季節は5月になり、日高地区の桜はそろそろ開花する頃。
Kanonファームには桜の木は一本も植えていないが、牧場から少し外れた道沿いには多数の木々が植えられている。
もう少ししたら、観光客が桜を見に来る事が多くなるが、何処の牧場もゆっくりと桜を見る余裕は無い。
その理由は繁殖牝馬に種付けの為に、牧場を馬運車で往復するからだ。
移動中に見るくらいなら余裕はあるが、牧場の業務に支障が出るのでのんびりとは見られない。
祐一と名雪は抜け出して見に行く予定をこっそり、と計画したのであまり意味が無いかもしれないが。
祐一はあまり興味なさげだったが、何度もお願いされて断ったら何をされるか分かったものではない。
同じ年齢だが、どうしても女の怖さが頭にこびり付いているので、渋々と祐一は了承していた。
無邪気に名雪は喜んでいるが、祐一はそれより馬を見に行きたいな、とポツリと名雪に聞こえないようにぼやいた。
その頃、秋子は2頭の繁殖牝馬と生まれて2ヶ月近く経った仔馬を連れて他所の牧場に向かっている。
馬運車を運転しているのはサラブレット輸送会社の人物だから、急発進などをせず安全運転である。
少しばかり白髪が混じった髪のベテラン運転手と談話をしつつ、目的の牧場に辿り着く。
この牧場は種牡馬養成のみを行っているので、仔馬の生産はしていないが多数の種牡馬がいる。
既に種付けを行う種牡馬の予約を入れているので、繁殖牝馬が急に入れ込まない限り、変更はしないと決めてある。
「どうも、お久しぶりです。水瀬さん」
種付けする種牡馬の前に当て馬を連れながら挨拶する牧場主任。
当て馬とは、繁殖牝馬を受け入れる体勢にする馬であり、牝馬が受け入れ態勢になったらお役はおしまい。
当て馬は入れ込む牝馬をなだめたりする役目でもあり、蹴られる事が多いが仕事はやり遂げる。
入れ込む牝馬をなだめないと、種牡馬が蹴られてしまう事があるので必ず何処の牧場も当て馬は使用される。
「今日はアーティアスとスティールハートでしたね」
種牡馬リストをペラペラ、と捲りながら聞いてくる主任。
そうです、と秋子も頷いて種付けの様子を見るために主任の隣に移動をする。
「どうですか? アーティアスの身体は?」
秋子は種付けを見ながら、主任に聞いてみる。
秋子の見立てではスラリとした体型から、ステイヤー寄りに見えるのだが主任は中距離付近が合うのではと言う。
「なるほど……中距離ですか」
母馬も中距離向きの血統なので、距離適正の幅が延びるには丁度良いと思ったが中距離向きだとは思わなかった。
でも、と主任は付け加えるように話を追加する。
「奥がある血統だと思いますよ」
ラウンドテーブル産駒は多数日本に輸入されており、日本の芝に合うのか孫がG�気鮠,辰討い襦�
主にボールドリックの産駒――キョウエイプロミスが天皇賞・秋優勝とジャパンカップ10番人気で2着。
デュール産駒のヒカリデュールが有馬記念を制覇するなど、この2頭は祖父がラウンドテーブルである。
アーティアスの産駒も、もしかしたらと言う条件付でG�犠,討襪�も知れないのだ。
そうですか、と秋子は嬉しそうに頷いていると、種付けは既に2頭目が行われるところ。
ジッと見ていると一瞬で終わり、さっきはちょっと種付けに苦労したようだ。
スティールハートは前年と一緒の牝馬だと分かっていたから、早かったのかも知れない。
「では、良い仔馬の出産を楽しみにしていますよ」
自分の牧場にいる種牡馬の産駒活躍は誰もが楽しみであり、特に新種牡馬は期待と不安が混じった事が多い。
秋子はペコリと小さく頭を下げて、行きと同じように馬運車に乗る。
秋名は家の前で掃除をしており、丁度馬運車が戻ってきたので掃除を一時中断する。
馬運車からゆっくりと牝馬を最初に後ろ側から下ろしていく。
馬運車の中はせいぜい4頭ぐらいしか乗れないサイズであり、仕切りで覆われているだけ。
なので、載せる時は頭からで下ろす時はお尻側からである。
2頭の牝馬は秋子と秋名が下ろすが、子馬を下ろすのは祐一か名雪に頼もうとしたが、2人の姿は見えない。
「抜け出したみたいだな」
「まぁ、偶になら良いですけど毎日抜け出されると困りますよ」
そうだな、と笑いながら言いつつ秋名は牝馬を放牧地に放馬してから仔馬を下ろすために馬運車に乗る。
秋子も牝馬を放牧地に放して、馬運車の運転手にお礼を言う。
最後に仔馬を放した所で丁度、祐一と名雪が外から帰ってきたので、秋子は少しだけ説教をしたと記しておく。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。