ホワイトクラウドは阿寒湖特別で差がない結果――鼻差で敗れてしまい、菊花賞への道は遠のいた状況。

     ハネダニマケナイが支笏湖特別を勝利している分、両頭揃って出走不可能になる状況よりは遥かにマシなのだから。

     とはいえ、完全に出走不可能になった訳ではないので、後は運任せで待つのみ。

 

    「今回はホクトスルタンと経験の差が出た感じか……」
    「ホクトスルタンは阿寒湖特別を含めて11戦目ですからね。ホワイトクラウドの約3倍ではまだ厳しいでしょう」
    「それと乗り代わりも響いた感じもあるな」

 

     ホワイトクラウドとホクトスルタンの主戦は同じ騎手なので、今回は選んだ騎手の目が正しかったといえる。

     どちらも逃げ馬で白毛と芦毛で殆ど似た様な所があるので、騎手も先を見据えて悩んでいたのが実情で、ギリギリまで決まらなかった経緯が。

     その為、断られたホワイトクラウドの陣営は乗り代わりの騎手を探すのに難航した訳である。

 

    「これからは同レースでぶつかって被る場合もあるだろうし、長距離で逃げが上手い騎手を探しておいてくれ」
    「倉田と相沢のどちらかは乗せないので?」
    「わたしは従兄弟とその嫁だろうが、あっさりと騎乗依頼をする程、甘いつもりは無いんだがな」
    「ええ、存じていますよ。今では両者共にG�汽献腑奪�ーで成果を出していますからね。“たまたま”空いていれば依頼したい位ですよ」
    「“たまたま”空いていたなら依頼しても良いがな……メインとして据えるのはまだ早い」
    「つまり、トロピカルサンデーと倉田のコンビは水瀬社長としては珍しく決断したんですね」
    「わたしとしても珍しい行為だったと今でも思うがな……まぁ、それは良い。ひとまず、菊花賞に進むとして騎手は阿寒湖特別と同じ騎手で」
    「負けはしましたが、あの乗り方で下ろす理由は無いですからね」
    「そういう事だ。次走の結果次第ではそのまま騎乗もあり得ると伝えておいてくれ」

 

     名雪がそう伝えると、調教師も拒否する理由が無いのかあっさりと決定する。

     こうして、阿寒湖特別で2着に導いた騎手は次走も騎乗出来ることになり、ホワイトクラウドの騎手となれるかこれから次第となった。

 

 

     北海道の夏は短く、徐々に秋風が広々とした放牧地を駆け巡っていく。

     放牧地を駆ける仔馬はそろそろ仔別れの時期であり、後1ヶ月もすれば母馬と離ればなれの生活となる。

     7頭の仔馬は草を食んだり放牧地を駆けて、仔馬同士で喧嘩――後ろ脚2本で立ち上がり、威嚇し合っている。

 

    「実家でも毎年、やっていましたけどこの時期だけは慣れませんね」
    「育成の為とはいえなぁ……まぁ、こうでもしないと仔別れが出来ないからな。心を鬼にしてお仕事しないと、オレ達の給料が減らされてしまう」

 

     名雪ならやりかねないと思ったのか、一弥は苦笑いを漏らしてしまう。
     既に実家の牧場も含めて10年以上牧場で働いている一弥でも、仔別れはあまりやりたくない仕事だと分かる。

 

    「まぁ、こっちは済んで半日か1日だけ辛抱するだけですし、その後は鞍を載せる過程の練習ですから、そっちの方が大変かもしれないですよ?」
    「時間掛かるからな。辛抱良くやらないと馬が嫌がるから、やるまでさらなる信頼関係を結ばないと」

 

     と、2人はそんな事を会話しながら、繁殖牝馬と仔馬が共に放牧されている間に厩舎掃除を行っている最中だった。

     馬が馬房内におらず縦長の厩舎内だからこそ会話が通りやすく、雑音として響くのは、寝藁をひっくり返す音と長靴で踏む音のみ。

     とはいえ、慣れているからこうして会話が出来るのであって、新人ならば農具用のフォークで馬糞を拾うのに手こずるのだから。

 

 

     そして、全部の作業が終了し、年齢と性別毎に分けている馬をそれぞれの厩舎に戻す。

     蹄鉄で新しい寝藁を踏みならす音が響き、各馬は馬房から顔を出して飼い葉を急かし始める。

     それぞれの馬に合せた飼い葉――穀物や豆類、青草に乾草、キューブ状に圧縮した乾草、そして添加物として粉末状のカルシウム剤にビタミン剤。

     今ではカルシウム剤を少量利用して、体質強化を行うのが当たり前で昔よりも科学的に飼い葉を与える所が多い。

     昔は昔でマムシを粉末化した物をこねて与えているなどはあったが、お手軽に質が良いカルシウム剤が安価に買える時代では使用する所は無い。

 

    「ふう……今日のお仕事は終わりっと」
    「おっと、北川の担当馬宛にファンレター来ているぞ」

 

     ほれ、とスタッフはファンレターを北川に手渡すと、軽く背伸びをしてか寮に向かっていった。

     残された北川は封筒に仕舞われていた手紙を取りだして読み始める。

     その文字は一目で子供が書いたと分かる文字で、鉛筆ではなくクレヨンで書かれていた。

 

    「あー……やっぱりホワイトクラウドは白毛で、たまたま夏休み中の子供が阿寒湖特別を見ればこうにもなるか」
    「白馬といえば童話に出てくる様な存在ですからね。女の子に人気出ても仕方ないのでは?」
    「まぁ、オレには影響はないが、子供の夢を壊したら駄目だよなぁ」

 

     北川はホワイトクラウドが負けた事を批難する様な口ぶりで話して、手紙に書かれている差出人――月宮あゆと書かれている手紙を綺麗に仕舞う。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。