エアスパイラルはきさらぎ賞で惜しくも２着に敗れたが、本賞金を上乗せして皐月賞への足掛かりが出来た。
今回の結果は騎手曰く、直線で外から来た馬と馬体が合わさってしまって行く気が出てしまったのが敗因だと述べる。
もう少し脚を溜められていたら、勝てていた可能性が高いとエドガーが言い切っている程。
ただ、エドガーは今月一杯で短期免許が切れてイギリスに帰国してしまうので、新たなに騎手を探さなくてはならない。
出来れば今後のクラシック路線まで乗ってくれる騎手を望むのだが、ベテランは既に予約済みである。
上手い騎手は新馬戦の前から調教して唾を付けて乗る馬を交渉し、クラシックを目指す事が多いが、途中で故障発生などがあるので乗り代わりも当然ある。
勿論、クラシックでは一枚足りないと見られた馬は見限られていく事も多数あり。
エアスパイラルの新馬戦に騎乗した騎手は既に別馬への予約があり、残念ながら誰かを探さなくてはならない。
「上手い人がいると良いんですが……今の時期からではちょっと厳しいかもしれませんね」
秋子は憂いを帯びた吐息を吐き、乗ってくれそうな騎手を考えるが、秋子は騎手との友好はあまり優先しないので、こういう時に問題が発生する。
「騎手と仲が良すぎるとあまり良い事は無いからな、適度の方が良いし」
秋名は仕方ないと言いたげだが、実際に騎手との繋がりが強すぎると勝てそうも無い馬に無理矢理、乗せる事になってしまうのだから。
そうなると、騎手が騎乗したい馬を選ぶ事が出来なくなってしまい、成績が下がる可能性がある。
「まぁ、取り合えず騎手に関しては調教師に任せておきますか」
「そうだな。良い騎手が開く事を期待して待つか」
秋名は小さく頷いてから、手元にある競馬新聞を見開き始める。
その見出しには９３年初の中央Ｇ�機宗愁侫Д屮薀蝓治啌�幕と大きなゴシック文字で書かれていた。
今週からは競馬新聞の見出し通りにフェブラリーＳが東京競馬場ダート１６００ｍで行われる。
主な出走馬の前レースの結果として撮られた写真が貼られており、更に詳しく着差とタイムと優勝馬或いは２着馬の馬名が。
現在は出走馬が確定する前の段階なので、どの馬が出走出来るか不明だがウインドバレーは確実に出走可能。
そして、競馬新聞の片隅には金曜日から日曜日まで天候が記されており、東京では晴れマークを示す太陽があった。
取得賞金はミスタートウジンには及ばないが既に十分確保しているし、東京大賞典の優勝馬が出走出来ないのはおかしいのだから。
けれど、最近の調教は今一つでなかなか調子が上昇しないので、美浦トレセンには既にフェブラリーＳで引退の噂が広まっている。
走る気が見受けられない、燃え尽きたなどの評判が急速に広まっているが、レースになれば結果は変わる可能性は残っていた。
なので、菊池調教師と厩務員は噂を無視して、それを消し去るように様々な努力を行っている。
主に森林馬道――美浦トレセンにある馬をリラックスさせる為の施設で、蹄まで深さがある小川を横断し、鳴き声を録音した鳥の囀りなどが聞ける場所。
更に薄い靄が発生し、手が込んでいる施設なのでリラックスさせるのが向いている場所と認知されているのでウインドバレーも時折利用している。
ウインドバレーは馬体の調子が悪いのではなく、精神的なものだと考えられたので毎日１回は森林馬道を使用。
効果があるかは不明だが、何もしないよりは１％でも体調が良くなる様に行動した方が成果は出る可能性がある。
「やれやれ、どうなる事やら」
秋名は手の甲で軽く競馬新聞を叩き、小さく肩を竦めつつ溜息を吐いた。
秋名もウインドバレーの調整が厳しい事は伝わっているので、レースまで残り期間１週間でどれだけ仕上がるか分からないから嘆息も吐きたくなる。
「菊池調教師によると、現状は５分程の体調だそうです」
「……Ｇ�鞠呂世�ら１週回ってくれれば御の字って言うわけにもいかないし、悩ましいな」
いっそ回避する手段もあるのだが、既に出走登録を済ませており骨折でも無いのに回避する訳にもいかない。
現在は月曜日で、最終追い切りは木曜日に設定してあるのだが体調が上昇しなければ前日追い――土曜日にも調教すると言われてしまっている。
既に形振り構っていられない状況なので、様々な手段を用いてレースまでに体調を上昇させるしかない。
秋子と秋名はお互いに深く嘆息を吐きつつ、大きく頭を項垂れさせてしまった。
それ程、深刻な状況なのでここをどうにか乗り越えなくてはならないのだから、２人が項垂れてしまうのは当たり前の事だった。
そして、レースまでの時間が刻々と近付いて来た。
フェブラリーＳまで後、１週間。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。