サンユベールが1番人気に応えて見事勝利を飾り、スマートストライク産駒が日本競馬に合う事を見せ付けた結果だった。

     1馬身差で新馬戦と見所になる所は少ないが、日本競馬の軽くて高速になりやすい芝に対応出来たのだから、それなりに人気が出る事だろう。

     この後は重賞の1つでも勝利出来れば、スマートストライク産駒が日本で走る割合が増加すると思われる。

 

    「今回は中団からレースを進めましたけど反応が良いので、スッと切れ味を発揮させる方が向いていますね。ただ、距離はちょっと短かったと思います」

 

     ちょっとだけ追い通ししなければ後方からのレースになっていた、と騎手は付け足して報告する。

     父は7ハロン――1400mから8.5ハロン――1700mを中心として勝利している為、同じ距離が得意と見られていた。

     騎手の意見からすると今回の距離では短いようで、もう少し長くても問題無いようだ。

     母系で中距離から長距離をこなした馬は母母父のブリガディアジェラード位で隔世遺伝として、距離の幅が広がったと思えない。

 

    「とはいえ、一気に距離を広げる訳にもいかないから、次走は1600m付近のレースを使ってみよう」
    「その方が良いですね。勝ちはしましたけど、1400mは向いている訳じゃないので、次走はマイルの方が望ましいですね」

 

     調教師は年間競馬番組一覧を広げて、次走に適したレースを探し始める。

     現在は10月初旬と秋らしくなった時期なので、次走に選択されたのは11月開催の東京芝1600mの赤松賞となった。

     新馬戦と同じく東京競馬場で200mの距離延長があるため、課題と条件が重なっているので適したレース。

 

    「赤松賞の結果次第では阪神ジュベナイルフィリーズに出走出来そうですね」
    「うん。勝てれば、そのローテーションを水瀬社長に打診してみるけど、負けると実現しないから、次走も勝たないとね」

 

     こうして、サンユベールの次走が決定し名雪の元に電話で報告された。

     これに関して名雪は口出しをせずに、ローテーションとしては1番使い易いので簡単に決定が為される。

     ただ、阪神ジュベナイルフィリーズはまだ出走メンツが把握し難いので保留という事になった。

 

 

     そして、Kanonファームではイタリア競馬のリディアテシオ賞に出走するトロピカルサンデーの輸送手続きが済み、着々と手順を踏まれている。

     昔と違い、今やサラブレッドの専用のカーゴまであり、航空会社も種牡馬や繁殖牝馬の輸入で手慣れているのか、万全の態勢で送り出せる状況。

     体高が高すぎてカーゴ内に収まらない事は今ではあり得なく、カーゴ内も快適な作りとなっているので、遠征自体は簡単に行けるものである。

     ただ、簡単に結果は結びつかず、遠征しても日本競馬に比べると少ない賞金に、日本競馬のレベルが向上したに従って遠征が減少している。

     遠征するだけでも1000万近いお金が必要なので、ドバイや香港の招待レース以外は大手牧場ぐらいしか遠征していない現状。

     閑話休題。

     トロピカルサンデーが出走するリディアテシオ賞はイタリアのローマにあるカパネッレ競馬場で開催される。

     そのため、成田空港からローマまで約12時間の直行便という輸送をこなす必要が。

 

    「さて、長い出国検疫が終わった事だし、後はイタリアに向かう飛行機に載せるだけか」

 

     名雪は検疫申請書に押印が捺されている事を確認して、安心した表情で一息を吐いてカーゴに入ったトロピカルサンデーを遠くから見送る。

     流石に行きっぱなしにして、牧場経営をほったらかしにする訳にも行かないので調教の結果は調教師と厩務員に任せるのが一般的。

     名雪も例に洩れず、基本的な事は調教師と厩務員に任せるしかないので、出しゃばりすぎて遠征が失敗しては意味が無いだから。

 

    「まぁ、こちらである程度は馬体を作っておいたので、そこまで体重が減少する事もないでしょう」
    「遠征に備えて帯同馬が居なくても大丈夫のように、夏は厩舎内では隔離し場所に置いていたから寂しがる事は無いと思う」
    「そうなると後は飛行機内で体調を崩さないかが問題くらいですね」
    「ひとまず、向こうでの事は任せる。次に会うのは3週間後のレース当日だな」
    「それまでにしっかりと仕上げて、倉田騎手にバトンタッチさせますよ」

 

     厩務員は自信満々に、この場には来ていない佐祐理にしっかりと手綱を渡せる様に宣伝を力強く行う。

     名雪はその発言に満足そうに頷き、腕時計に視線を落とすと出国時間が近いと悟ったようだ。

 

    「さて、そろそろ時間のようだし、わたしは引き上げる」

 

     名雪はそれだけをいうと手を振りながら、空港内から退出していった。

     その場に残されたのは調教師と厩務員、レーシングマネージャーで、その3名も直ぐに搭乗カウンターで受付を済ませ、空港内に入っていった。

 

 

     1部に戻る   2部に戻る      

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。