本日の競馬は2歳新馬戦にラストフローズンが出走。

     やや黒っぽい芦毛はパドックの中では一際目立ち、父であるオグリキャップを彷彿させる馬体。

     父オグリキャップという事もあって良血ではないが、話題を集めており、当時のオグリキャップを知らない観客からしてみれば、馬券的には難しい存在。

     圧倒的1番人気に支持される訳でも無く、好奇心を満たされる存在なのか、4番人気――7.5倍とそこそこのオッズになっている。

     出走するのは新潟ダート1200mとオグリキャップ産駒には似つかわしくない距離も心情にあるのだろう。

     父は芝ダートの両方で活躍したので、ダート適正に関しては問題にならないが1200mという距離は付いて行けるかどうかの心配も。

     近年のダート短距離ではミスタープロスペクター系が台頭しており、庭と呼べる程の成績を残している。

     それに比べて、当時よりもダート種牡馬が台頭しスピード競馬になっているのが現状。

     オグリキャップの時代ではダートは芝で走らなかった馬が再チャンスを得る場所だったので、今の様にダート専属馬などは少なかった。

     その為、オグリキャップ産駒のラストフローズンが何処まで食い込めるかが見所になる。

 

    「3枠3番ラストフローズン。馬体重は450kgです」
    「踏み込みがしっかりとしており、トモの張りも良いので十分勝算はあるのでは無いでしょうか」

 

     パドックではグイグイと頭を下げて、厩務員を引っ張る様に闊歩しているラストフローズンが。

     気合が入っているのは分かるのだが、意気込みを背負いすぎている感じも見受けられるが、入れ込んでいる訳ではないので発汗は控えめに済んでいる。

 

    「ただ、オグリキャップ産駒が1200mに対応出来るかをどう見るかですね」

 

     実況者はその様に判断してから、次の馬へと解説に移る。

 

 

     Kanonファームでは新馬戦という事で、殆どの従業員がリビングに集合している状況。

     1200m戦を使う理由はどれだけの距離適正があるかを図るもので、この厩舎では短距離から徐々に距離を延長していく方針がある。

     なので、初戦は勝ち負けよりも適正を重視していく厩舎なので、ジックリと使う馬主には向いている所。

 

    「やっぱり、距離はマイルからの方が向いていそうですね」
    「その辺は試してみないと何とも言えないしな。まぁ、着ぐらいは拾えれば上等だろう」

 

     一弥と潤はそんな事を話しているが、他の従業員も同じ様な評価なのか何ともいえない表情であった。

     厩舎の方針なので、名雪がローテーションに関して口出ししない限りこのままなので、一介の従業員では変更などは出来ない。

 

    「まあ、オグリキャップは800mと1200mも勝利しているから何とかなるかもしれんな」
    「そうなんですか? 地方戦までは覚えていなくて」
    「デビューから5戦は800m戦で1着3回2着2回だったな。当時の中京は笠松との共同利用だったから、芝1200mもその時に勝利していたな」

 

     ベテラン従業員は当時の事を知る人物なので、海外――イギリスに実家がある一弥よりもこうした実情は詳しい。

 

    「確か……800m戦では2度同じ馬に敗れていたな」

 

     流石に、その馬の馬名までは思い出せないのか、従業員はこの話題をここで打ち切る。

     そうしている間にレース発走時間が近づき、各馬がゲート前に集まり誘導員に牽かれている状態。

     全ての馬が初出走の為、ゲート入りは手こずっている状況だが、どの馬も何とかゲート内に収まっていく。

     そして、ラストフローズンは一旦ゲート前に立ち止まると、首を左右に振ってからゲート内に入る。

     最後に8枠12番の馬がゲートに入り、スタートが切られる。

     ラストフローズンは僅かに好スタートを切り、内寄りという最大の武器を利用する為に、5〜7番手からレースを進めるようだ。

     他馬に囲まれた格好で砂を被ってしまっているが、怯える様子もなく駆けている。

     1番人気の馬は出遅れて後方からの競馬になっているが、ペースが平均タイムの為、追い上げるのは厳しい状況。

     淀みない流れの中で、ラストフローズンは徐々に進出し始めて、騎手もスピードで押し切れないのが分かっているのか、長く使える脚に賭ける。

     3コーナーを回り、最終コーナーの辺りからラストフローズンは2番手に上がり、ダートを力強く蹴り上げて1着を目指し突き進む。

     先頭を走っていた馬は息を入れる為に、ここで一旦ペースを落とし、その間にラストフローズンが先頭に踊り立った。

     直線354mとはいえ、ダートコースに限って2番目に長い距離なので、簡単に押し切れるものではない。

     その為、ラストフローズンが先頭に立ったと同時に2番手以降の馬が進出し始めて、追いつこうと脚を伸ばす。

     しかし、ラストフローズンは簡単に先頭を譲らない。

     馬体を寄せてきた馬と競り合って返り討ちにすると、三度別の馬が追い抜こうとするが、全て返り討ちにしてしまう。

     そして、5頭目となる馬と競り合ったままでゴールインし、着差は頭差とはいえ、着差以上に強い競馬を見せ付けて初出走初勝利を飾った。

     父オグリキャップを彷彿させるような勝負強さを見せて、4番人気を反発するか如くな勝ち方に観客は沸くしかなかった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。