サンユベールラスト1ハロン迫力のある12.1秒。
そんな見出しが競馬新聞の一覧に記されており、秋華賞トライアルであるローズSに向けて順調な仕上がりを示していた。
南W――美浦トレーニングセンターのウッドコースで併せ調教として、500万下クラスの古馬相手に1馬身差。
3コーナーから4コーナーの間から先行する古馬を追いかける形で、ラストは強めに追われての1馬身なので、7割前後の仕上がりだろう。
「既に賞金順位で秋華賞の出走枠は得ているから、次に繋がるレースをしてくれれば何も言う事はないよ」
前走のオークスはトールポピーの降着から繰り上がりで3着から2着となった経緯があるので、ここでキッチリと汚名返上して、本来の実力を見せ付けたい所。
「前走はエフティマイアを交わしていれば1着に繰り上がっていたからね。この負けが精神的に響いていなければ、問題は無いと思うよ」
調教でしっかりと走っていても、レースでは精神的な問題が偶発してコロリと負ける事もあり得るので、調教師は僅かに注意点としてあげる。
距離に関しては2400mのオークスをこなしているので問題無く、押しも押されぬ1番人気なのは間違い無いだろう。
「サンユベールの調子は良いけど、トールポピーの方は何か情報は無いかな? 新聞である程度は分かっているけど、生の情報が欲しい所でね」
「うーん……向こうの担当者によると、今ひとつ煮え切らない所があるかなとコメントがあるみたいです。調教タイムはそこそこといった所なんですがね」
記者が栗東側の担当者から得た調教師コメントを教えるが、どの競馬新聞にも載っている程度のものだった。
降着後は勝てずに引退していく馬も多く居るので、トールポピーもそのような状況かもしれなかった。
とはいえ、調教タイムは出しているのでサンユベール陣営にとっては、油断は禁物に違いないだろう。
「まぁ、勝算は高いと思うけど、やってみないと分からないのが競馬だからね。今の所、対トールポピーは勝ち越しているけど、怖い印象もあるから」
良く言えば堅実、悪く言えば慎重だが、ここまで6戦4勝2着2回――うち1回が繰り上がりとパーフェクトの成績。
だからこそ、慎重に期していかなければ、この成績を保つ事は出来ないのだから。
「取り敢えず、予定通りいけば、ローズステークスから秋華賞後には体調次第だけどエリザベス女王杯に向かう予定だから、目処は欲しいね」
秋初戦として出走馬は集まっているが、サンユベールの実績は他馬よりも抜き出ているので、どう足掻いても1番人気は確実だろう。
秋競馬も始まり、そろそろ2歳評判馬が出走し始める時期で、多くは9月半ばから12月前後が評判馬のぶつかり合いが見られる。
そんな中でKanonファームからの出走馬はアヴァランチ――雪崩の意味を持つ、シルバーチャーム産駒の牝馬。
ホワイトクラウドとラストフローズンの半妹ながら、初戦は阪神ダート1400m。
本来ならクラシックに向かっても良さそうな血統だが、父のシルバーチャームが強く出たのか、ダート向きの力強い走りを調教で見せている。
とはいえ、シルバーチャーム産駒はそこまで結果を残していないので、どちらかというとマイナー血統に過ぎない。
ただ、トムフール系という衰退傾向の父系を持つが、母父としては優秀で、日本馬としてはマルゼンスキーなどの名馬の母父はトムフール系なのだから。
アヴァランチも牝馬なので、引退後の繁殖としては成功する可能性も秘めている。
閑話休題。
さて、現状の人気は12頭中4番人気。
兄が活躍している血統だけあって、アヴァランチもそれに釣られて人気を支持されている格好だろう。
一応、兄のラストフローズンが新馬戦で新潟ダート1200mを勝利しているので、母系もそれなりにダート適正があると思われる。
母母のホワイトウインドがダートで4勝している事もあって、隔世遺伝でダート向けになった可能性も。
「距離は少し短いかもしれないが、どうなるか」
シルバーチャーム産駒は短距離よりもマイルから中距離路線辺りが多いので、この距離では忙しいという見向きもある。
それも含んで、4番人気といった所だろう。
そして、レース直前に他馬がゲート内で暴れた為、放馬してレース発走時間が遅れてしまう。
その結果、1頭が出走取り消しとなり、騎手は瞬時に展開を再度考える必要も。
とはいえ、新馬戦と特殊な環境もあって、レースという内容を教える方が重要で勝ち負けは重視されない。
勿論、勝ち上がる事も大事だが、先を考えるとレースという物を教え込み、2戦目にキッチリと理解し、トントンと昇格していくのが望ましい。
中には教える必要が無い程、頭が良くあっさりと勝ち上がっていく馬も居るが、そんな馬は滅多に出てこない。
そして、レース結果はアヴァランチの騎手はわざと砂を被る位置――馬群の中で4コーナーまで待機させたが、そこから伸びずに惨敗。
とはいえ、直線半ばで外に出した時には凄い脚を使って追い込んだが、既にレースは終わっていたようなもので、8着に敗れた。
即ち、今後は砂を被らないようにレースを進める必要が出てきたともいえる。
1部に戻る 2部に戻る ← →
この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。