3月になり春の息吹が感じられる時期が到来し、木々は青々しい葉を付けて風に揺られている。
そして、北海道各地の牧場では新たな生命――仔馬の出産時期で、嘶き声が風に乗せられて聞こえてくるので、どこの牧場も歓喜の声がある。
もちろん、歓喜とは間逆に悲観――産まれた仔馬が死産だったり、牡馬では無く産まれたのが牝馬だったりするので、悲観交々な声も届いてくる。
Kanonファームでは今年1番最初に産まれた産駒は去年、秋子が知人の牧場経営者だった男性から購入したワイルドローズが最初に産み落とした。
ただ、ワイルドローズの種付け時期は5月の初旬だったので去年産まれた仔馬と比較すると幾分か早産まれな分、小さい身体であった。
成長する余地は残しているが、早くも不利を被ってしまった事は否めない。
早生まれの馬は馬体重の面で成長し難いと言われており、400kg前後ではパワー面が大きく劣ってしまう。
それでも走る馬は居るので、今は無事に産まれた事を喜ばなくてはならない。
「意外とワイルドローズの仔はしっかりとした形じゃないかな?」
「そうね……どちらかと言うとワイルドローズの形に似ているし、長い距離で活躍するかもしれないわね」
因みに毛色は母似ではなく、父であるジェイドロバリーの血を濃く受け継いでいるのか、やや赤褐色が混じった黒鹿毛になっている。
尾花栗毛のワイルドローズとは対象的な毛色で、一目では母子とは分からないだろう。
「現在は小さい馬体だけど、牡馬なんだからドンドン馬体重が増加してほしいな」
「今までの産駒の事を社長に聞いていたんだけど、どうも身体が小さい産駒が産まれやすい傾向だったみたい」
遺伝かな? と秋子が口にした事を名雪は思った様に言うと、秋子は同意しているようで、その顔にはやや苦笑いが浮かんでいた。
あまり好ましい遺伝ではないので、秋子が苦笑いを洩らすのが納得出来てしまう。
「今年は後4頭産まれるのを待つのみかー……それが完了すれば、わたしが考えた種付けを行うんだよね」
「種付け時期になってから配合を聞くから今は言わなくて良いわよ。楽しみは後に取っておいた方が良いし」
「そう。それなら種付けの時に発表するよ……楽しみと言えば、もうすぐ祐一が競馬学校に入学だったよね。地方のだけど」
「そうよ。4月に入学だから1ヵ月後って言ったところになるわ」
ふーん、と名雪は直ぐに興味なさげそうな表情になっていた。
さて、今週の競馬は千葉ステークスにヤマトノミオが出走する。
千葉ステークスは重賞レースではなく、唯のOP戦でハンデ戦でもある。
ここに出走する理由は単純に距離適正が合うレースが無いからであり、芝が合えば選択肢が多いのだが、ヤマトノミオには選択肢が圧倒的に少ない。
そして、同じくOP戦の大阪城ステークス――阪神芝2000mにはストームブレイカーが出走。
本来の予定は中山記念だったが、体調が今一つ良くなかったので暖かくなったこの時期――3月までずれ込んでしまった。
特にハンデ戦なのでストームブレイカーが背負う斤量は出走馬の中で最重量
を言い渡されており、59.5kgと60kgにほぼ近い状況。
因みに他の出走馬は55kg前後の斤量でストームブレイカーとの差はおよそ4kgも違うので、厳しい条件に違いない。
「どちらもハンデ戦だし、過度の期待はしにくいな」
「そうですか? ストームブレイカーはともかく、ヤマトノミオは期待出来ると思いますよ?」
秋子は笑みを浮かべながら競馬新聞を眺めており、印を押されている事を秋名に教える。
◎が2つに○が3つとなっているので、どの記者も本命として支持している
のが窺える状況。
印が厚ければ確実に走るとは言えないが、信頼の目安としては十分な実績を持つのだから。
まぁ、これ以上に信頼出来るものと言えば自分自身の目しかなく、馬主限定では調教師が毎日伝えてくる報告などもある。
そして、まずはヤマトノミオが千葉ステークスに出走し、前走と同じように強襲し直線に入ると一気に突き放す。
最後の方は流石に斤量が堪えたのか、前走程の伸びは見られなかったが2着馬には1馬身の差を付けて勝利。
これで見事に2連勝を飾り、ダート短距離馬としての評価は間違い無く上昇しているので、今後も1000m〜1200mなら期待が出来るだろう。
続く大阪城ステークスの方はストームブレイカーの人気は1番人気なのだが、斤量が59.5kgなのでオッズは4.1倍と混戦を極めている。
レースの方は意外な事に、ここOP戦では実績が違い過ぎたのかオッズに反発するようにグングンと差を付けて勝利。
流石にG�祇鐇�で実績を残してきただけであって、ここではまったく他馬が相手にならないほどで、まだまだ衰えがない事を窺える一端となった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。