今年に入り既に重賞勝ちを5つ含む25勝しており、往年のKanonファームらしく、徐々に成績が上がってきていた。

     これも坂路や直線1000mのコースを取り入れた結果であり、牧場施設の効果がようやく結びつく様になってきたと見解も出来る。

     とはいえ、ここで成績が良くなったからと拡張するのをストップする訳にもいかず、新たな施設を設立する事が決定していた。

     もう一つがKanonファームの近くにあった閉鎖した牧場を土地ごと丸々と買い上げてしまうという案も。

     土地を購入すれば、Kanonファームの元からあった25ヘクタールから40ヘクタールと広大な土地を所持する事になる。

     2日の騎乗停止中となっている祐一は久しぶりに実家と呼べるKanonファームに戻ってきており、名雪と話し合いを行っている。

     土日に騎乗出来ない事は名雪も知っているので、わざわざ呼び出して意見を聞いているのが実情。

 

    「施設も大事だが、その前に土地を購入してから、大きめの施設を設立した方が良いんじゃないのか?」
    「……祐一の言う通り、確かに今の土地のままでは何時か手狭になる。前に10ヘクタールを開墾したとはいえ、そろそろ次を考える必要があるか」

 

     名雪のいう次とは既に牧場を受け継いでから10年も経過しているので、次世代の事も考えなければならない。

 

    「まぁ、土地を購入しても直ぐさまに使える訳じゃないからな。俺も見てきたがあそこまで荒れ地だと来年の春までは利用出来そうもないぞ」
    「予定だと直ぐに利用する訳じゃないからな。現状の夜間放牧地から面積を拡大して、運動量を増やすが目的だ」
    「今でも十分じゃないと?」
    「これから母の生産した馬と戦う事が多いとなると……向こうの土地に比べると自然のままじゃないから運動量が劣っている所がな」

 

     欧州の牧場は緩やかな傾斜や丘に牧場を作ったのが正しく、日本のように平坦で狭い放牧地は少ない。

     それを見習って放牧地の拡大というのが名雪の案であった。

     ただし、確実に成功するという訳ではなく、ある程度の経緯を見守る必要があるのが難点。

 

    「まぁ、決定権を持つのは社長である名雪だからな。そこまで決めたならそれで良いんじゃないか?」
    「……ふん。話を聞いてもらったからか少しスッキリしたので、この案で進める事にする」
    「それは何よりだ」
    「……お礼代わりだが再来週デビューのフユノハナビに騎乗依頼をするから、その時は空けておけよ」
    「まぁ良いが……フユノハナビは確か関西に所属していたよな。と、なると京都芝2000mがデビュー戦か。再来週の予定はまだ無いから大丈夫だ」

 

     祐一は騎乗予定を記したメモ帳を開いてから、再来週の予定を覗くが基本的に依頼がそれ程多くない為か、予定が書かれていなかった。

     祐一は騎乗馬とレース名をフユノハナビと京都新馬芝2000mとメモ帳に書き込んおく。

     流石に約束を反故する訳にもいかないので、リーディング上位ではない祐一にはエージェントはおらず、自分で管理するしかない。

 

    「距離は余裕で持つだろうし、寒くなってからようやく調教タイムが縮まってきて、夏の間はまったく動かなかったのでな。名前通り、冬にしか走らん」
    「……そうなると他馬よりも運動量が少ないと? まぁ、久しぶりに名雪からの騎乗依頼だから断る訳にもいかないな」

 

     祐一はそういって騎乗依頼に関して了承し、名雪は鼻を鳴らすと祐一から露骨に視線を外す。

 

 

     そして、予定通り京都芝2000mの新馬戦にフユノハナビが出走。

     血統面からはすれば有利な距離だが、母は古馬になってから重賞制覇し、父であるステイゴールドも善戦マンだったので、今ひとつ人気にならない。

     晩成と思われている事と夏から秋に掛けての評価が一切、聞こえていなかったのが原因だろう。

     母系はマイルから中距離の活躍馬が多く、GⅠであるウインドバレーを排出している為、良血とはいえるので見くびられている所も。

 

    「うーん……6番人気か。ようやくフラワーロックから続く血統のフユノハナビに騎乗出来たから頑張らないとな」

 

     祐一にとっては16年前に初めて、Kanonファーム所有馬として重賞制覇を果たしたウインドバレーの一族なのだから、感傷深い事だろう。

     それだけ思い出が深い血統の馬に騎乗しているならば、負ける要素はほぼ無いに等しい。

     そして、レース結果は2歳牝馬と思えないパワーを見せ付けてしまう。

     まるで筋書きの様に、祐一は直線でポッカリと空いた隙間にフユノハナビを突っ込ませて、豪快に押し切って勝利を飾る。

     馬群にも怯むことなく、駆け抜ける走りは父ステイゴールドの気性を受け継いでいるようで、先を見据えられそうな強さだった。

     牝馬限定戦ではなく混合戦での結果なので、十分な将来性と判明したのは名雪も嬉しい誤算だろう。

 

 

     1部に戻る   2部に戻る      

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     アグネスワールド……アベイユドロンシャン賞とジュライCを制してる。
     ダンスインザムード……桜花賞の勝ち馬。