皐月賞の結果はKanonファームにとっては納得出来る着順――2着だったのはクラシック出走馬の中では初の出来事。

     勝利したナリタブライアンとの力差は非常に高い壁だと実感してしまったが、この結果ならば、日本ダービーでも楽しみが出来たのは確か。

     ただ、距離が皐月賞から400mも伸びた2400mになるので、ちょっと厳しいという見解もある。

     皐月賞2着になったのでダービーへの出走枠を得たのは確定しており、後は日本ダービーの時に体調が100%へとなる様に調教師が仕上げるのみ。

     決戦まで後1ヶ月と10日ほどの期間しか残っていなく、その期日までに仕上げるのに調教師の腕が問われる。

 

    「後1ヶ月ちょいか……待ち遠しいな」
    「今から一進一退を聞いても心労が重なりそうですよ」

 

     秋子は小さく肩を竦めつつ、嬉しさが混じった表情で吐息を吐き出す。

     来月の上旬には天皇賞・春にはミストケープが出走するので、今年のKanonファームの重賞勝ちは現在1つしかないが、運は上昇しているのだろう。

     だが、実際の本年度勝利数は3勝と去年よりも同時期の勝利数が3勝分減少しているのが実態。

     なので、成績が向上しているかと言われれば微妙な結果とも言えるだろう。

 

    「そういえば、2歳馬の様子はどうなんだ?」
    「イチゴサンデーとフラワーロックの92――ダンシングウイナーは5月頃に厩舎に入厩出来るみたいですよ」
    「イチゴサンデーはうちでは珍しく栗東に入厩だったな」
    「そうですね……どこまで期待出来るかは分かりませんけど、折坂調教師が期待しているみたいですし」

 

     と、2人は育成牧場で調整中の2歳馬2頭の事を考えつつ、先日の皐月賞の結果が載っている競馬新聞を読み始める。

 

 

     何処の競馬新聞もナリタブライアンの勝ちっぷりを賞賛しており、堂々と紙面トップがゴールした瞬間の大見開きで掲載されている。

     レコードタイムのオマケ付き――1:59.0は去年のナリタタイシンよりも0.8秒も速く、歴代中山芝2000mタイムを0.5秒も塗り替えた。

     それぐらいの圧勝なので、どの競馬新聞も取り上げ方が大胆的になるのは当然。

 

    「やれやれ、とんでもない馬がいる時代に産まれたのは運が悪かったとしか良い様が無いな」

 

     パシン、と秋名は軽く手の甲で競馬新聞を叩きつつ、素直にナリタブライアンを賞賛する。

     3歳馬ながら、古馬も含めた中山芝2000mのレコードタイムを更新するのは安易ではなく、実力が無ければ到底不可能な事なのだから。

 


    「でも、産まれていた時代が違っていてもタイフーンが皐月賞を勝利出来た可能性は低いかもしれませんよ?」

 

     例え、ナリタブライアンがいなくてもタイフーンの癖が直らない限り、同じ様な着順になっていたかもしれない。

     そういう意味で秋子が秋名を咎めるが、当の本人は気にした様子ではない。

 

    「来月の天皇賞・春にはビワハヤヒデが出走するんだよな……うちもアレ位の繁殖牝馬が欲しいな」

 

     ビワハヤヒデとナリタブライアンは半兄弟で、如何に母のパシフィカスが優秀な繁殖牝馬かが窺える。

     だが、日本に輸入されるまでの産駒成績は特に芳しくなく、日本の土が合っていたからこそ、日本で数少ない兄弟G�祇�覇を達成出来たのだろう。

 

    「ウインドバレーとタイフーンだって兄弟なんですから、兄弟G�祇�覇は不可能でも兄弟重賞制覇はあるかもしれませんよ?」
    「まぁ、そうなんだけどな。やはりクラシック兄弟制覇が可能な繁殖牝馬は海外で購入しないと駄目かもしれないな」

 

     まずはクラシック制覇をする事が目標になるが、現状のKanonファームに居る繁殖牝馬では厳しいと言える。

     最近は輸入繁殖牝馬の数が増加しており、日本に根付いた繁殖牝馬の血統では太刀打ち出来ない事がクラシック路線で続いている。

     まだ輸入されている数が少ないので、今のところは大丈夫だが来年以降は輸入繁殖牝馬の大攻勢になってもおかしくない。

     大手牧場がちょくちょく見繕った繁殖牝馬を購入して、在来牝馬の存在が擦れる様になってきているのも事実。

     だが、繁殖牝馬の底が上がれば日本競馬が海外競馬で善戦出来る様になるのもまた事実なので、安易に非難は出来ないのが現状。

     そういう点でもフラワーロックはKanonファームの繁殖牝馬成績を底上げしてくれた名牝とも言える。

 

    「だから、そろそろ海外に繁殖牝馬を買いに行ったらどうだ?」
    「ん……だとしたら欧州ですね」

 

     欧州もノーザンダンサー系は繁栄しているが、マイナーな血統もまだまだ 継続している事が多く、特にドイツはマイナー血統の宝庫。

     ブームの血統は殆ど無く、古き良きの血統を育てているのでタフネスな馬が多いのが特徴。

     そういう訳でドイツはある意味、競馬の孤島状態だが特に問題が無い様で流行の血統を取り入れる事は消極的。

     秋子はドイツで買ってくるのも良いかもしれませんね、と一言呟いてから、コーヒーカップを手に取った。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:パシフィカス……父はノーザンダンサーで当時の購入金額は凡そ520万だった。