Kanonファームの従業員が2人増加した事で仕事の効率が格段に良化し、秋子が行う作業は事務仕事の方が増量してしまった。
従業員が入った事で様々な問題が起こる可能性があったのだが、ベテランの腕が非常に心強い状況になったのは嬉しい誤算だろう。
特にそのベテラン従業員は元々調教助手――トレーニングセンターで調教時に騎乗を行っていたので、各馬の調教を任せられている。
時々、Kanonファーム生産馬以外の馬が休養で入ってくる事があるので、そういう時の軽い調教はベテラン従業員の腕が1番頼りになる。
もう1人の方は厩舎作業の方を行わせているが素人なので、秋名或いは名雪が教えつつ慣れさせていく。
馬は好きな様なので、どこまで“馬が好き”だけで続けられるかは不明なので現状では見守っていく過程。
馬だって生き物であり、突然の死が訪れてもおかしくないので、それを眼当たりしても止める事が無ければ良いと言える。
閑話休題。
引退馬や今後のレース予定がKanonファームの元に各厩舎から連絡が届いてくる。
サイレントアサシンの処遇についてだが、本来なら既に引退させて繁殖入りの予定だったのが急遽変更して現役続行。
前走のサンタクロースステークスで低人気――10番人気ながら大駆けしての勝利を掴んだのだから、まだまだ余力があるのだろう。
それ以外の馬は特に用途変更も無く現役続行となっている。
そして、今年入厩予定となっている2頭の2歳馬は育成牧場で順調に調教を積んでおり、4月頃にはそれぞれの厩舎に。
ウインドバレーについての予定は、取り合えずフェブラリーSを目標にして調教を積んでいる筈なのだがどうもタイムが良くないらしい。
あの1戦――東京大賞典の疲れがなかなか抜けないのか、或いはG�気鮴�覇した事で燃えつき症候群を発症しかけているのかもしれないと、連絡が。
「故障でも無いのに引退させる事は無いな」
「でも……惨敗し続けての引退もちょっと考えられないですね」
「と、なると……フェブラリーの結果次第で引退の意向か」
と、秋名は秋子の考えに同意しつつ、自分の意見を織り交ぜて案を発言する。
秋子もその案が最も現実的なのが分かっているようで、この方向で菊池調教師に指示を出すのを決定する。
ソファーの背もたれに寄り掛かりつつ、秋子は手の甲を軽く額に当てて天井を仰ぎ見ながら深く溜息を吐く。
「仕方ないですが、無理に走らせるよりは……はぁ、天国から地獄とはこの事ですね」
「まぁ、種牡馬として受け入れられるのは大丈夫だろう?」
既に東京大賞典を勝利してから数日後には、種牡馬になるならウインドバレーを受け入れたいと言う申し込みがKanonファームに伝わっていた。
シンジケートを組む事は無いがダート馬であり、父ミスタープロスペクターと母父ニジンスキーを血統に持つ事から、それなりに人気は出るだろう。
1600m〜2000mと現在のスピード競馬に対応しやすい距離適正に、2歳の早い内から走れて3歳秋頃に完成する成長力。
ただ重賞勝ちは東京大賞典を含めて3つなので、その点は他の種牡馬よりも
現時点では評価は低いだろう。
ダート馬は種牡馬として人気が不遇なので、ウインドバレーもそれに当て嵌まって凡そだが50万程の種付け料になる可能性が高い。
「人気が出るかどうかは分かりませんけどね」
秋子の言葉に秋名は乱雑に切っている前髪を軽くグリグリと弄りながら、深く溜息を吐いてしまう。
秋子の方は少し余裕が出てきたのか小さく吐息を吐くと、TV画面を見やる。
本日の競馬にはエアスパイラルが新馬戦に出走するので、チェックしておかなくてはならないのだから。
エアスパイラルが出走するレースは京都芝1600mの新馬戦。
距離適正かは不明だが、父ワカオライデンは総じて中距離前後の活躍が多かった。
だが、エアスパイラルの評価は12頭中4番人気とそこそこオッズが売れており1番人気の馬との差はそれ程でもない。
スタートの時間が近付いて、待機所からゲート前に騎手に誘導されて移動していく馬たち。
数分後。
全頭が無事にゲート入りを果たして、スタートが切られる。
エアスパイラルは4枠4番からやや立ち遅れてゲートから出るが、騎手が軽く手綱を扱くと立ち遅れを帳消しして5番手の位置に付ける。
速いペースで進むようで2頭の馬が逃げ争いしており、後方にいる馬が有利と言える。
1000mの通過タイムは58.2秒と、既に逃げと先行勢には厳しく虎視眈々と中団と後方に位置する馬が1着を狙っているだろう。
そして、逃げ馬2頭は下げる事も出来ずにこのままリズムのみで走らせる事になるのは確実。
外回りのコーナーを通過し、ゆっくりと下り坂を下っていく2頭の逃げ馬。残り400m。
逃げ馬との差がドンドンと縮まっていくが、先行勢は迂闊に仕掛けられずに中団と後方から一気に雪崩れ込んできた。
エアスパイラルの騎手は3番手に浮上した時点で、2分程の力でゆっくりと仕掛けて、ジワジワと先頭を狙っていく。
だが、後方馬の勢いには敵わなかった様で、2頭の馬に一気に差されて結局3番手から上昇せず、そのままゴールになってしまった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。