ミストケープがAJCCを勝利した事でKanonファーム初の芝重賞制覇とG�興蘋�覇を一気に得た。
その為、AJCCの後日には競馬新聞のトップにミストケープがホワイトストーンを押さえ込んで勝利した写真がトップ面を飾っていた。
見出しはこうだった。
“ミストケープ軽量ハンデを活かして強豪を抑える”
“そしてホワイトストーンは最強の3勝馬のレッテルを引き続けて使用”
と、ゴールの写真と共に文章が細かく書かれており、AJCCを現地まで見に行かなかったので優勝の実感が出てきたのはこの辺りからだろう。
勿論、秋子はその写真を丁寧に切り取ってからスクラップノートに貼り付けて新しい歴史が刻まれたノートが完成。
そして、リーティングブリーダーも一時的にだが、ベスト10に名を連ねてしまった。
トップは既に1億以上稼いで前年に続きトップを走り続けている大手牧場で、Kanonファームとは歴史の差が数倍も違う。
だが、1月下旬の時点で9つの重賞が終了しているのだが、その大手牧場は珍しく現時点で重賞未勝利。
不調だったら他のレースでまったく勝てない事になるので単に巡り合わせが悪いだけで、クラシックの時期にはいつもの様に勝つ回数が増えるだろう。
それまでに眠れる獅子は牙を磨いて、虎視眈々と獲物を狙うために様子を窺っておくと思われる。
閑話休題。
Kanonファームの敷地内にある家族4人の住居である立派な家の中には、1つの優勝カップが新たなにサイドボートの上に飾られている。
その優勝カップの上部にある円型の口部分にはピロが入り込んで、口に軽く手をチョコンと乗せて、可愛らしい置物の様に佇んでいた。
既にKanonファームのマスコットだった当初から4ヶ月近く経っているので、随分と成長し成獣になっている。
まるで自分が居たから勝利したと言いたげに、この場所――サイドボードの上に居る事が多くお気に入りの場所なのだろう。
秋子は手を伸ばして、軽くピロの顎を撫でるとゴロゴロと気持ち良さそうに鳴いている。
「それにしても、ピロが家に来てから成績が向上しましたよね」
「そうだな……ピロの前世は幸運の女神か或いは招き猫だったかもな」
秋名は適当に思い付いたものを2つ挙げるが幸運の女神はともかく、招き猫はどちらかと言うと陶器の飾り物なので生き物ですらない。
秋名がおざなりな答え方をするのには理由があり、単純に猫アレルギーを所持している事が判明したからだ。
単純にクシャミと鼻水が出るくらいだが、さすがに自身の顔が一時的にとは言え酷くなるのは、女性である秋名からすれば厄介な事。
なので、滅多に自分からは近付かない秋名だが基本的には猫が嫌いなのでは無く、むしろ好きな様で時々だが餌をやっている風景が見受けられていた。
その時は少しだけ距離を取って、与えた餌を食べているシーンをしゃがみ込んで眺めているだけ、と記しておく。
「ピロが来てからの重賞成績は3戦2勝2着1回だからね。お陰で牧場が安定しているよ」
いつの間にリビングに来たのか、ソファーに深く座っている名雪は本音を露にしてピロの事を称えている。
名雪がリビングに来た事で、ピロは優勝カップから倒さないようにそろりと抜け出しつつ、名雪の元に一目散に駆けていく。
そして、後ろ足をバネが飛び跳ねる直前の様に地面に向って力を溜めて軽く跳躍し、一切の無駄な脂肪が無い名雪の滑らかな太ももの上に着地。
着地後に少々バランスを崩したものも、さすがは元野良猫と言える程柔軟な身体能力でキッチリと名雪の膝に座り込む。
やれやれと名雪は言いたげな表情をピロに向けるが、その本人はまったく気付いていないのか実に堂々ともう1つの定位置を気に入っているようだ。
緩やかに微笑みつつ名雪は溜息を一瞬で小さく吐いてから、ピロの頭を優しくゆっくりと撫で始める。
「そういえば、今年デビューの馬名は決まった?」
「んー、一応決まったよ」
今年デビューする馬の詳細は2頭。
キンググローリアス×フラワーロック:牡馬、青毛。
エブロス×ファントム:牝馬、白毛。
どちらも育成牧場での評判はそれなりに良いのだが、これと言った特徴が無い平凡な馬だとも判断が可能。
ただ、白毛馬の方は実力はともかく、外見の特徴である純白の毛が人々を惹き付けてやまない。
「白毛はホワイトウインド、青毛がタイフーンと今回は風をイメージしてみたよ」
はい、と名雪が秋子に手渡したのは手書きのメモ用紙。
様々な案が出ていたのか、候補から外れたのは×印で決定した2頭の馬名には大きく丸で括られている。
「まぁ、白毛……ホワイトウインドは女性人気が高そうだなぁ」
白馬に乗った王子様とか想像するだろうし、と名雪はその時に起こりえる黄色い歓声を想像したのかゲンナリとした表情を浮かべた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。