――サンユベール、オークスへ向けて絶好の仕上がり。
――逆襲のトールポピー。究極の仕上がりでオークス制覇を。
――2冠に向けて距離の不安なし。サンユベール。
各競馬新聞の一面にはオークスに向けての各陣営の仕上がりを記されており、今週の最終調教を締めるタイムが掲載されている。
サンユベール……同厩の重賞馬と美浦Wコースで併せて、残り3Fから一杯に追って3馬身先着し、ラスト1Fが12.7秒と絶好の仕上がり。
トールポピー……栗東坂路で単走追い切りとなり、強めでラスト1Fが12.6秒とサンユベールと同じく好調。
どちらも印は分散している印象があり、見た感じ人気を集めているのがトールポピーの方であった。
前年の覇者トロピカルサンデーと似た血統であり、母母父と母母母父に違いがあるだけ。
とはいえ、類似点がトロピカルサンデーの母母父ノーザンテーストで、母母母父がアローエクスプレス。
トールポピーの母母父がノーザンダンサー系のエルグランセニョールで、母母母父がグレイソブリン系のカロ。
こうして、見比べると同一血統として言える位、類似点が多く、3/4の姉妹ともいえるかもしれない。
そんな訳で、トールポピーの方が距離に不安が無く、2400mに対応出来る血統という見解が広がっている。
逆にサンユベールの母系は母のフォックスハウンドは米国産ながら、欧州の短距離重賞を制しており、遡っていっても中距離路線までの産駒が多い。
セントジェームスパレスステークスとクイーンエリザベス�競好董璽�スを制したバーリと欧州の名馬――ブリガディアジェラードの血は重厚さを。
父のスマートストライクは米国のダート路線でフィリップHアイズリンHと呼ばれるG�気鮴�しており、種牡馬として既に成功している。
産駒には去年のブリーダーズカップクラシックとターフを制した、カーリンとイングリッシュチャンネルを輩出しており、勢いのある血統。
日本ではジャパンカップダートに出走し、アドマイヤドンを破ったフリートストリートダンサーが有名だろう。
父のミスタープロスペクター系特有の軽快さと、母系は欧州の重厚さを組み合わせた血統なので、サンユベールにも距離適正はあるだろう。
だが、見知った血統の方が距離適正など判断し易く、逆に日本では見慣れぬ血統では評価が厳しくなるのは当たり前。
米国ではブリーダーズカップターフのイングリッシュチャンネルを輩出していても、日本では距離が持つとは限らないのだから。
「現状の仕上がりなら距離に不安は無いですね。それに3歳牝馬路線では距離適正よりも、素質で押し切れる可能性もありますから」
「馬体重の方は?」
名雪は簡潔に質問をすると、調教師から返ってきた答えは現状では前走比−6kg位まで絞っているとの事。
オークスの後は秋まで全休なので、ギリギリまで脂肪を削ぎ落としても問題無い。
とはいえ、やり過ぎると2400mで戦える程、スタミナを保持出来なくなってしまうので加減が難しい。
名雪は調教師の言葉に対して満足そうに頷くと、次の質問を投げ掛ける。
「枠に関しては、やや外寄りだが大丈夫か?」
「6枠11番ですからね。トールポピーの7枠15番よりも内側とはいえ楽ではないでしょう」
調教師はキッパリと楽ではない事を言い切るが、名雪の顔には不満さを浮かべておらず、スッキリとした表情。
距離に不安が無いとは言え、3歳牝馬に2400mは過酷なので、楽なレースにならないのは確か。
「騎手への作戦は私がいう必要は無いだろうし、幸運を、とでも伝えてほしい」
レース3日前とはいえ、騎手は既に相手の枠と自分の枠を考えたレースプランを考えている最中に横やりを入れる訳にもいかない。
華麗な乗り方でも泥臭い乗り方でも1着になれば、何も問題は無いので、騎乗方法に注文は付けない。
「分かりました。その様に伝えておきますね」
騎手は既に土曜日騎乗の為に調整ルーム入りなので、顔合せも連絡も出来ないが、土曜日のレース前には調教師から伝えてくれるだろう。
「さて、私はラストフローズンの様子を聞きに行くので、お暇しよう」
「そういえば、来週のダービーに水瀬さんのラストフローズンが出走するんでしたね。そちらの勝利も願っていますよ」
ありがとう、と名雪は短いながらも返礼をしつつ、調教師に見送られながらラストフローズンが預けられている厩舎に向かって行った。
こちらの方は1週間前の調教で、同厩のオープン馬に半馬身遅れたが、軽めで15−15と調整している。
調教で抜かすよりも、キッチリと馬体を併せてわざと遅れさせた方が、ラストフローズンの根性を生かすには向いている。
本番のダービーで調教では抜けなかったフラストレーションを爆発させて、叩き合いの展開に持ち込めれば勝算があるのだから。
「レース時期が近いのが分かっているのか、調教助手が抑えるのが大変とぼやいていますよ」
「これだけ注目されれば、レースが近いのも分かるだろうし仕方ないな」
血統面からして注目されるのは当然であり、前走の皐月賞を制した事でますます注目されるのは当然。
1週間前とはいえ、注目度はどの陣営よりも1番なのは明白で、このプレッシャーの中で戦わなければならない。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。