ブルーフォーチュンが引退した事で、名雪は新たに種付け相手を探す作業に没頭し始める。
ブルーフォーチュンの血統はノーザンダンサーを父父父に持ち、父父はヌレイエフ、父はフォティテンと続いている。
そして、母馬はフラワーロックであるため、ノーザンダンサーの3×3――濃い目のインブリードを所持。
そのため行く気に任せて惨敗する事が多かったのかもしれないが、血統が濃いため体質が虚弱と言う訳でも無く、気性が激し過ぎる事も無かった。
上手い具合にノーザンダンサーのクロスが定着したと見解も出来るが、既に引退した馬なので、如何に良い産駒を輩出するかの方が現状では大事。
この血統にノーザンダンサーの血を持つ種牡馬を更に種付けするのは無理があり、これ以上の多重インブリードは産駒を虚弱体質にしてしまう可能性が。
名雪はノーザンダンサーの血を持たない種牡馬を探すべく種牡馬事典をを読み漁っている状態で、部屋中に複数の本が乱雑に散らばっている。
「うーん、何を付ければ良いかな? 大抵の種牡馬がノーザンダンサーの血を引いているから選択肢が少ないなー」
ブルーフォーチュンはマイル路線が得意だったので、出来るだけスプリント〜マイルで活躍した種牡馬を選択した方が走る産駒が多いと思われる。
短所として活躍出来る距離の幅が狭まる可能性も含んでいるが、長所としてのスピードが付きやすい方が現代競馬の主流となっているスピード競馬に適する。
しかし、マイラー尚且つノーザンダンサーの血を引かない種牡馬の数は非常に少なく、ノーザンダンサーの血を持たない種牡馬の大半は中距離〜長距離向き。
現状の候補では産駒成績も良好な二ホンピロウイナーとサクラユタカオーぐらいしか見つかっていない。
どちらも日本で活躍した馬でG�鞠呂鯒攴个靴深太咾鮖�つが、内国産馬の種牡馬は総じて評価が低いので種付け料も大幅に増加しない安定さがある。
「この2頭のどちらかで決定するか……それとも他の候補を探すか迷うなー」
二者択一しか選択がない事を名雪は頭を抱え込んで悩んでいるが、贅沢な悩みに近いかもしれない。
暫くは保留かな、と名雪は軽くこめかみに指を当てながら、一言ぼやいてから吐息を小さく吐き出す。
「うん、無理に考えても煮詰まるだけだし、暫くは考えるのを止めておこう」
一時的に配合の事を忘れるために名雪は大げさに頭を振って、長い髪が乱れるのを構わずに振り続けた。
そして、乱れた髪を整える事も無くリビングに下りていき、ちょっとした笑いが起こったと言っておこう。
今週の競馬は春の陽気さが到来して、コース沿いに植えられている木々には真緑色の葉がいくつも付いていた。
そんな環境――好天の中でレースが行われているので、寒中の時よりも売り上げが良いのは事実であった。
さて、Kanonファームの生産馬が出走するのは中京で開催されるファルコンS――芝1200m戦の重賞でグレートはG�掘�
ファルコンSは過去、中日スポーツ賞4歳Sと言う名称で距離は1800mで日本ダービーの後に開催される残念ダービーと呼ばれるレースの1つだった。
現在は1200m戦になったので、徐々に日本競馬がスピード競馬に移行して行くのが窺える一端だった。
出走するのはダンシングウイナーで、初の重賞挑戦となるので何処までやれるかは不明だが、少なくとも適正距離なので期待は出来る。
今まで勝利したレースは未勝利と千両賞の2つだけだが、他馬も似たような状況で混戦模様と競馬新聞には掲載されている。
「およそ6番人気辺りですね」
秋子は競馬新聞のファルコンS出走馬一覧を眺めながら、声を出してちょっとだけ残念そうな雰囲気。
だが、オッズの差は殆ど無く1番人気の馬でさえ4.2倍なのだから、如何にファンが混戦だと見なしたのが窺える現実だった。
因みにダンシングウイナーのオッズは9.8倍で、それなりに単勝馬券が売れている事が分かる。
「まぁ、走ってみないと分からないのはいつも通りだけど、この混戦だと尚更予想が難しいな」
秋名は神妙な表情で秋子が見ている競馬新聞を横から覗き見ているが、秋子は気にした様子も無く、そのまま紙面を読み続ける。
殆どの馬に押された印はばらつきが大きく、◎が2つ以上付いた馬は1頭もいない状況だった。
そして、レース時間が近づき各馬はゲート前に集合し、誘導員が頭絡にリードを着けてファンファーレが演奏されるまで軽く曳かれながらゲート周辺を回る。
ファンファーレが演奏され、各馬がゲート内に収まっていく。
「ちょっと入れ込み過ぎじゃない? これじゃあちょっと危なくない?」
名雪の言う通りダンシングウイナーは入れ込んでおり、ゲート前で尻っぱねを繰り返して、レース開始を遅滞させる。
何とかゲートに収まったが想定どおり、大きく出遅れてしまい1200m戦では致命的な格好に。
結局、出遅れて不利を取り戻すのは容易ではなく、結果的に短い直線で追い込んだだけしか見せ場は無かった。
しかし、最後は敗れたにも関わらず1つの見せ場は十分なもので最後方から追い込んだ脚は一閃で他馬を切り捨てる勢いだった。
掲示板には載らなかったが5着馬とは僅かの差で敗れており、今後の事を考えると一閃の切れ味を持つ脚を披露したのは、負けて尚強しの結果だろう。
戻る ← →
この話で出た簡潔競馬用語
特になし。