フユノハナビが新馬戦を勝利した翌日に名雪は牧場の面積を拡大する為に、閉鎖された牧場の土地――15ヘクタールを購入。
思い立ったが吉日といわんばかりな行動力で、まるで安い物を購入するかの様にドンと大金を支払っていた。
各馬が稼いだ賞金は一気に無くなってしまったが、先行投資として扱うのだから、スタッフには反対者などは居なかった。
中には繁殖牝馬の購入という案もあったが、8頭近くの繁殖牝馬を所持している現状では血統を入れ替えない限り、頭数を増やしにくい状況。
これからは敷地が広くなるが、1頭辺りの行動範囲も広がるので運動量の増加に繋がるので、反対しにくい所もあったのも確か。
とはいえ、繁殖牝馬の購入はしないというわけではないので、まずは何時買われてしまうか分からない土地からの購入となった。
「荒れ地を戻して、やや高配のある放牧地にするとなると結構な時間が掛かりますね」
「その辺は元から予想していたからな。春までに放牧地が完成してくれればいい」
北海道とはいえ日高地方の降雪量はそれ程多くないので、除雪さえしてしまえば、進展は遅くなるとはいえ不可能ではない。
完成してから直ぐに放牧する訳ではなく、ある程度は放牧地にオチャードグラスを主軸にした赤クローバーとの混播が成長するのを待つ必要がある。
生えたばかりの牧草は栄養素が低い為、土壌に合うまで数年はかかるのだから。
伸びきった牧草を刈り取っても土壌が痩せこけてしまっているのは確実なので、放牧地だけは至急、手を入れたいというのが名雪の本心だろう。
「そういえば、前の牧場はどんなだったかは知っているんですか?」
「ん……元はうちの牧場を一方的にライバル視していたルビーファームの跡地だ。数10年とはいえ、一応近所付き合いもあったからな」
本業の方が経営悪化して数10年で撤退したとはいえ、牧場を購入するなど日高地方の牧場と比べると潤沢な資金を持っていたのは事実だろう。
ただ、牧場の経営となると目指す方向が別なので、手腕を発揮出来なかったと見解もある。
新しく牧場を開設し結果も直ぐに出る訳ではないので、経営を軌道に乗せるのが厳しいか分かる。
それ比べるとKanonファームは3世代も継続していながら、焦らずに結果を出しているのが結びついている状況。
3年掛けて産駒がデビューして確実に勝利する訳でも無く、未勝利のまま引退する馬が大半の中で、黒字にするのは困難なのだから。
「さて……後は勝てる馬を生産していかないとな」
「ここまで来たら、もっと上を目指す必要がありますからね。先は果てしないですけど」
「まぁ、わたしはそれを望んだ訳だから出来る限り、突っ走っていくしかないんだがな」
名雪はそう言いながら、新たに購入した土地をグルリと見回して、愛おしげな表情で隅々まで眺めていた。
さて、今週の競馬はサンユベールが赤松賞に出走する。
東京芝1600mで開催されるこのレースは牝馬限定戦であり、阪神ジュベナイルフィリーズへの出走を目指す馬が使うレース。
11月初旬に開催されるファンタジーSと比べると、500万下と格では負けているが、過去には勝ち馬を輩出している。
ただ、既に10年近く前だが勝ち馬のスティンガーのみが阪神ジュベナイルフィリーズを制しているだけで、結果は著しくない。
なので、赤松賞を勝利して賞金を加算しても過去10年結果に結びついていないとなるとローテーションの変更を考える方が良いかもしれない。
それでもここを使う理由はローテーションの関係であり、約1ヶ月振りの出走で、阪神ジュベナイルフィリーズまで中2週となるのだから。
「さて、ここを勝って阪神ジュベナイルフィリーズに出走して欲しい所だ」
名雪はそう独りごちてから、パドックを周回するサンユベールをTV越しで確認する。
意外な事にKanonファームの生産馬での2歳重賞制覇は2回しかなく、13年前のイチゴサンデーまで遡らなければならない。
惜しい所では今年のデイリー杯2歳ステークスで2着になった位で、基本的に3歳秋頃からの活躍馬が多いのだから。
そんな名雪の願いが届いているのか、サンユベールは1番人気に支持されており、このメンバーでは実力の差がハッキリしていると評価されているようだ。
前走の東京芝1400mから200mの延長とはいえ、父スマートストライクは今年のブリーダーズカップターフとクラシックで勝ち馬を輩出。
即ち、200mの距離延長は問題無いという認識があり、母系から鑑みて2000mまでは持つと思われているのだから。
そして、結果の方は余裕の差し切り勝ちでゴール前では手綱を押さえる程、楽勝な勝ちっぷり。
2着に付けた着差は1馬身だったが、2着馬には鞭が振るわれ続けたのに対して、サンユベールは直線半ばで振るわれた1発のみ。
阪神ジュベナイルフィリーズに向けてのパフォーマンスとしては、上質な物で穴馬としての存在から、上位に名乗り上げたのは確実だった。
これによって、それぞれ12月に開催される2歳牡馬牝馬G�気�Kanonファーム生産馬が駒を進めるのは確実。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。