Kanonファームの繁殖牝馬放牧地には今年誕生した5頭の仔馬がそれぞれの母馬に寄り添って、放牧地の中を歩く。

     今年産まれた産駒は牡馬が3頭、牝馬が2頭と珍しく牡馬の方が数多く誕生し、仔馬は無事に育っていくのを期待される。

     そして、産まれた産駒の血統と性別と毛色は以下の通り。

     ダイナコスモス×フラワーロック:牡馬、鹿毛。

     アイネスフウジン×ルリイロノホウセキ:牡馬、黒鹿毛。

     アジュディケーティング×エレメントアロー:牝馬、黒毛。

     キャロルハウス×サイレントアサシン:牝馬、栗毛。

     ジェイドロバリー×ワイルドローズ:牡馬、黒鹿毛。

     どの仔馬が走るかは未来が分からない限り現状では不明だが、少なくともその現在をある程度良い方向に向かわせる事は可能。

     来年の春頃から調教を繰り返して行えば、それなりに走る可能性を引き出せるのだから、今は無事に成長をするのを願うしかない。

 

    「今年はちょっと小粒な気がするな、こうなんか表現しにくいが」
    「そうですか? それは血統から見た意見に聞こえますけど」

 

     秋名は軽く人差し指で頬を掻きつつ、かもな、と秋子の言葉に同意。

     秋名の視線はダイナコスモス×フラワーロックとアイネスフウジン×ルリイロノホウセキに向けられており、この2頭は他の3頭より血統が劣る。

     なので、秋名がそんな言葉を口にしてしまうのは納得出来る事柄かもしれない。

     秋子もそうかもしれませんね、と苦笑いを浮かべながら同意してしまうが、その表情には一点の曇り無き表情。

     自分自身が決めた配合なのだから、秋子の表情が自信溢れているのは当たり前だろう。

 

    「まぁ、今年は名雪が配合を決定させる権限を与えましたし、楽しいものが見られるかもしれませんよ?」
    「そうだな。案外、短所を補うよりも長所を伸ばす配合をしてくるかもしれないな」

 

     来週には繁殖牝馬を種牡馬繋養場に連れて行く予定があるのだが、未だに配合は不明状態になっている。

     既に名雪が種牡馬種付けの申し込みは済ませているので、後は当日に種牡馬繋養場に繁殖牝馬を連れて行くのみ。

 

    「思ったんだが、ミストケープの配合は秋子が決めれば良かったんじゃないか? いきなりGⅠ馬の配合考えるのは大変だったと思うがな」
    「ミストケープだけ、わたしが配合を決めたら贔屓している事になりますからそれは出来ませんでしたね」

 

     秋名が言うGⅠ馬の配合に関しては、秋子はあっさりと否定し理由を語る。

 

    「それくらいのプレッシャーは乗り越えてもらわないと困りますし、名雪の勉強にもなるでしょう」

 

     ニコリ、と秋子は秋名に向かって笑みを浮かべており、その表情は何かを企んでいそうな顔だった。

 

 

     今週の競馬はホワイトウインドが出走する。

     すっかりと馴染みになった純白の毛――白毛は1勝する毎にクラスを昇格させてOPの手前までにやってきた。

     現在は1600万下と後1つ勝利すればOPクラスに昇格出来るので、関係者も調教に力が入る。

     ホワイトウインド以前の白毛馬はハクタイユーがいるが、未勝利で終わっているため、現在はホワイトウインドがドンドン勝利数を更新しているのだから。

     そんな訳でホワイトウインドは白毛馬による最多勝利数を達成しているが、本来の目標は重賞制覇と壮大な目的が。

     なので、ドンドンと勝利した勢いで重賞制覇まで駆け上って欲しいのが現在の願いだろう。

 

    「っと、ホワイトウインドが1番人気ですね」

    「そろそろミーハー人気は辟易するから、実績面を配慮した人気になっていると良いんだがな」

 

     うーん、と秋名はTV画面に映されているホワイトウインドのオッズを眺めて呟くが、実態は不明。

     ホワイトウインドは間違いなくGⅠ馬に匹敵する人気を持っており、一介の1600万下に在籍する馬とは思えない位。

     その点だけはGⅠ馬に並ぶとは言え、実績面が追いついていないのは秋名が不満に思っている通り。

     さて、出走するレースは東京ダート1600mの薫風ステークス。

     前走が初めて東京競馬場に出走したので、今回が2度目になるので左回りが克服出来たかが課題と言える。

     距離も初の1600m戦なので、どのような走りを見せるかが掛かっている。

     スタートが切られると、すぅ、と上手い形でゲートから出て馬場の中心から徐々に内側へ斜行しないように注意しながら位置取りを定めていく。

     そして、2連勝を達成した時のように中団に位置して、虎視眈々と各馬の動向に注意しつつ走っている。

     入れ込んでいる様子も無く、手応えが良さそうな走りを披露しているのがTVからでも窺える。

     乾いたダートがホワイトウインドに向かって跳ねて純白の毛を汚していくが、気にした様子も無く、逆に気合が入っているようだ。

     そして、直線にいると残り200mの時点で楽に抜け出して、最後は手綱を押さえる余裕を見せて1馬身の差をつけて勝利した。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:ハクタイユー……日本初の白毛馬。