今週の競馬は2歳重賞――ファンタジーSが開催され、無事にここまで駒を進めたイチゴサンデーが3連勝と共に重賞制覇を狙う。
当初はこの勝った気性が扱い難いが勝負根性は並みの馬ではないと調教師から言われていたが、実際に牝馬らしからぬ勝負根性で接戦を物にしている。
調教師にとっては相馬眼があっても、表現は悪いがイチゴサンデーはKanonファームと言う中小牧場から誕生した掘り出し物に過ぎないだろう。
完全に走るかどうかはレースを使わないと分からないので、イチゴサンデーはキチンと結果を出したに過ぎない。
そして、今回のファンタジーSで改めて評価する時であり、ここの結果次第ではクラシック候補として名乗り上げられるだろう。
なので、秋子としてはここの勝利は是非とも欲しいレースで、クラシック路線に乗って欲しいのは口で言わなくても伝わるくらいの気迫が。
「ここを勝てば間違いなく、クラシック候補の1頭に数えられますから頑張って欲しいわ」
「そうだね。現状でも評価は高いけど重賞制覇しているとしていないのでは、
全然違うからね」
名雪は秋子の言葉に大きく頷いており、OP勝ちと重賞勝ちでは評価の差が全然違うのは事実なのだから。
「まぁ、阪神ジュべナイルフィリーズに向けての良い走りを見せてくれればここは無理に勝たなくても問題ないわ」
狙うレースはここではなく、12月に開催される阪神ジュべナイルフィリーズなので、勝ちは望んでいてもそれはあくまでも結果の1つに過ぎない。
むしろ、良い走り――最後まで叩き合いを演じて首の上げ下げで敗れたならば、運が足りなかっただけで、次に繋がる競馬は十分果たした事になる。
「問題は距離適正くらいか?」
「1800mから1400mへの距離短縮だしな。その点だけがちょっと不安って所だな」
秋名と祐一はそれぞれ距離の不安点を挙げているが、秋子と名雪の反応は少し鈍く、あまり気にしていない様子。
狙いはGⅠの阪神ジュべナイルフィリーズなので、ファンタジーSは凡走さえしなければ問題ないのだから。
「あまり距離短縮は不安になるとは思わないなー、マイル前後から中距離まで適正があると思うし」
名雪は根拠の無い言葉を吐き出すが、やけに自信があるようでその言葉には決して揺らぎが無い。
理由は? と秋名が名雪に質問をすると、質問された本人は勘と言い切って、リビングに悪意が無い複数の笑い声をもたらしてしまう。
ファンタジーSの前に本日はもう1頭のKanonファーム生産馬が出走する事になっている。
その馬はブルーフォーチュン。
前走の湘南ステークスから約5ヶ月振りの出走となるので、久しぶりにターフに戻ってきたと言える。
その時の結果は10番人気で12着と大敗しているので、今回はそれほど期待出来ないだろうが、叩きとしては十分だろう。
さて、桂川ステークスに出走したブルーフォーチュンの結果はいつもの様に逃げたのだが休み明けが祟って10着に敗れてしまった。
これで18戦目だが、勝利したのは5戦前の卯月ステークスでそろそろ引退の時期が来たのかもしれない結果であった。
続いてのイチゴサンデーが出走する重賞――GⅢのファンタジーSは、圧倒的な人気ではないが、前走と同じように相変わらず1番人気に支持。
競馬新聞には◎◎○▲○、と印は集まっているのが一目で分かるくらい支持されているので、それに合わせるようにオッズの売れ行きが良い。
「良かった良かった。とりあえず1番人気だし、コスモス賞の勝ち方は評判が良いと分かるな」
「1番人気だからと言って勝てる訳ではありませんが、安心出来る部分があるのはマシですからね」
秋子の視線はTVに向いているが、しっかりと秋名の言葉には反応しつつ同意している。
パドックではイチゴサンデーの様子が映し出され、枠番と馬体重がアナウンサーに読み上げられていた。
馬体重は前走比+6kg、と少しだけ増加しているが、調教した分が増加しただけで動きは問題無い、と実況の人が言い切る。
「問題点は無さそうだな」
「そうだね。レースまで後15分くらいか……久しぶりに重賞制覇出来るかな?」
祐一の言葉に名雪はイチゴサンデーが1番人気で尚且つ、馬体に何も問題が無い事を実に嬉しそうな表情で眺めており、重賞制覇に期待を寄せている。
そして、レース開始時間が到来し、1頭ずつ奇数番号がゼッケンを示された身に着けた馬からゲート入りをしていく。
イチゴサンデーは8枠11番と、初めて外枠からのスタートとなるので、如何に距離ロスを減らす様に走らすかが騎手の腕に掛かっている。
最後に8枠12番の馬がゲートに入ってから、数秒後にゲートが開き各馬一斉にスタート。
出遅れた馬は1頭もおらず、順調なスタートを切った後は位置の取り合いが起こって、斜行や接触をしないように大胆かつ慎重に行われていく。
イチゴサンデーは中団に位置しつつ馬群に包まれないように、やや外の辺りを駆けていた。
内に行こうとはしていたようだが、これ以上内に切り込むと予定よりも後方に位置する事になりえるので断念したのだろう。
レースの展開は平均的なペースが刻まれて淡々と進んでいるが、いつ展開がガラリと姿を変えるかは分からない。
そして、3コーナーになり各馬の動きが慌てだしく動き始めて、レースの終わりが近い事を示す。
最終コーナーに入ると、波の様に各馬が一斉に動きして、先頭を駆けている馬を飲み込もうとする勢いで熾烈な優勝争いが行われる。
イチゴサンデーは徐々に外から進出し、内にいる馬と馬体を併せて加速していく。
前を走っているのは内側に3頭、外側に3頭いるので、まずはイチゴサンデーの内を走っている馬に競りかけて、闘争心をプラスにして抜きかかる。
競り合わされた馬は徐々にイチゴサンデーに抜かされて、ズルズルと下がって行き、斜行にならない程度の突き放した所で内に寄せて更に競り合わせる。
残り200m。
最内を走っていた馬は既にスタミナが切れたのか、ゆっくりと下がっている様子が窺えて、イチゴサンデーの前を走るのは残り4頭。
ここでイチゴサンデーの馬体に鞭が入ると、勢い良く温存していた脚を繰り出して、先頭争いに参加していた3頭を一気に抜きゴールまで残り1頭。
ゴールまで後50m。
お互いに一歩も譲る様子が無く、騎手は手綱を押して鞭を振るい、馬を奮い立たせる。
そして、ゴール直前でグイッと伸びたのはイチゴサンデーで運良く、首の上げ下げで優勝を手元に引き寄せた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。