テーブルの上を全て覆いつくす程の紙面が大量にドサドサと置かれて、その紙の一面には派手な文体が踊り、デカデカと馬の写真が一面を飾っている。
この紙は全て競馬新聞で、先週に行われたG�機宗愁┘螢競戰構�王杯の結果を乗せているのだから別におかしくも無い。
おかしい事と言えば、大量の競馬新聞が綺麗に整えられてテーブル上に並べられている事である。
そう、これが一般家庭なら有り得ない事だが、ここは生産者兼馬主である人物――水瀬秋子が住むKanonファームなのだから。
「ふふっ、これでG�犠〕�は3つ目ですね」
まさに秋子の表情は天に昇ってしまいそうな、と言っても良いほど恍惚としたもので、その表情を見た者を虜にしてしまう魔力を持っていた。
秋子が恍惚となるのは無理も無く、自家生産馬がG�気鰺ゾ,垢襪里�Kanonファームの長い歴史の中でも初なのだから。
しかも、血統は古くからKanonファームの先代――楠牧場から繋がっているのだから秋子でも感傷深くなってしまう。
母エターナルの血統は父タケシバオー、母父シンザンと現在のスピード競馬には骨董品と言われそうな無骨な血統。
だからこそ、豊富なスタミナと丈夫さ馬体を有したミストケープが誕生したのは道理とも言えるだろう。
秋子が気にいっている血統でもあったが既に売却してしまったが、後継牝馬がミストケープを含めて3頭居るので、今の所は安泰である。
サイドボードには光り輝く新たな優勝カップがドンと置かれて、その横にはエリザベス女王杯の優勝を示すレイが掛けられていた。
その優勝レイは第18回エリザベス女王杯と文字部分が金糸で編み込まれて、それ以外は赤い布で作られている。
「いやー、強かったね。ホクトベガを頭差に押さえ込んで、良血のベガを寄せ付けなかったし」
「そうだな、この走りが見れたのは非常に満足だ」
ミストケープの走り方は実に1番人気の馬が勝負を受け立つ為に3コーナーから最終コーナーの中間から一気に仕掛けて押し切り勝ちだった。
豊富なスタミナが無くては出来ない方法で、ステイヤーの血脈が見事を活かした騎手の腕も良かっただろう。
秋名の手元には琥珀色に輝くウイスキーがグラスに注がれており、気分良さげにロック・オン・ザ・ロックを一気に呷る。
名雪もご満喫のようで、いつもより言葉使いが幾分と和らげになっているが、“良血”の部分だけは強調して毒舌が放たれた。
ホクトベガはどちらかと言うとマイナーであるナグルスキーを父に持つので、名雪の毒舌からは対象外にされたようだ。
「強かったのは良いけど、この後は有馬記念に出走して引退ですか?」
祐一は秋子に疑問点となる事を質問しているが、ミストケープは来年で6歳になるのだから、祐一がこの事を質問するのはおかしくも無い。
んー、と秋子は手に持っていたグラスをテーブルに置き、人差し指を軽く顎に添えて考え始める。
暫し、やや赤みを帯びた頬が魅力的に映りえる表情を浮かべつつ、秋子が出した結論は来年も現役続行するとの事。
「今年の1月から急激に強くなっていったので、来年1年くらいなら問題ないでしょうし、出走レースも多く走らないと思います」
今年は重賞のみを連戦し、来月出走予定の有馬記念を含めて7戦も走っているので走りすぎの感もある。
まぁ、有馬記念はファン投票で出走馬が決定されるので選ばれつつ、上位に入らないと厳しい。
とは言え、ミストケープは重賞――G�僑仮,硲猫気鬘韻直〕�しているので選出される可能性は非常に高いだろう。
TVには録画していたレースシーンが何度もリピートされ、繰り返されているが、誰も気にせず何度もみ続けていた。
最後の1回だけ録画したレースを見て、ゴールの瞬間にスタッフを含めた6人が中身の入ったグラスとコップを掲げ乾杯を。
宴が終わると、秋子は1人リビングで薄いピンクのカーディガンを羽織ってソファーに腰を下ろし、やや古びたノートを開く。
「最近の生産馬の結果は、と」
サンシャインレディは夏の間に1600万下から降級し、現在は1000万下を走っていたが、紅葉特別を勝利し再び1600万クラスに。
ブルーフォーチュンは現在1000万下クラスだが、壁が高いのか苦戦中と言った所だろう。
出走したレースは堀川特別→1000万下だったが結果はそれぞれ、7着と5着とそこそこの見所を見せてくれた。
皐月賞に出走したエアスパイラルは山中湖特別で勝利し、エリザベス女王杯の同日に行われた清水Sに出走したが結果は着外で12着と惨敗。
Kanonファームの生産馬で現時点唯一のダート馬であるヤマトノミオは天王山特別で4着、フルーツラインカップで見事に勝利を得た。
とにかくダート短距離――1000m〜1200mで走るようで、ようやく距離適正が分かったと言える。
最後に2歳馬勢を。
タイフーンは元々実力がある馬なので、デイリー杯2歳Sの後は福島2歳Sに出走し、圧倒的なスピードを見せ付けて2勝目を。
今後の予定はラジオNIKKEI杯2歳Sに出走し、距離適正とクラシックの為に実力を測る。
そして、白毛馬のホワイトウインドは観客からのフラッシュを防ぐ為に、ブリンカーを装着しつつ、念には念を入れてローカルの福島で再始動。
すると、ギリギリだったが鼻差だけを凌いで白毛馬初の中央競馬での勝利を達成し、観客を再び沸かせてしまう人気を覗かせた。
「結構良い成績で来ているし、12月もこの調子を維持して欲しいわね」
秋子は小さく欠伸を洩らしつつ立ち上がると、リビングの電気を消して自室に戻って行った。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。