4月になり、春の息吹が日高地区に到来し新たな草木や花の香りが鼻をくすぐる。

     仔馬の嘶きが聞こえるようになり、どの牧場も大詰めとして今年に行う種付けの為に慌しく、繁殖牝馬を馬運車に乗せて東西の牧場を目指す。

     昔は道路整備がされていなかったので、往復するのが非常に困難を極めていたが、現在は綺麗に整備されたアスファルトの道を通るので楽な方。

     それでも全ての種牡馬は一箇所の牧場にいる訳ではないので、お目当ての種牡馬との種付けの為には移動を繰り返さなくてはならない。

     Kanonファームでは秋子と秋名が交互に繁殖牝馬を連れて種付けに回っている。

     が、4頭の繁殖牝馬を仔馬と一緒に連れて行くのは精神的な問題が起こるかもしれないので常に気が抜けない状態が続いている。

     近郊だったら安心出来るが、静内や千歳にある大手牧場に向かうとしたら1時間以上も馬運車に揺られているのは仔馬も大変だろう。

     さて、そんな中でkanonファームの今年種付けした配合は以下の通りになった。

 

 

     フラワーロック×ダイナコスモス。

     傍流に位置する血統で最終的にはダンテ系に遡り、今や風前の灯と言えるほど細々としている。

     ルリイロノホウセキ×アイネスフウジン。

     数ヶ月前に秋子が話していた配合で、産駒のスタミナを補うために選ばれたと言っても過言ではない。

     エレメントアロー×アジュディケーティング。

     本来ならアジュディケーティングはフラワーロックに配合する予定だったが、ノーザンダンサーの3×3になってしまうので、アウトブリードの本馬が選出。

     サイレントアサシン×キャロルハウス。

     キャロルハウスは凱旋門賞を制した名馬で、サーゲイロード系とテスコボーイ系の配合はスプリングS馬のナルシスノワールが居る。

     ファントムのみは今年の10月に行われる繁殖牝馬セールに売却するので、種付けをしていないので普段よりも種付け料が少なく済んでいる。

     因みにメジロライアンとイブキマイカグラは選出から外れ、ノーザンテーストの血統を持っているのが選ばれなかった理由の1つ。

     特にフラワーロック、ルリイロノホウセキ、サイレントアサシンは母母父がノーザンダンサーであり、厳しくなってしまうので急遽変更した。

     とは言え、フラワーロック×ダイナコスモスはノーザンダンサーのクロスが発生するが奇跡の血量である3×4となっている。

     他の馬でもなるのはなるが、クロスは危険性もあるので全頭に同じような配合をする事は厳しい。

 

    「結局、当初の予定通りには行かなかったな」
    「……毎年の事ですけど、そんなもんですよ」

 

     後は無事に受胎してくれる事を待つのみで、最近の技術では凡そ2週間後には止っているかが確認出来るほど進歩している。

     そのため、繁殖牝馬に掛かる負担が劇的に減り、出産時はともかく今までよりも安心して受胎確認が行われるようになった。

     秋子は壁に掛かっている時計を見上げ時間を確認すると、時計の針は短針が3を指し、長針が5と6の間を指していた。

 

    「さて、そろそろレースの時間ですね」
    「ミストケープの復帰戦だし、ここの結果次第ではローテーションが変わるからな」

 

     復帰戦は日経賞で距離2500mと、ステイヤー寄りのミストケープには向いているレース。

     ただ、去年の日経賞は5番人気ながら8着と敗れており、直線に入ってから付いていけずに置いていかれた格好を見せ付けてしまった。

     あれから1年経ち、その間に目黒記念、エリザベス女王杯を制して一流馬と成長している。

     今までの実績を試すには丁度良い場所であり、去年の雪辱を果たす舞台でもあるのだから。

     さて、現在の人気は2番人気と1番人気の座はライスシャワーに譲っている。

     マチカネタンホイザも出走しており、去年の目黒記念に近いメンバー構造で、新興勢力としてステージチャンプが4番人気に。

     ライスシャワーと同じくリアルシャダイを父に持ち、去年の菊花賞から急激に成長したタイプなのも同じ。

 

    「今回のライバルはステージチャンプですかね?」
    「母のダイナアクトレスはマイルから中距離向けだったけど、ここまで子が長距離向けになるとは私は思わないな」

 

     と、秋名は自分自身の考えを述べて、秋子を苦笑いさせてしまった。

     秋子が考えている配合は、まさに長距離馬のステージチャンプが理想とも言えるのだが、簡単には成功しないだろう。

 

    「と、残りは1000mと言ったところか……6番手辺りだしチャンスはあるか」

 

     ミストケープは指定席である中団よりもやや前に位置して、ハイペースで逃げ切りを図るツインターボのエンジンが切れるのを窺うような状態。

     そして、残り600m付近からズルズルとツインターボが下がってきており、脚を残していない証拠でこれを機に殆どの馬が激流の勢いで上がってくる。

     真っ先に動いたのがライスシャワーであり、後を続くようにミストケープとマチカネタンホイザが追いかけ、ワンテンポ遅れてステージチャンプが。

     どの馬も極限のステイヤーとして名を馳せており、一歩も引く事が出来ず、残り距離が100mになっても競り合いは止まらない。

     そして、4頭が殆ど差の無い形でゴールイン。

     結果はワンテンポ遅らせたステージチャンプが鼻差の1着で、続く2着は復活の兆しを見出したライスシャワー。

     3着は、4ヶ月の休み明けながら上位2頭に首差まで追い詰めたミストケープで、マチカネタンホイザは1/2馬身の差と極めて高レベル結果に。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:ステージチャンプ……母がダイナアクトレスと良血なのだが、その点が弱いのか、日経賞を勝つまで2勝馬だった。