トロピカルサンデーの海外遠征が発表されると、批判と好意的に受け止めるのが半々といった所に分かれた。
基本的に秋華賞で3頭が揃い踏みになって、争うのが見られると思っていたファンも多かったのも事実。
とはいえ、Kanonファームのオーナーが名雪になってからは、海外遠征が増加している事を知っているファンからしてみれば、好意的に受け止められる。
ホワイトファントムは長距離線のレースを求めて、1回も勝てなかったが何度も遠征させた事実があるので、トロピカルサンデーもそう思われている。
だが、母はイチゴサンデーとアメリカンオークスに出走し、今と違って海外遠征が盛んだった時期ではない時の勝利だった。
その血を引くトロピカルサンデーなので、それなりに期待は出来るというのが世間の現評価だろう。
閑話休題。
10月になり、徐々に2歳デビューの有力馬が集まるレースが増加し、クラシックを見据えた馬がレースを使われ始めた。
その中にサンユベール――Kanonファームの生産馬が出走となっている。
父は米国で種牡馬になっているスマートストライクで、母はフォックスハウンドとフォックステイルの半妹となる。
スマートストライクの現時点の代表的な産駒と言えば、ジャパンカップダートでアドマイヤドンを雨中で競り勝ったフリートストリートダンサーだろう。
他にはカーリンやイングリッシュチャンネルがいるが、まだそこまで有名でも無い。
産駒の傾向としては芝とダートの両方でG�犠〕�馬を輩出しているので、サンユベールの出走レースは非常に難儀したものだった。
何せ、持ち込み馬なので日本で走ったスマートストライク産駒のサンプルがフリートストリートダンサーのみ。
そうなると、ダートを使うのか芝を使うのかで慎重に決めなければならないのだから。
結局の所、選ばれたレースは東京芝1400mとなった。
距離適正はマイル前後なら大丈夫だろうと見積もった結果で、流石に短距離向きの血統ではないが、2000m前後まで持つと予想もされている。
とはいえ、2歳牝馬ながら2000m戦をデビュー戦に使っては、入れ込んでしまう可能性もありえる。
姉のフォックステイルよりも距離適正の幅があると思われるが、まずはどれだけレースに対応出来るかが肝心なのだから。
「人気は……1番人気で妥当だな」
「半姉のフォックステイルが重賞でも4着になっていますから、それの相乗効果じゃないですか?」
流石に毎週競馬場に行く訳にもいかないので、名雪は従業員と共にリビングで観戦している最中。
「それでも、3.9倍なら距離が短すぎると思われているのか」
「父は8.5ハロンまでの距離しか勝利していないから、オレは逆に向いている筈と予想しているだけどな」
「まぁ、競馬ファンにとってはまだまだ未知の血統だから仕方ない。スマートストライク産駒がこれで人気出れば良いんだがな」
名雪はソファーに座りながら、そのスラリとした足を組み替えて、パドックを映しているTVを凝視している。
TVに映るサンユベールは入れ込んだ様子は無いが、少し落ち着きが無いようで周辺を見回しているようだ。
初めてのレースなので、観衆から多数の視線を浴びるのは初物尽くしには厳しいのは変わりない。
「思ったより物見が激しいな。レースではしっかりと走ると良いんだが」
「入れ込んでいるよりはマシじゃないですか? 色々観察したがるタイプかもしれないですし」
馬の性格次第だが良く観察を行うタイプも居れば、逆に無頓着な馬もおり、そこからレースというものを学べる馬が勝ち上がっていくと言われている。
そこは馬次第なのでサンユベールはどちらに属するかは現状では不明。
そして、レース開始時間になり各馬が順調にゲートに収まっていく。
ただ、レース前ということであってテンションが高くなった馬がおり、ややゲート入りを手こずっている状況。
それでも何とか、ゲートに入ると最後に外枠のサンユベールが収まって、ゲートが開く。
大きく出遅れた馬はおらず、サンユベールに騎乗する騎手はスッと外から徐々に内側に寄せていく。
出走頭数が10頭と少ないので、展開は乱れにくく平均したペースでレースは進む。
サンユベールは中団辺り――5〜7番手付近から進めており、先頭を走っている馬を窺いながら、徐々に進出し始める。
4コーナーを過ぎて直線に入った所でサンユベールは再び外に持ち出して、騎手が手綱を扱き、3番手に上がる。
東京の直線は長いので一気に加速する事無く、ジンワリと差を詰めており、坂を上がりきった所で鞭が入る。
1発2発と振るわれて、先頭を走る馬に並びかけて馬体を競り合せ、徐々に抜け出しに掛かった。
そして、サンユベールは2着馬に1馬身突き放した所でゴールした。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。