サンユベールが新馬戦を勝ち上がった翌週。

     菊花賞の前週となり、徐々に競馬新聞では1週間前の調教タイムや調教師、 厩務員のコメントが記載されるようになっている。

     抽選となり得る馬も居るが、数少ない出走枠に賭けて調教を行っている陣営もある位で、牡馬クラシック3冠目というだけで必然的に力が入っていた。

     何せ、今年のダービーは牝馬のウオッカが制した為、最後の1冠だけはウオッカ陣営が出走しないとはいえ、狙っているのは変わらないのだから。

     そんな中で惑星として期待されているのが、セントライト記念4着のハネダニマケナイ。

     支笏湖特別の後はジックリと調教され、セントライト記念で前走と同じ様に先行策を披露し、ゴール直前まで粘ったが差されて4着に。

     そのため、出走権利だけは得られなかったが、抽選に賭けて調教中という訳である。

     出走が可能になれば惑星として、混戦の菊花賞に穴を開ける存在になり得るのだから、競馬記者には見逃せない馬だろう。

 

    「ご覧の通り、古馬相手に2馬身突き放したから体調はバッチリと仕上がっているよ」
    「今日の調教はウッドコースでラスト1ハロンから追う指示でしたが、来週には仕上がりきると?」
    「本日が80%なら、来週には120%に持って行けると思う。ただ、抽選を突破しないと無駄になるからね。ここが正念場かもしれないね」

 

     調教師のコメントに場は笑い声に包まれるが、如何に余裕があるのかが分かる位、滑舌である。

     秋になって馬体も成長しているので、菊花賞勝利は目前と調教師は思っているのだろう。

 

    「まぁ、とにかく来週の抽選が肝心だから、今は大きく掲載しないで欲しいね。……取材する対象は他にも居るだろうし」
    「いやいや、今年の菊花賞出走馬だと、2600mの勝ち馬がホクトスルタン位ですから、穴党にとっては楽しみが少ないんですよ」
    「そう思うなら、出られるようになるのを祈って欲しいね」

 

     流石に他の馬も調教をしなくてはならないので、談話込みの取材はこれで終了となった。

     おそらく1週間前の調教評価ではA評価が付くと思わせる位、ハネダニマケナイの評価は著しくアップした事だろう。

 

 

     さて、今週の競馬は秋華賞――ウオッカ対ダイワスカーレットの争いが非常に盛り上がっている。

     本来なら、その間にトロピカルサンデーが加わって三強対決が見られる可能性があったが、リディアテシオ賞に出走する為にイタリアに遠征中。

     そんな中で未勝利戦にオルタナティブとソニックブームが出走する。

     オルタナティブが東京芝1600m戦に。

     ソニックブームが京都芝1800mの牝馬限定戦に。

     それぞれ前走の距離に適したレースなので、勝算はまずまずあるといった所だろう。

     それでも前走が掲示板に載るのが精一杯だったソニックブームの人気は6番人気となっていた。

     対照的にオルタナティブは前走が2着だった事もあって、3番人気に支持されている状況。

     メンバー的にも前走が2着だった馬が最高で、他には4着など掲示板に載った馬が多い。

     人気がやや低いのは前走から3ヶ月経過しているので、2歳馬にとってはレース感覚が掴みにくいと考えられているからだろう。

     調教を繰り返していたとはいえ、どこまで成長したかが分からないからこそ、この評価に落ち着いている。

     ソニックブームの方も同じ様な理由であり、3ヶ月の放牧期間が低く見られている原因だろう。

 

    「馬体重は結構増加しているし、少しは成長したかね」

 

     前走から引き続きソニックブームに騎乗している騎手は、そんな事をぼやいてから返し馬を行う。

 

    「人気は無いが、本日は重馬場だし、フサイチコンコルド産駒には得意な馬場で母系も重厚な血統だし、勝算はありそうだな」

 

     本来なら重馬場の為、最内――1枠1番は嫌われるが、ソニックブームの血統的な裏付けからするとチャンスはある。

     そして、レース発走時間となり、各馬がゲート前に集まっていく。

     ソニックブームはやや嫌がる素振りを見せるが、何とか騎手が宥めるとゲート内に収まって、他の馬もドンドンとゲートに入る。

     最後に8枠10番の馬が入って、スタートが切られた。

 

 

     結果的にいえば、ソニックブームは水を得た魚を思わせる走りで悪道をあっさりとこなして初勝利を飾る。

     他馬が伸びを欠く中で、ソニックブームは芝をしっかりと踏みしめて脚を伸ばしたのだから、重馬場に関しては突出した実力。

     馬名の様にスパッと切れるタイプではなく、重厚な血統だからこそ出来た走りであった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。