冬が訪れ、どんよりとした天気が日々続いているが、競馬は変わらずに日々を刻んでいく。

     11月という気温を感じさせない程の熱気があり溢れており、その理由はGⅠ開催日という単純な理由。

     ここ、京都競馬場はエリザベス女王杯が開催される為、数万を軽く越える――6万前後の観客が押しかけている。

     さすがにメンバーが揃った時の天皇賞・秋と比べる訳にもいかないが、牝馬限定戦のエリザベス女王杯としては平均的な観客数。

     さて、出走馬は主に今年の桜花賞と秋華賞を制したサンユベールを筆頭に3歳牝馬に人気が集まっている。

     18頭中10頭が3歳牝馬と最も多く、4歳と5歳が4頭ずつと差が現われている。

     3歳牝馬勢の能力が高いのか、古馬勢の能力が低いかは、ここでハッキリと明暗が分かれてしまうだろう。

     そんな訳で1番人気に支持されているのは、サンユベール――桜花賞と秋華賞を制した実績を加えて、9戦7勝2着2回とパーフェクトの成績。

     ここでも圧倒的1番人気となっており、複勝の方も安心感からか、1.1倍と銀行と呼べるだろう。

     続く2番人気はカワカミプリンセスとなっており、前走の府中牝馬ステークスで復調の兆しを見せた分の人気。

     ただ、オークスと秋華賞を制した実績もあるので、サンユベールと同じくGⅠ2勝馬。

     3番人気にはカワカミプリンセスと同様に府中牝馬ステークスで3着に入ったベッラレイアで、去年のオークスで2着になるなどの実績を持つ。

     今年のオークス馬であるエフティマイアが4番人気となっており、秋華賞の結果がそのまま人気になったような物だろう。

     5番人気には重賞未勝利ながら、血統の良さでポルトフィーノが支持されており、クロフネ×エアグルーヴの血統だからこそ、GⅠ戦で開花期待されているのが伺える。

     とはいえ、前走の清水ステークスで鼻差の1着なので実力的には疑問視もされてもおかしくないだろう。

     そんな訳で上位人気はこの5頭だが、虎視眈々と上位の首を狙っているのはどこの陣営もそうなので、波乱になる可能性も。

 

    「久しぶりにうちの馬がエリザベス女王杯で1番人気か」
    「いつ以来ですか? まだ僕が日本競馬を覚えていない頃になりそうですね」

 

     一弥の質問に名雪は薄く口紅が塗られて、艶が出ている唇に親指を当てながら、やや思い出すように13年振りだなと呟く。

     その時は1995年なので名雪は15才の時に行われた以来なので、一弥にはあまり印象に残っていなくても仕方ない。

     一弥はさすがにその時の名雪の年齢を聞く訳にもいかず、ただ沈黙をするのみ。

     この場に居る多くの馬主なら、当時の名雪を知っている者が殆どで、今とはまた別の綺麗さを持っていたと言われてもおかしくない。

     高齢の他馬主から見れば、名雪は孫に近い存在なのだから。

     閑話休題。

     Kanonファームの生産馬がエリザベス女王杯を勝利したのは1993年まで遡らなければならず、最後の出走は1995年のイチゴサンデーとなる。

     その時は1番人気14着と最悪の結果だったので、ここで過去を払拭したい所だろう。

     イチゴサンデーもサンユベールとはローテーションに違いはあるが、GⅠを2勝して、エリザベス女王杯に乗り込んだので似たような存在だろう。

     ただ、秋華賞が1番人気12着と惨敗からの出走となり、今回のサンユベールは秋華賞を勝利しての出走なので臨戦態勢が違う。

     ローズステークスから中3週のローテーションが続いているが、引き続き体調をキープしている感じで、追い切りは併せ調教でしっかりと追い切った。

     ラスト1ハロンが12.2秒と併せたオープン馬を半馬身交わして、ゴールだったので、競馬新聞の追い切り評価は○となっている。

 

    「やはり、サンユベールが本命としてキッチリと仕上がっていると評価して宜しいのでしょうか?」
    「そうですね。秋3戦目となりますが、入れ込みもなく、馬体の艶がハッキリと浮かび上がっているので、調子は大丈夫でしょう」

 

     ただ、とパドック解説は前置きをしてから、サンユベールの成績に付いて語り出す。

 

    「サンユベールはここまで9戦7勝2着2回の成績ですが、休養前の3戦目は2着2回と僅かな差で負けているのが気になりますね」
    「今回のエリザベス女王杯も休み明け3戦目となりますので、ここを勝ちきるかどうかが焦点になりそうです」

 

     解説とアナウンサーがその様にコメントを残すが、実際にデビュー3戦目となる阪神ジュベナイルフィリーズと、休み明け3戦目のオークスは共に2着に敗れているので、事実でしかない。

     この評価を覆すには単純に“勝つ”という事を見せ付けるだけ。

 

 

     そして、結果は圧倒的人気という支持に応えて、何とかサンユベールが首差凌いで、エリザベス女王杯を制した。

     スタートは波乱――ポルトフィーノの騎手が落馬という形となり、その為かややペースが荒れ気味になってしまったが、自身のペースを守ったサンユベールが勝利したという単純な理由。

     これでサンユベールは今年GⅠ3勝という実績を挙げたので、オークスで2着に敗れていなければ、更なる偉大さを刻んでいただろう。

     因みにポルトフィーノはGⅠ戦で空馬ながら最初にゴールした馬なので、ある意味“1着”になっている映像が多く残ってしまった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。