スプリンターズSの結果は意外なもので、ストームブレイカーが10番人気ながら4着に食い込んだのはKanonファームのスタッフを驚かせる結果に。
前走はマイル路線――京王杯オータムハンデで2着に入っていたが、実質的にはスプリントは向かないと思われていたのだから。
これで11月に開催されるマイルチャンピオンシップでも少々は期待出来る状況だろう。
サクラバクシンオーとノースフライトは海外遠征――香港国際競走に招待されているので、回避或いは7割の仕上がりでの出走する算段が高いのだから。
「次は11月のマイルチャンピオンシップか、今年の京都金杯で同距離を制しているし心強いな」
「ええ、確実にチャンスでしょうね」
ノースフライトは10月最終週のスワンSからの始動で、マイルチャンピオンシップとの間隔が中2週なのだから、海外も視野に入れると厳しいだろう。
まだ2ヶ月も先の事なので、現状ではこの話は無意味に近く、あくまでも秋子と秋名の願望なのだから、楽観的な予想になるのは仕方ない。
「それよりも、今月に出走しそうな馬は何がいるの?」
まだ下半期になって復帰していない馬はミストケープ、ブルーフォーチュン、ヤマトノミオ、ホワイトウインドとダンシングウイナーの5頭。
そろそろ復帰しないと長期休養明けになってしまい、レースがまともな状態
で走れそうもない状況になってもおかしくないのだから。
因みにホワイトウインドの復帰戦だけは決定しており、福島競馬場で開催
される相馬特別に出走予定。
名雪が疑問を浮かべるのは尤もで、秋子も気になっているのだがローテーションには口出ししない方針なので、馬の調子に合わせての復帰を待つのみ。
競馬新聞を隅まで読むと、ようやくダンシングウイナーに関するコメントが掲載されていた。
「えっと、今週の土曜日に復帰予定となっていますね……うちにはまだ連絡が来ていないのが気になりますね」
「たまたまかも知れないし、もうちょっと電話を待ってみるか、こちらから電話してみるしかないな」
そうですね、と秋子は不承不承に頷き、優勝カップが置いてある場所とは別のサイドボード上に置かれている受話器を取り、調教師に連絡を入れる。
電話を掛けると、数秒もしないうちに調教師が受話器に出て秋子はダンシングウイナーの事を質問する。
すると、返答された答えは単純なものでギリギリ直前に提出したらしく連絡するのが遅れただけらしい。
「特に意図的なものでは無いんですよね?」
秋子が確認をすると、調教師は堂々と反論して言い切ったようで仕上がりも十分出来上がっている事をほのめかしている。
「その言い方だと、今回はあっさり勝利出来ると予想してよろしいですか?」
秋子の表情はニコリと笑みが浮かんでおり、調教師は電話越しで苦笑いを浮かべているのが想像出来る位、秋子の予感はあっさりと的中したのだろう。
「……では、期待しておきますね」
そう言って秋子は受話器を戻して、秋名と名雪に調教師の事情を説明し納得させる。
「その日はホワイトウインドも出走だったよね? 上手くいけば2勝出来るかも」
「そうだったな。まぁホワイトウインドは普段の成績がいまいちだし、過度の期待は出来ないな」
休み明けとなるし、体調が良くなっても元の成績が悪いホワイトウインドは秋名としては期待しにくい馬。
秋子もそれほど期待していないようで、どちらかと言うと白毛――特別な毛色だけが見所な馬とも言える。
「私はあまり期待出来るとは思えないんだがな……まだダンシングウイナーの方が良いと思う」
「そうかな? まぁ、走ってみないと分からないのも事実だけど」
と、名雪は秋名の言葉に小さく首を傾げつつ、ホワイトウインドの好走を期待している表情を浮かべていた。
そして、レース当日の土曜日になり、まずは未勝利戦に出走するダンシングウイナーからレースが行われる。
共に福島競馬場で復帰するので、場所柄手薄なメンバーだが確実に勝利出来る可能性を考えると、悪くは無い選択でもある。
勝ち癖を付けるために併せ調教で先着したりして、レースで奮わせるためでもある。
そして、ダンシングウイナーの結果は調教師が公言したように、芝1200m戦で2着に半馬身の差を離して見事に勝利。
これで500万下のクラスになり、次走からはOPクラスを目指して調教をする事になるだろう。
ホワイトウインドの方は久しぶりのダート戦となる相馬特別――距離1150m戦に出走。
こちらは苦戦したもの、上手い具合に展開がはまったのか8番人気ながら首差凌いで見事に2勝目を上げた。
「あっさりと勝ち上がったな」
「ホワイトウインドの方はあまり期待していなかったんですけどね……ともかく、今日は名雪の予想がバッチリと的中しましたね」
秋子は降参のポーズを見せて、名雪は勝ち誇った表情が顔に滲み出ているのを気にせず、ニンマリと口端を吊り上げていた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。