サンサンと太陽が地面を照らし、空はキャンパスに青いペンキをぶちまけてその上に幾多の様々な形のサイズの雲が浮かんでいる。

     即ち、夏の到来であり、日本各地では気温が30℃を越えたなどのニュースが連日行われていた。

     競馬で夏の到来と言えば、ローカル競馬の開催であり、現在は3馬場――札幌、新潟と小倉で開催中。

     夏競馬の格言らしく、今年は牝馬と芦毛の馬がそれなりに成果を出しており、中には度々万馬券の演出もされる状態。

     Kanonファームがある北海道日高地区も夏の到来で本州に比べると涼しげなだが、牧場にとっては2歳新馬戦が開催される日々なのだから。

     何処の牧場も自家生産馬である2歳馬が走るかどうか懸かっているので、一喜一憂の声――主に憂鬱な声が風に運ばれて空に掻き消えていく。

     新馬戦を勝利出来るのはほんの一握りで、負けた馬――1着以下は未勝利戦から1着を目指さなければならない。

     ローテーションの狂いも出てくるし、何よりも新馬戦と未勝利戦では1着の本賞金に違いがあるので、出来れば新馬戦で勝利したいのは何処の牧場も同じ。

     だが、今年の新馬戦は異変な状態になっており、1頭の新種牡馬が新馬勝ちを独占してしまっている。

     本来ならバラエティー色が強い新馬戦――芝馬、ダート馬、短距離馬、長距離馬など色取り豊かなレースが多かったが、今年はまったく様子が違う。

     大抵の新馬戦はベテラン種牡馬の産駒が人気になって勝利していたが、1頭の“新”種牡馬が勝ち鞍をドンドン稼いでいる。

     その種牡馬の馬名はサンデーサイレンス――アメリカクラシック2冠とブリーダーズカップクラシックを制したアメリカの名馬。

     イージーゴアとの死闘がベストレースに選ばれており、狂気の馬と呼ばれる程の気性難と力強さを併せ持っていた。

     だが、血統が2流だったのでアメリカで種牡馬入りは果たしたが、2冠馬とは思えぬほどの冷遇だったので、日本に売却された経緯がある。

     実際にまだ2歳重賞が行われていないのだから、そこで結果を出せば改めて評価は変化するだろう。

     既に新馬勝ちを果たしたサンデーサイレンス産駒はフジキセキ、プライムステージ、キタサンサイレンスと快挙にいとまがない。

     他にも未勝利勝ちをあっさりとクリアしている産駒もおり、2歳重賞は早くもサンデーサイレンス産駒が達成するかもしれない。

     さて、Kanonファームも1頭のサンデーサイレンス産駒が生産されており、現在はイチゴサンデーと珍名を付けられているが、デビュー前の評価は上々。

     今週デビューとなるが、牝馬らしからぬ力強い走りは各競馬新聞が◎を推すくらい素晴らしい動きだと窺える。

     秋子はイチゴサンデーの短評部分を読みつつ、競馬記者が打った印――グリグリの◎が5つを見てニコリと表情を崩す状態。

     短評部分には絶好調と単純な評価となっているが、他の馬は単穴などになっている中で、この評価は十分なもの。

     走るかどうかはレースにならないと不明だが少なくとも、どの競馬新聞も勝利を期待しているのが窺える印象。

 

    「んー、どうなるかな?」
    「気性難だし、入れ込まなければ勝てると思うが」

 

     イチゴサンデーの単勝は2.5倍と圧倒的人気ではないが、1番人気なのは変わりない事実。

     出走するレースは新馬戦だが牝馬限定ではなく混合戦なので、ここまで人気になってしまうと逆に心配になってしまう。

     2歳時は牡馬と牝馬の差がそれほど無いとは言え、競り合いや馬群に包まれる状況になると牡馬の方がアドバンテージはあるのだから。

     秋名と名雪はこれほど心配になる新馬戦を観戦するのは初めてなので、ちょっとばかり表情が硬い。

     さて、その新馬戦のパドックでは牡馬を蹴散らすような動きで厩務員を引っ張り、堂々と闊歩していた。

     入れ込んでいる様子ではなかったが、パドックからこれだけの動きをしてしまうと、レース前に体力を消耗してしまう恐れがある。

 

    「……本当に大丈夫かなー」
    「……ここまで気性が勝っていると不安だ」

 

     と、二人がぼやいている間に札幌競馬場の芝1800mで行われる新馬戦のゲートが開く。

     イチゴサンデーはスッと上手いスタート切るわけでもなく、ちょっとだけ出遅れた形でゲートを出る。

     出走頭数は12頭立てで、ごちゃつく心配は殆ど無いので騎手はあえて後方からレースを進めるようだ。

     1800m戦は2歳馬にとっては長い距離なので、如何にペースを慣らすかが今後に繋がるための布石である。

     レースは淡々と進んでいるが、全頭が初めてレースに出走する2歳馬なので見た目以上に過酷な展開。

     1000mの通過タイムは1:01.2と2歳馬にとっては平均的なペースで、最終的には1:50秒後半で決着するだろう。

     残り800mの間にはレースが動く事無く、直線前の3コーナーと4コーナーの中間辺りからイチゴサンデーが徐々に位置を上げたくらい。

     そして、直線に入った所で今までリズム良く走っていた先頭の馬がジワリと2番手以降の馬との差を広げ、逃げ切りの体制に入る。

     直線の距離は266mしかないので、あっさりと達成するかと思われたが、外からイチゴサンデーが猛獣のようにしなやかな動きで猛然と追い上げる。

     後方から上がっていくのは他馬の馬体を視界に収めて、気性が勝っている部分を利用した騎手の腕前があったからこそ。

     そして、残り50mの間にイチゴサンデーは相手を追い詰める様な走りで先頭の馬を捕らえ、頭差だけ抜け出したところがゴールだった。

 

 

     戻る      

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:フジキセキ……この時点ではまだ新馬勝ちのみ。
     注2:キタサンサイレンス……サンデーサイレンス産駒の初勝利を築いた馬。
     注3:プライムステージ……半兄にステージチャンプがいる。