが人気を分け合うだろうね」

 

     手強いなー、と名雪は嘆息を吐くが、その表情は生き生きとしており、生産馬のイチゴサンデーが何処までやれるかが楽しみの様だ。

     実際にイチゴサンデーの実績は今年の牝馬クラシックの中ではトップクラスと競馬新聞で評価されているので、実力試しには持ってこいの舞台なのだから。

     勝てるかと言われれば非常に難しいが、競馬に絶対は無いのだから1%でも可能性があれば挑戦するのが望ましい。

 

    「ある意味、今回はサンデーサイレンス産駒のイチゴサンデーが故郷に帰る様なもんだし、人気にはなるかもな」
    「そういえば、今回はイージーゴア産駒が出走しているみたいですね」

 

     秋子が競馬新聞を指差す場所には、確かに“父イージーゴア”の名が刻まれている。

     その馬はダート路線からの転向組で、重賞勝利はしていないが殆どの重賞で2着と3着の数が圧倒的に多い馬だった。

     成績を見るだけだと注意すべき相手ではないが、父がライバル同士だった事を考えると、出会いは運命に近い感傷だろう。

 

    「こういう時って案外、イチゴサンデーと……えっと、レトロスペクティヴか。と接戦になる可能性が高いからね」
    「そうね。足元を掬われない様にしてもらった方が良さそうね」
    「因縁の対決だもんな。成績はこちらが上でも向こうはホームだし、怖い相手になるかもな」

 

     と、それぞれ3人はレトロスペクティヴと父――サンデーサイレンスとイージーゴアの因縁対決を継ぐ事を想像し笑みを浮かべた。

 

 

     さて、本日の競馬はホワイトウインドが降級――OPから1600万下になった事で再び、OPクラスを目指すために再動した。

     出走するレースは安達太良ステークス。

     福島ダート1700mで開催される特別戦である。

     ホワイトウインドは前走の薫風ステークスで初の1600m戦を楽勝しており、今回は100mの延長がどう出るかが見所だった。

     結果は久しぶりの出走が響いたのか、1番人気に支持されながら4着に敗れてしまったが、3ヶ月振りを考えると上々な結果であった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:マティアラ……父はネイティヴダンサー系のベーリング。
     注2:ムーンシェル……父はサドラーズウェルズ
     注3:レトロスペクティヴ……父はイージーゴア。