ヤマトノミオは見事に栗東ステークスを勝利し3連勝を飾ったが、ダンシングウイナーは9着と惨敗しクッキリと明暗が分かれた結果になった。

     これでダンシングウイナーの今後は夏休みも無く、走り続ける事になると思いきや、調教師が思い切って長期休養の案を出してきた。

     現在は2勝しているとは言え、馬体の幅が芳しく無いので長期の放牧で馬体重と筋肉を増加させるつもりの様だ。

     まだ3歳馬であり、父は晩年にG�気鮴�した二ホンピロウイナーなのでダンシングウイナーの成長力には期待出来ると思われる。

     正確に言えば、成長力に持続性があるのが二ホンピロウイナー産駒の特徴なので、ダンシングウイナーにも特徴が引き継いでいる可能性が高い。

 

    「では、どれくらいの期間で放牧する予定なのでしょうか?」

 

     秋子は受話器を片手に持ちながら、メモを取るためにボールペンを軽くペン回しを行っている。

     調教師が放牧期間を口にしたようで、秋子はメモを取ろうとして一旦ペン回しを止めるが、ピタリとボールペンを持つ手がストップしてしまう。

 

    「えっと……確認して良いですか? 本当に5ヶ月近くもするんですか?」

 

     聞き間違いないでは無いか、と秋子は思ってもう一度同じ事を調教師に質問するが返ってきた言葉は一緒だった。

     最後の決定権は秋子が所持しているのだが、ここまでの長期間の放牧は故障でもない限り滅多に行われないので、秋子が悩むのは無理がない。

     調教師はこのまま使い詰めても厳しいと見なしているようで、一旦緩んだ馬体重を戻して育成牧場で鍛えなおす方針のようだ。

     今から5ヶ月放牧に出したとすると、帰厩は11月頃になり復帰レースも2月〜3月頃になる可能性が高い。

     そうなると、1年近くも出走しない事になり得るので秋子は懸念の1つとしてもう少し短い放牧には出来ないかを聞いてみる。

     だが、返ってきた答えは良い返事では無かったので話し合いは平行線を辿ると思いきや、横で話を聞いていた秋名が秋子に耳打ちをして進言を行う。

 

    「ホワイトウインドだって4ヶ月近く放牧して、キッチリと成績を放牧後に上げたんだから、問題無いだろう?」

 

     秋子は受話器の口を軽く押さえつつ、

 

    「それはそうなんですけどね……冬の間には仕上がらないでしょうから、更に出走するのに時間が掛かると思うんですよ」

 

     と、自分の意見をこっそりと秋名に教えておく。

     なるほど、と秋名は秋子の言い分に納得したようでそれ以上、口を鋏む事は無かった。

     そして、秋子は調教師の言う通りにダンシングウイナーを約5ヶ月の放牧に出すことを決定して、後は育成牧場に調整をお願いするしかなかった。

     結局、秋子は調教師の言い分を飲んだ事になったが毎回同じような手段を様いても、結果が変わらない可能性があるのだから別の可能性に賭ける事に。

 

    「これで馬体が成長してくれるのを期待して、後は見の一手しかないですね」
    「育成牧場は一応、大手の所に預ける予定だし、故障でもしない限りちゃんと成長してくれるだろう」

 

     早熟タイプじゃない限りな、と秋名はついでにダンシングウイナーが早熟ではない事を危惧していない口調で付け加えた。

 

 

     春麗らかな天気の中、そよ風が緑の大地――芝を撫でる様に駆けて、空というキャンパス生地に青いペンキを塗り、それが空全体に広がっている好天。

     そんな心地が良い場所には18つの黒点が動き回っており、走っている様な動きだったり、ゆっくりと歩いている様子が窺える。

     その18つの黒点は全て、馬――サラブレットでありガッチリと四肢で芝を踏み締めて佇んでいる。

     本日開催されるレースは日本ダービー――1992年に誕生した18345頭の中から1頭の頂点を決定する偉大なレース。

     日本競馬の中で最も権威があり、東京芝2400mと言うタフな距離で開催されるため、本日選ばれた馬は18頭の精鋭とも言える。

 

    「去年はタイフーンが出走してくれましたけど今年は見るだけですから、ちょっと残念ですね」
    「イチゴサンデーが牡馬だったら絶対に出走させていただろうが、牝馬で産まれたんだから“if”にしかならないな」

 

     実に残念そうな表情を滲ませながら、秋名は溜息を吐いてしまう。

     去年はタイフーンが出走だったが、5着と一応掲示板には乗ったが惨敗と言っても差し支えなくダービーの重圧と言うのを感じ取れたことだろう。

     それほどダービーの重圧は凄まじく、1番人気の馬に騎乗している騎手は大変な状況に違いない。

 

    「さて、今年のダービーはサンデーサイレンス産駒が制するのかな?」
    「先週のオークスはダンスパートナーだったし、2400mの距離も問題なさそうね」
    「サンデーサイレンス産駒がここまで走るとは思わなかったなー。去年のリーディングサイアーに輝いたブライアンズタイム並か、それ以上の活躍だし」

 

     と、TVに視線を移すと、1着にはタヤスツヨシで2着にもジェニュインがサンデーサイレンス産駒でワンツーフィニッシュを飾っている。

     そして、今年の結果を見て、3人は揃ってサンデーサイレンスの凄さに実感して溜息を吐いてしまった。

 

 

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     特になし。