秋競馬が開催され、気持ちが良い風が吹く中でどの陣営も各馬をキッチリと仕上げている。
天高く馬肥ゆる秋と言われる位、この時期は夏と違い、馬体重が増加し徐々に完成されていく馬体が見受けられる時でもある。
特に３歳馬はレース数もそれなりにこなして、経験を積んできたので古馬を匹敵する様な結果を出す事も。
それを実証するかの様に、ウイングロードが皆生特別以来の出走となりながら新涼特別――阪神ダート１４００ｍを勝利。
バックドラフトも同日開催された中山芝１６００ｍの５００万下を勝利、１０００万下クラスに昇格。
そして、フォックステイルは１６００万下の身ながら格上挑戦で京成杯オータムハンデに出走し、軽ハンデの恩恵を授かって４着に食い込んでいる。
負けはしたが３歳牝馬ながら、この結果は素質の高さを窺わせる。
それでも重賞３戦連続ともに後少しが届かず、惜敗が続いているので、そろそろ勝利してほしい所だろう。
「ひとまずは、バックドラフトもウイングロードも勝利したか……フォックステイルに関しては運がないと言わざるを得ないな」
「取り敢えずウイングロードは１６００万下に昇格だし、後は早くＯＰクラスに昇格して欲しいです」
スタッフの一人はそう言うが、現状のダート路線は古豪――７歳とかが息長く走っており、結果も出している状況なので厳しい路線。
なので、この実績ではまだまだ下の下と呼べる位、上の壁は厚いのだから。
「まぁ、この実力で１６００万下を勝利しても先は厳しいだろうな」
「もう一皮剥ければ良いんですけどね。父がアラジですから早熟の可能性がありますしね」
アラジはフランス馬ながら、２歳時は７連勝しブリーダーズカップジュヴェナイルを含むＧ�毅艦⊂，鮹�成している。
ただ、３歳時は準重賞とＧ�兇鮠〕�したのみで引退しており、２歳時の輝きから早熟評価されている。
そのため、ウイングロードも新涼特別を勝利したが、２着との差はほんの僅か。
他の３歳馬と同じく馬体は成長したが、その幅は他馬よりも低かったと言わざるを得ない。
「次走の結果次第では、１６００万下が限界と思っておかないとな」
「ちょこちょこと稼いでくれていますので、私としては担当で良かったですよ」
１歳時の育成はそれぞれ毎回騎乗者が変わるスタンスだが、普段の飼い葉や寝藁、馬体を洗う担当は名雪が決定している。
そのため、勝利する度に僅かながら給料が増加するので、担当者に取っては嬉しい収入だろう。
そして、何よりも自分が担当した馬が勝利するのは何事にも勝らない代物なのだから。
さて、今週の競馬は秋華賞のステップレース――ローズＳが開催される。
ウオッカという日本ダービーを制した女傑は直接秋華賞に出走する為、ここでは残念ながら対決にはならない。
それでも桜花賞馬ダイワスカーレットとオークス馬トロピカルサンデーの対決には盛り上がるカードだろう。
共に桜花賞以来の邂逅なので、どれくらいの実力になったかお互いに分からない状況。
実績面は共にクラシック１冠ずつを勝利しており、重賞勝利数も同じく２勝しているので、評価は割れてしまっている。
距離も２０００ｍとお互いに不安が無く、血統からして２０００ｍ以上ですら問題しないのだから。
「うーん……どっちを推すべきかしら？」
ここはとある競馬雑誌を発刊している会社内なのだが、頭を抱えて悩ませている香里の姿が見受けられた。
主に悩んでいる理由はローズＳで本命を打つ方なのだが、ここ数戦は本命を打った馬がことごとく敗れてしまっている。
一応、掲示板までは載るのだが馬券圏内に入らないと結果が続き、栞には“逆神”と呼ばれてしまっている。
汚名返上を果たしたい所だが、栞は栞で低人気の馬を対抗にして当てているので、その差は広がるばかり。
「おやおや、姉さんどうしましたか？」
「見て分からないの？ どの馬に本命を打つかで悩んでいるのよ」
妹である栞の方が的中率は良いので、姉の尊厳が掛かっているのか少しばかりイライラしているようだ。
「ローズＳはどう考えても堅いですから、あまり捻らない方が良いと思いますよ？」
出走馬のリストにはオークス２着のベッラレイアにＮＨＫマイルカップ２着のピンクカメオも含まれているのだから。
この４頭から流すだけで馬券が的中する可能性は非常に高いので、栞は今回のレースはギャンブルに手を出さなかった様だ。
「ギャンブルは時に手堅く、時に大胆の攻め方で良いんですよ。姉さんは負け続けると暴走するから駄目なんですよ」
「うっ……」
「変に捻らないで確実に当てた方が良いですよ。一度当てれば、それなりに的中するようになるでしょうし」
栞はそういって、缶コーヒーを口に付けながら自分の席に戻っていった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。