今週の競馬は東京で重賞が開催され、3歳牝馬限定のクイーンCがサラサラと降り続ける雨の中で行われる。
雨足は強くないので、馬場状況は稍重で落ち着いているが、開始時間まで降られてしまうと稍重から重馬場になってしまう可能性も。
そうなると3歳牝馬には苦労するレースになり、疲労が抜けにくくなり今後のレースで響く可能性が出てきてしまう。
ただ、殆どの牝馬が雨中の時に開催される重賞には初出馬となるので、どの馬も条件は五分五分。
「東京競馬場に来たのは久しぶりなのに、この雨はな……」
「走ってみないと分かりませんが、少なくとも歓迎したい雨ではないですね」
秋子と秋名はどんよりと空を覆う雨雲をジッと睨んでおり、思いっきりこの天気を恨んでいるのが分かってしまう。
既に1レース目から結果がそれなりに荒れており、万馬券は演出されていないこそ、1番人気の馬は揃って連敗中。
連対もしていないので、東京競馬場で観戦している観客からは怒声や溜息、絶叫が交じり合って沈痛な状況であった。
因みに同日に開催された春望S――ダート1400m戦にホワイトウインドが出走したが、水分を含んで脚抜きが良くなったダートが合わなかったのか5着。
或いは初の東京競馬場で戸惑いがあったのか、左回りが苦手なのかもしれない。
久しぶりに1番人気になったが、ご覧の通り結果は5着だったので、1600万下の壁はまだ高い状態だろう。
少なくとも、去年よりも馬体の幅が出ているので強い調教を行っても体調を崩したりしない分、あっさりと1600万下を卒業する可能性も秘めている。
なので、この結果は見所があった事だけは評価出来るレース振りだった。
「この結果なら次走でも期待出来そうですし、近いうちにOPクラスに昇格しても問題無さそうですね」
「OPに昇格出来るかは分からんが、これからも走るのは間違いないな」
ホワイトウインドは4歳なのにまだ7戦しか走っていないので、今まで遅れた分も走れば結果が付いてくる、と言いたげな秋名だった。
クイーンCのパドックが行われる時間となり、大勢の観客は傘を差しつつ競馬新聞を片手に持ち、各自の視線で1頭ずつチェックしていく。
屋根のある阪神競馬場のパドックでは無いので、このように不便な状況が起こっているが、観客は黙々とパドックに注目している。
「1枠1番イチゴサンデー。馬体重は前走比+4kgで現在の人気は1.5倍となっています」
「体調は問題なさそうですが、雨の中でのレースが初となるのがどう影響かが気になるところです」
と、アナウンサーと実況のやり取りでは、雨が降った状況がイチゴサンデーにとっては初めての状況なので、その点を疑問にしている。
徐々に雨足も弱まる所か、強くなっていく状況なので内枠――最内からのスタートは非常に厳しいと言わざるを得ない。
既に10レースまでの間に内枠で走っていた馬が多数居るので、芝の状態が
悪化してボロボロになりかかっている。
「レース前に雨足が強くなるのは嫌がらせとしか思えないな」
「……最悪ですね」
秋子が示す言葉は馬場の状態が稍重から重馬場に変わった事を指しており、それくらい急に雨足が強くなった事が分かる。
秋名はがっかりと肩を落としてしまい、深く溜息を吐いてしまった。
それくらい重馬場は歓迎しにくい状態で、結果がガラリと変わってしまうのは実力で決まらなくなったのが一因するからだ。
あっという間にパドックが終わって各馬に騎手が騎乗し、本馬場入場するため厩務員がリードを曳いて地下道の中に消えていく。
刻々と雨足が強まった中でレースが開始されるまでの時間が近づいてきて、雨が弱まるのを期待するしかなかった。
そして、ファンファーレが鳴り響き各馬が順当にゲート入りを果たして、最後に8枠10番の馬が入ってスタートが切られる。
イチゴサンデーは上手い具合にスタートを切り、いつもの定位置――中団に付けると思われたが、3番手〜5番手辺りに位置する。
泥を被るのを騎手が嫌がって先に行かせたのか、馬が掛かったのかは不明だが、少なくともこの馬場では差し切るのは厳しい。
早くも逃げ馬――エイシンバーリン以外は泥まみれになっており、やる気を削がずに走らせるのは難しいだろう。
イチゴサンデーも行く気だけは削がれていないようだが、この馬場状態ではスタミナの方が削がれていく速度が早い。
しかも、最内なので最も泥を被りやすく、スタミナの浪費が早いので厳しい状況が続く。
ただし、展開はスローペース気味でエイシンバーリンが抑えつつ走っているので、直線に入るまでに後方の馬は差を詰めないと追いつけない。
そして、直線に入り600m近くある直線を各馬が一斉に駆けていく。
イチゴサンデーは外に出そうとした瞬間に、横から来たプライムステージに進路を塞がれて一瞬だけ行き場を無くし、僅かに遅れてしまう。
これくらいの事は日常茶飯事に起こりえて、進路妨害の類にはならないのですぐさま体制を整えて、イチゴサンデーは追撃を始める。
残り400m。
ここまで最内を走らせられてきたツケが出てきており、前走のような切れ味が発揮出来ない状態。
しかし、先頭のエイシンバーリンとの差は徐々に縮まって、プライムステージと併せている状態が推進力を得ているようだ。
残り200m。
エイシンバーリンは、ここでスローペースに落として温存していた脚を使用して、逆に差を広げてしまう。
その結果、1着はエイシンバーリンで決定し、2着にプライムステージが入って、そこから半馬身遅れたイチゴサンデーが3着までだった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。