年が明けて無事平穏に2008年となり、各陣営は年始の挨拶と共に今年のローテーションや目標について打ち合わせを行い始める。

     主に調教師が入厩予定の2歳馬がどれだけ仕上がっているかを見るために、北海道に向かうので、その時に挨拶をする事が多い。

     そして、厩舎も同じだが牧場でも普段と変わらず日々を繰り返していく為、朝早くから新年の挨拶をした後は、馬の体調チェックから行っていく。

     新年だからこそ馬の体調にはしっかりと注視する必要があり、怪我無く1年を過ごして欲しいのはどの陣営も同じなのだから。

 

    「明けましておめでとうございます。去年はラストフローズンを預けて下さってありがとうございます」
    「明けましておめでとうございます。うちもお陰で94年以来の2歳重賞を制する事が出来たからな。そこはお互いに有益だったという事で」

 

     名雪はそつなくラストフローズンの調教師と新年の挨拶をこなすと、今後の事について話し合いをする。

     とはいえ、普段の様にラフな格好ではなく新年らしく、派手さは控えめながら着物を着て肩下まで伸びた髪を結い上げている。

     そのため、普段のサッパリとした性格さが隠れてしまっており、色香が惑わせる雰囲気を漂わせていた。

 

    「さて、ラストフローズンの目標だが……クラシック路線に向かうのは決定で問題ないな?」
    「ええ、それは元より覚悟しています。騎手も2000mの皐月賞は問題なくこなせる、という意見を貰っていますので現時点では大丈夫でしょう」

 

     朝日杯フューチュリティステークスから距離が400m延長されるとはいえ、同じ競馬場で開催されるのはメリットなのだから。

     つまり、中山競馬場名物の坂はクリアしているので、苦手意識や不得意な事を勘定しなくて済むのはプラス。

 

    「だが、ファンと関係者の視線からいえば、距離は不安だと思われていた方が良い。騙すわけではないが距離に不安があると思わせる必要があるな」
    「マークを外すという訳ですか? それならば大きく負ける必要が」
    「いや、その必要は無い。トライアルレースを使わないで、アーリントンCから始動すれば、いくらかは距離に不安があると思わせるのは可能な筈」
    「そして、出来る限り楽勝せずに接戦するという条件付きですか……タニノギムレットが似たようなローテーションでしたから問題は無いですね」

 

     タニノギムレットはアーリントンCの後はスプリングSを挟んで皐月賞に向かった経緯があって、ラストフローズンのローテーションとは異なる。

     本賞金も余裕があり、朝日杯フューチュリティステークスを勝利している分、多くのレースを使う必要は無いで、そこがタニノギムレットとは違う。

 

    「それともう一つ注文を付けるなら、何時もは追いかける分は叩き合いに持ち込むと強いが、後ろから追いかけられてから叩き合いになるとどうなるかだ」

 

     ラストフローズンの脚質は基本的に差しからの叩き合いに持ち込ませる事がメインだが、逆に大きく抜け出してから自分が目標にされた事は無い。

 

    「その辺も試してみる必要がありますね。いつまでも差し脚質で叩き合いに 持ち込めるとは限りませんからね」

    「ああ、そういう事で次走のアーリントンCで試すように伝えてくれ」

 

     こうして、ラストフローズンのローテーションは弥生賞やスプリングステークスからではなく、アーリントンCからという変則的な物になった。

 

 

     さて、今年デビュー予定の2歳馬は徐々に仕上がっており、後は入厩を目指すまでという所まで来ている。

     デビュー予定の2歳馬は7頭。

     牡馬4頭、牝馬3頭とバランス良くなっており、この中で最も期待されているのがキングカメハメハ×イチゴサンデーの06だろう。

     父はNHKマイルカップと日本ダービーの変則2冠馬であり、今年の2歳馬が初年度産駒であり、非サンデーサイレンス血統として多くの牝馬が集まる。

     類に洩れず、イチゴサンデーもサンデーサイレンスの血を持つので、新たな血を当てる必要があった。

     この配合ではノーザンダンサーの5×4と薄くながらインブリードを持つが、スパイス程度の味付けに変わりない。

     牡馬なので、出世すればクラシック路線に乗ってもおかしくない血統であり、半姉であるトロピカルサンデーに続くクラシック制覇を視野に入れる事が可能。

     牝馬でワイルドラッシュ×ヤマトノミオの06が評価されており、ダート血統ながら、芝をこなせそうな軽快さが評価に繋がっていた。

     ワイルドラッシュは今の時代には珍しくノーザンダンサーとミスタープロスペクターも入っていない米国血統。

     その分、異系血統として相手を選ばないので、流行な血統と配合しやすい所がメリット。

     ヤマトノミオは父がグランドオペラの為、二ジンスキーとヘイローを持つので、相手としては申し分が無かった。

     他にも2歳馬は居るが、Kanonファーム内で評価が良い牡馬牝馬といわれれば、この2頭が上がるくらい。

 

    「さて、2歳馬の入厩先を選定しないとな」

 

     名雪はそういうが、キングカメハメハ産駒はトロピカルサンデーと同厩が決定しており、実質的には6頭の選定だけだった。

 

 

     1部に戻る   2部に戻る     ← →

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:キングカメハメハ……父はキングマンボ。
     注2:ワイルドラッシュ……カーターHなどG�気鬘仮 �