ミストケープが目黒記念を制覇した事でkanonファームは既に上半期で3つ目の重賞を得た事になった。

     そして、この勝利によってミストケープは一気に評価を上昇させ、クラシックディスタンスでは上位の実力を有しているのが分かった。

     さすがに生粋のステイヤーであるライスシャワーやメジロマックイーンと3000mのレースで対決させると勝てる見込みは0%だろう。

     一応、ミストケープもステイヤーと呼ばれても良い馬体だが、上記2頭より遥かにスタミナは劣っている点が挙げられる。

     基本的に2200m〜2500m前後が、ミストケープがスタミナを持続出来る距離と思って良い。

     なので、今回の勝利は展開に嵌った感じはそれ程無く、むしろ実力で勝利したと言い切れるだろう。

     今後のローテーションだが宝塚記念に出走する意思はあるのだが、ファン投票で出走が決定するので票数次第では秋まで全休の可能性が高い。

     目黒記念の疲労はG�鞠呂離薀ぅ好轡礇錙爾魏爾靴燭里芭�まりきった状態で、体調次第ではファン投票で出走出来る状況でも回避の算段はある。

 

    「いやー、まさかキッチリと差し切ると思わなかった」
    「やはり2500m付近なら、安定した走りをしてくれるみたいですね」

 

     秋名はサイドボードの上に飾られている新たな優勝カップが優雅に存在を見せつけている。

     今年の上半期だけでG�毅云 棕猫僑仮,蛤�まで燻っていたのが、嘘の様に重賞を勝利しているのは非常に珍しい。

 

    「うーん、エターナルは売却しない方が良かったですかね?」
    「どうだろうな、今回は巡り合わせが良かっただけで、もう一回ムクターを売却先が付けても走るとは限らんし」

 

     秋子は苦笑いをしつつ自身の判断が誤算だったかを秋名に問うが、成否は秋名だって分からないのが事実。

 

    「まぁ、売却したエターナルの産駒に頑張ってもらえば、エターナルを生産したうちも評価が上がるだろう」

 

     と、秋名は根拠が無い事を自身持って言いつつ、立ち上がり窓に近付いて放牧地を眺める。

     そこには名雪と祐一の他に同学年だと一目で分かる女子中学生が2人佇んでいた。

 

 

     この2人の女子中学生は修学旅行の自由行動として、マイナーであるKanonファームをチョイスしたのは非常に不思議がられる行動だった。

     だが、1人の女子中学生が自身の名を名乗った事でその疑問は一気に氷解し、納得したようであっさりと受け入れられている。

     その少女は肩のやや上まで伸ばしたセミロングの髪に左前髪を茶色のメッシュを入れて、右前髪は三つ編みにしていた。

     色彩が薄茶色で柔らかな瞳をコロコロと変化させて、現在は騎乗用のヘルメット被りつつ、乗馬になったジェットボーイを見事に乗りこなしている。

     少女の名前は音薙 有希。

     9年前に乗馬クラブで祐一と出会った少女で、今は既に大人への階段を駆け上っていると形容しても良い位、成熟した身体つきになっていた。

     ただ、胸の膨らみはまったく期待出来ない様で私服の上からでも形が分からない程。

 

    「もしかして、向こうで随分乗っていたのか?」
    「うん、あの日から騎手になりたいと思ったからずっと乗り続けているよ」

 

     えへ、と有希は小さく笑みを浮かべながら、隣でアストラルを操っている祐一の横顔を眺めて1つ提案を出す。

 

    「祐一も騎手を目指しているようだし、ちょっと1週勝負しない?」
    「調教コースを使ってのレースか……良いぞ。負ける気はしないし」
    「ひっどいなぁ、そこまで私は下手糞じゃないよ……と言う訳でもうちょっと待っててね、朔夜」

 

     朔夜と呼ばれた少女は氷の様に鋭い蒼眼を有希に向けつつ、金糸と見違えるほどのロングウェーブを軽く払い頷いている。

 

    「……その代わりにあたしの事を忘れていた祐をキッチリと負かしなさい」
    「りょうかーい。私に任せておいてよっ」

 

     祐一は苦笑いを洩らしつつ、起用に手綱から片手を離して頬を掻いているが、自分が幼馴染である朔夜の事を忘れていたのだから反論は出来なかった。

     そして、2人は調教コースに向かっていき、その場には名雪と朔夜だけが残った。

     この場に残った2人は会話の糸口がなかなか掴めず停滞した空気が漂っていたが、おもむろに口を開いたのは名雪。

 

    「えっと……朔夜さんと祐一は幼馴染なんですよね?」
    「……そうよ、向こうはすっかり忘れていた様だけど」

 

     朔夜の言葉には非常にトゲが篭っており、氷の様に鋭い蒼眼がますます険悪な表情を作り上げていく。

     なるほど、と名雪は神妙に頷き朔夜に同情してしまう。

 

    「それと気になったんですけど……何で祐一の事を“祐”と呼ぶんですか?」
    「……当時は祐があたしに勝っていたのが1つも無かったからよ」

 

     だから“一”を取って祐と呼ぶのが定着しただけ、と朔夜が淡々と告げると名雪はその事を想像したのか、クスッと頬を緩ませて笑ってしまう。

     調教コースでは2人が競り合った状態で残り半分辺りまで来ており、僅かにジェットボーイの方が行きっぷりが良さそうな感じを見せている。

 

    「……貴女は祐の事をどう思っているのかしら?」
    「んー、そうですね……簡単に言えば出来が悪い弟って感じですね」

 

     朔夜は意外そうな表情を一瞬だけ覗かせるが、すぐさま普段通りだと思われる無愛想な表情に戻り、レースをボンヤリと眺めだす。

     そして、レースの結果は僅かの差でジェットボーイが勝ったようで、馬上で有希が嬉しそうな表情で朔夜に向かって大きく手を振っている。

     朔夜は手を振る事をせず腕を組みつつ、満足した様な表情を浮かべるだけだったが、唐突に口を開き言葉を発する。

 

    「……どうやら、あたしと貴女(名雪)とは上手くやっていけそうね」
    「そうだね。丁度良くダシとなる相手が一緒のようだし」

 

     先程の様に敬語ではなく、すっかりと普段の口調になった名雪だが、朔夜は殆ど気にしていない様だ。

     そして、名雪はニンマリと口端を吊り上げて、敗北した祐一をからかう様な表情を作り上げていた。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。