夏の暑さが9月になっても引き続いており、残暑が厳しい日々が暫し続く事を予感させる暑さ。
そのため、夏バテの馬が増えて帰厩させる時期がずれ込んだりして、復帰
レースの変更をせざる得ない馬がいるのが現状。
それでも北海道で放牧されていた馬は本州の気温と湿度の違いで、体調は十分と上向きになった馬が多い。
美浦と栗東にあるそれぞれのトレセンで馬体を緩めず、地獄のような暑さの中で調整されていた馬もいるが、その中の代表としてはビワハヤヒデが。
厩舎の中に氷柱を設置して暑さを凌いでいた様で、その時の調教成果は神戸新聞杯で分かるだろう。
さて、Kanonファームの生産馬達は、ゆっくりと過ごしていた1ヶ月ほどの夏休みに別れを告げて再び戦場に向かっていった。
「んー、これでまた暫く牧場が寂しくなるね」
「でもこれで仕事が終わった訳でも無いがな」
殆どの馬が帰厩した放牧地を厩舎の中から眺めてから、名雪はしんみりと寂しげに一言呟く。
秋名もそうは思っているようだが、やはりと言うか他の放牧地を見て溜息を吐いてしまうのは馬の数が増加した事に起因する。
放牧地が空になってもまだ1歳馬と0歳馬、繁殖牝馬が居るので仕事自体が楽になる事は無い。
「まぁ、帰厩した分が居るだけ、ほんの少し楽になるだろう」
Kanonファームには既に帰厩した馬の数を合わせて17頭居たのだが、現在は6頭が帰厩し残りは11頭。
スタッフが2名居るので、少なくとも1人当たりの負担は軽減されているのは喜ばしい事に違いない。
「さて、と……休養後の復帰戦を見に行くか」
「ストームブレイカーがニューマーケットCに、タイフーンがカンナSに出走だったね」
どちらも人気を博しており一番人気ではないが、実績面の裏づけでは一番人気になってもおかしく無いだろう。
ただ、タイフーンは距離こそ前走と同じ1200m戦だが、初の中山に坂の走りなど初めて経験する物が多いので、ある意味後に向けてのテストだろう。
調教の坂路コースでは物ともせず走りきってしまう走力を持つが、実戦は展開や相手関係、運などの要素が絡み合って走るのだから結果は不明。
「タイフーンは意外と走るんじゃないかな?」
「どうだろうなー、せめてマイル前後は持つと良いんだが」
秋名は思案と願望を合わさった意見を口に出すと額から滴り落ちる汗を軽く拭いつつ、厩舎から出るために踵を返す。
と、2人は放牧地に隣接している厩舎から離れて、お互いに競馬談話を講じながら家に戻って行った。
まずはタイフーンが出走するレース――カンナSが行われる。
圧倒的なスピードを持つタイフーンは今回もキッチリと綺麗なスタートを見せて、前走と同じ様に3〜4番手でレースを進める。
先行は最も有利に競馬を進めやすい脚質で展開によっての惨敗はあるが、安定した成績を出せるのがウリ。
同じ様に差しも実力馬が多く使用されており、逆に安定が悪い脚質は展開に
よって大きく変わる逃げと追い込み。
閑話休題。
タイフーンは気分良さそうにスムーズな走りで相変わらず4番手をキープして、先頭を走っている馬の様子を窺っているようだ。
「結構良さそうな位置取りですね」
「ペースも平均だし、上手い具合に抜ければ勝てそうだな」
現在は4番手を駆けているが、1枠1番からのスタートだったのでやや囲まれた状態になっているのが現状。
後ろには下がれないし、ガッチリと壁になっているので前にも出られない状況だがタイフーンは怯えた様子を見せていない。
そして、残り600mを示すハロン棒を過ぎて、レースは終盤が近付いてきた。
現在は最終コーナーと3コーナーの中間辺りを各馬が激しく、位置取りを奪い合いレースが動き出す。
タイフーンの騎手は相変わらず、手綱をガッチリと握ったまま壁が開くのを待ちの一手で耐えるのみ。
そして、4コーナーを回った所で壁がポッカリと開き、タイフーンを突っ込ませると勢い良く脚を伸ばす。
その勢いを活かし、一気に先頭に立つがまだゴールの前には門番――中山名物の坂が立ち塞がっている。
勢いは削がれるが、加速した脚はキチンと芝を捉えて、少しずつゴールに近付いていく。
馬場の中央付近から最後方に位置していた他馬も一気に駆け上がって、タイフーンに馬体を合わせて競りかける。
そして、僅かな差――首差でタイフーンは敗れてしまったが、十分見所のある走りを見せ付けた。
因みにストームブレイカーの方は見事に快勝し、次走は出走予定の毎日王冠に駒を進める事になった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。