ウインドバレーがフェブラリーＳを勝利した翌日。
競馬新聞の紙面には大きく、叩き合いを制したウインドバレーと僅かの差で敗れたトミシノポルンガとトウケイニセイの写真が。
もし、首を上げていたら勝利は不可能で、トウケイニセイが制覇していたと言われる程の接戦で、これが勝負のあやと印象付ける。
これでウインドバレーは東京大賞典、フェブラリーＳのＧ�毅仮，繁務て撮穏侏ソ戮肇罐縫魁璽鵤咾裡猫沓仮 �
合計４つの重賞制覇となり、Kanonファームで最も活躍している馬だと誰が言わなくても分かる程の実績。
因みに秋子の所有馬で他の重賞馬はミストケープのＡＪＣＣのみで、如何に重賞制覇が難しい事だと窺える。
デビューすら難しい事で１勝する事は更に厳しく、重賞制覇になると１年に
中央だけで１１５レースしかなく、そのうち何個かが１頭で持っていかれる。
なので、重賞制覇は非常に困難でKanonファーム生産馬が既に２勝もしている事が僥倖なのだから。
だが、ここリビングにいる面子の表情は非常に落ち込んでおり、暗い雰囲気を醸し出してしまっている。
その雰囲気にあてられて、リビングの隅に置かれている前日飲み干したウイスキーの瓶やビール缶が寂しげに転がっていた。
秋子達とスタッフ２人がリビングに居るのだが、やはり雰囲気は暗いままで誰もがなかなか口を開かない状況。
その理由はウインドバレーが浅屈腱炎を発症してしまったからだ。
屈腱炎は屈腱が炎症を起こして腫れてしまうので、氷などで冷却するのが一般的だが、完全な治療法は見つかっていない。
治療期間は炎症の状況で刻々と変化するので、これとは言えないが凡そ１年は掛かると見積もって良い。
そして何よりも厄介なのが、完治した様に見えても再発する可能性が非常に高く、これが原因で引退に追い込まれた名馬は数々居る。
「……本当に参りましたね」
秋子は深く嘆息を吐き、大きく肩を落としてから頭を左右に振ってしまう。
「体調悪いのは事実だったが、まさか屈腱炎が発症するとはな……」
「で、どうする？ 現役続行或いは引退しかないけど」
「俺は引退の方が良いと思うけどな……種牡馬としての道があるし」
祐一の発言に全員が頷いているが、秋子は小さく唸ってからスタッフにも意見を聞く。
「調教助手だった時で屈腱炎を発症して戻って来た馬が再発症したのはどれくらいの可能性でした？」
「……そうですね、６：４で再発症した馬の方が多かったです社長」
「私はファンの為に現役続行も良いと思うんですが……」
と、それぞれ元調教助手と新人の意見が出てから、秋子は暫し眼を緩く閉じて、思考を今後の事として計算し始めたようだ。
そして、数分後。
秋子が出した結論は、引退――即ち種牡馬入りをさせると言う事で決定した。
「仕方ありませんが、ここで引退させないとズルズルと現役続行させてしまう気がするので……」
と、秋子が理由を述べると全員が納得したようで、これと言って揉める事も無く引退させる事で決着が付いた。
確かにウインドバレーは故障を発生したのだが、今までKanonファームの生産馬は故障馬の数が圧倒的に少なかったので教訓が出来た。
そう、どんなに能力を持った馬でも故障発生する事が有り得る、と言う事を思い出せたのだから。
そして、翌日の競馬新聞にはウインドバレーの引退を報じる記事が掲載され、全国のウインドバレーのファンが悲痛の声を上げてしまった。
ウインドバレー。
１０戦６勝２着２回。
主な勝ち鞍：東京大賞典、フェブラリーＳ、ユニコーンＳ、北海道２歳優駿。
トミシノポルンガとの接戦や地方の強豪を押さえ込んで勝利した２つのＧ�犠，舛�あり、引退となったが産駒にその力強さが受け継がれる事を祈って。
Kanonファームではウインドバレーが引退すると、休む暇も無く次世代を繋ぐ為に今年の配合を考える日々が始まる。
主に決定したのはメジロデュレン×ファントム。
短距離から中距離の産駒が多いファントム産駒のスタミナを補う為に菊花賞と有馬記念の勝ち馬であるメジロデュレンに白羽の矢が。
残りの候補で挙がっている種牡馬は以下の通り。
メジロライアン：宝塚記念の勝ち馬。
ウインドバレー：上記の通りダートＧ�毅仮 �
ドクターデヴィアス：イギリスダービー馬。
サッカーボーイ：マイルチャンピオンシップの勝ち馬。
リヴリア：今年のクラシック候補のナリタタイシンを輩出。
と、殆どの馬がノーザンダンサーの血を持ち、リヴリアのみが１つも持っていない。
「さて、ウインドバレーの後を追う様にＧ�気鮠，討詛呂稜杞腓鮃佑┐覆い箸い韻泙擦鵑諭�
と、秋子は小さく自身の胸前で握りこぶしを作り、新たな気持ちで気合いを入れた。
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この話で出た簡潔競馬用語
注１：ドクターデヴィアス……アホヌーラの血を引くイギリスダービー馬。