駆ける馬　２８５話

　　　　　ＮＨＫマイルカップ。

　　　　　東京芝１６００ｍで開催されるＧⅠとなっており、過去にはＮＨＫ杯と言う名称でダービーのトライアルレースだった。

　　　　　だが、ダービートライアルとして青葉賞とプリンシバルＳが設立された事でＮＨＫ杯はクラシックに出走不可能のマル外馬が３歳春に狙える唯一のＧⅠに。

　　　　　その様に格上げされたＧⅠだったが、現在はクラシックにもマル外馬が出走可能になった事で現状は距離適正が合う馬が狙うレースとなっている。

　　　　　昔のように牡馬はクラシック路線を目標とする必要がなく、距離適正に合ったレースを使う事が一般的な方法として広まっているのだから。

　　　　　さて、ＮＨＫマイルカップは既に３歳馬のＧⅠとして定着しており、クラシックには敵わないが知名度はある方だろう。

　　　　　去年のヒシアマゾンの様に強いマル外が出走するので、内国産馬が意地を見せる事が分かっているのか実力以上の走りを発揮する事が間々ある。

　　　　　そういう意味では短距離とマイル路線の向上を図るために必要な条件を満たしていると言える。

　　　　　短距離とマイルのＧⅠ数は合わせて８つあるが、３歳限定のＧⅠは桜花賞かＮＨＫマイルカップしかない。

　　　　　なので、短距離からマイルが距離適正の馬は３歳の時点で目指すレースとして定着するのは当たり前だった。

　　　　　そんな中でイチゴサンデーはＮＨＫマイルカップに駒を進め、数少ない牝馬出走馬の中では最も人気がある状態。

　　　　　とは言え、流石に上位人気との差は大きく本日は７番人気と甘んじている。

　　　　　裏路線――クラシックに直結しないレースを勝利してきた馬が人気を支持されている状況。

　　　　　主にシンザン記念を３連勝で制したメイショウテゾロや、ニュージーランドトロフィーを勝利したシェイクハンド。

　　　　　更に皐月賞直前で出走回避をしたナリタキングオー、桜花賞で７着に敗れたエイシンバーリンなどが出走しているので群雄割拠だろう。

　　　　　本来なら圧倒的１番人気に支持されてもおかしくなかった馬――スキーキャプテンはケンタッキーダービーに挑戦し惨めな敗北を犯していた。

　　　　　なので、現在は帰国済みだが競馬学校で検疫を受けている最中なので、ＮＨＫマイルカップには実質的には間に合わなかった。

　　　　「このメンバーでは流石に上位人気はなりにくいな」
　　　　「重賞勝利馬が多いですからね。でも去年のヒシアマゾンの様に抜けた馬が居ないのでチャンスはあると思いますよ」

　　　　　うちのイチゴサンデーにもチャンスがあるわけか、と秋名は秋子の言葉に反応し、競馬新聞を見直す。

　　　　　競馬新聞には各出走馬の調教タイム、近走の成績などが細かい詳細で書かれている。

　　　　　そして出走馬名の下にある印が推される部分を秋名は読んでおり、イチゴサンデーの評価をジックリと見ている。

　　　　　他紙によっては評価がガラリと違うと言う事も無く、ある程度は似たような構造。

　　　　　イチゴサンデーの印は▲▲注－△と本命と対抗の印である◎と○は無いが、単穴が２つと連下が１つとまずまずの評価だと窺える。

　　　　　因みにレース短評は混戦と一目で分かりやすく見やすい場所に掲載されていた。

　　　　「確かにチャンスはありそうだな」
　　　　「本命の印を２つ以上推されている馬は１頭も居ませんからね。現在、１番人気のオッズでさえ４.３倍ですから」
　　　　「重賞を２勝した馬はナリタキングオーとエイシンバーリンだしな。去年のように絶対的な馬が居ない分、どの馬にもチャンスがあると言い換える事も出来るか」
　　　　「そうですね。出来れば少ないチャンスを元に勝利に繋がって欲しいんですけど、厳しいのは変わりないでしょう」

　　　　　秋子の表情は決して弱気にはなっておらず、勝つチャンスがある事を見込んでいるようで、曇りなき瞳が東京競馬場のゴール板を見据えていた。

　　　　　さて、本日はＮＨＫマイルカップが開催されるが他地区でも競馬は開催されており、東京競馬場を含めて京都、新潟の３箇所で開催中。

　　　　　その中には京都競馬場で開催されるＯＰ――都大路Ｓにストームブレイカーが出走する。

　　　　　ハンデ戦なので前走を楽勝したからなのか、斤量は５９.５ｋｇを背負うのが条件となってしまっている。

　　　　　ただ、どの競馬新聞も実績が抜き出ているのが分かっているようで◎が５つ綺麗に支持されているので、楽勝ムードだと思われているのだろう。

　　　　　前走も５９.５ｋｇで勝利しているので、前走の再現を期待されているようだが距離が４００ｍも短縮されているのは問題点かもしれない。

　　　　　そして、レースは僅かに立ち遅れてストームブレイカーは後方から進める状況になってしまった。

　　　　　だからといって焦るわけにもいかず、ゆっくりとペースを上げて外に持ち出して捲くるのが、現状では一番良い作戦だろう。

　　　　　３コーナー付近では既に１２頭中８番手に挙がって、まだまだ加速し足りないのか直線に入る頃には５番手まで上昇する。

　　　　　だが、大捲くりをした代償は馬のスタミナを消費する事で、ここから更に突き抜ける様な脚を持つ馬はＧⅠクラスでも類を見ないのだから。

　　　　　神の脚を持たざる馬であるストームブレイカーは流石に、ここから伸びるのは不可能だったらしく、垂れる事は無かったが９着に敗れてしまう。

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　　　　　この話で出た簡潔競馬用語

　　　　　注１：メイショウテゾロ……３連勝でシンザン記念を制している。
　　　　　注２：シェイクハンド……ニュージーランドトロフィーの勝ち馬。
　　　　　注３：ナリタキングオー……共同通信杯とスプリングＳを制した馬。
　　　　　注４：スキーキャプテン……半姉はスキーパラダイス。