ホワイトウインドが敗れた1番の原因が競馬新聞の一覧に詳細が書かれていた。

     それはパドックでカメラのフラッシュをたかれた事が原因で、TVでは放送されていなかったが、パドックに馬体を出した瞬間に多数のフラッシュが。

     馬は臆病な生き物なので、傘などが開いた瞬間に立ち上がってしまう事が度々あるくらいなのだから、フラッシュは更に恐ろしいと思われる。

     この様な状況が起きてしまったので、競馬協会は何かしら対策を行う筈だが、どう考えても完全に防ぐ事は不可能。

     極端な例を挙げると、パドックを無くすという強引な事ぐらいでしか防げないので、警備員にプラカードを持たせて対策を練るしかない。

 

    「……まったく、どこの誰がフラッシュを使用したんだか」

 

     怒り心頭の秋名のこめかみには太い青筋が浮かんでおり、噴火寸前の火山を思い立たせるような状況。

     ドン、と握り拳で叩かれたテーブルは上に乗っていたコーヒーカップの中身を飛び散らせて、染みをいくつも作る。

     秋子は秋名の事を止める気は無い様で、コーヒーカップを口に付けつつ静観しているが、怒気が抑えられない様で眉間に深い皺が刻まれていた。

 

    「実力の差で負けるなら納得ですが、人為的な理由は最悪です」

 

     秋子の語尾は非常に辛辣で、トゲが突き出ていると比喩しても良い位で怒り心頭だという事がはっきりと窺える。

 

    「せめて、一般的な事ぐらいは覚えてから来て欲しいねー」

 

     名雪も語尾を間延びして話しているが、その表情は真顔のままでピクリとも瞼と眉が硬直していた。

     祐一は行き当たりが無い、とばっちりがいつ自分に降りかかってくるか怯えた表情で3人に囲まれた状態でソファーに座っていた。

     因みにぴろは既に元野生だった時の感が冴えたのか、この場から退避済みなので被害を受ける心配は無いが、祐一だけが生け贄として捧げられた。

     祐一の心境としては裏切り者に向かって叫びたい筈だが押し留めて、この重々しい空気を解消する為に口をゆっくりと開く。

 

    「えっと……これからの対策を練った方がよろしくないでしょうか?」

 

     祐一は恐る恐る口を開くと、先程よりも重々しかった部屋の空気が      和らいだ様だ。

 

    「祐一君の言うとおりですね……では、どの様な対策がありますか?」
    「珍しく祐一から意見が出たけど、深めのブリンカーを装着させるが1番良いと思う」
    「或いはホライゾネットもありだな……本当に珍しいな祐一からの意見は」

 

     ブリンカーは遮眼革と言いメンコの目の部分にくっ付けて、後方を見えなくする為にある馬具の一種。

     ホライゾネットはブリンカーと同じ様に目の周りを覆うが、こちらは網状で作られており装着すると某ヒーローの様な格好に近くなってしまう。

     簡単に言えば、どちらも入れ込みや気を抜く馬に使用する為の馬具で、着けた途端に好成績を挙げる馬が出てくる程、効果は適している。

     と、これでトントンと話し合いは進んで、後はどちらかを装着させるかだけの議論を進めるのみ。

     そして、ホワイトウインドにはブリンカーを着けることで1つの決着が付いた。

 

    「今日は祐一君の案が無ければぐだぐだになっていましたね」

 

     と、秋子は本音を語ってから、祐一にお礼を言った。

 

 

     本日のレースにはタイフーンが新馬戦に出走する。

     タイフーンの血統はキンググローリアスを父に持ち、同期には来年に産駒デビューするサンデーサイレンスや超良血のイージーゴアが。

     クラシックを期待された逸材であったが、故障を発生して9戦8勝の成績で日本に渡ってきた。

     父系はミスタープロスペクター系なので、タイフーンの半兄であるウインドバレーとは似たようなタイプになると思われる。

     そして、現在の人気は3.2倍の2番人気。

     出走するレースが函館芝1200mなのが影響していると思われ、ウインドバレーがダート馬だったからか、タイフーンもその見解が多い様だ。

 

    「うーん、意外と筋肉質な馬体だね……ダート向きじゃない?」

 

     TVに映っているタイフーンの馬体全体図をジックリと見つつ、名雪は一言洩らす。

     特にタイフーンは肩の筋肉がガッチリと付いており、蹄と球節の間の繋は長めで寝ているので短距離路線向きだろう。

 

    「昨日のホワイトウインドよりも走りそうな馬体ね」
    「そうだな……早熟じゃない事を祈っておくか」

 

     と、秋名が感想を洩らすと同時に各馬がゲートに怯えたりしつつ、全頭がゲート入りをしていく。

     スタートが切られると同時に2頭ほど出遅れた馬がいたが、タイフーンは綺麗にゲートから出て4番手からレースを進める。

     出走頭数は10頭と少なく混戦になる事もないので、道中はスムーズに立ち回れる。

     しかも、短距離戦なので位置取りが圧倒的に重要となり、既に出遅れた2頭は終わったので実質的に8頭立て。

     1200m戦はあっという間にレース終盤となり、262mと短い直線を各馬が駆けていく。

     タイフーンはスッと無駄が無い動きで2番手に上がって、騎手が鞭を入れる事も無く加速していく。

     残り100mの時点で先頭に立ち、後は疲れが出ない様に騎手は手綱を絞り、そのままゴールイン。

     2着馬に付けた差は1・1/2馬身とそれ程離れていないが、最後は手綱を押さえていたので、完勝と言っても良い結果だった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。