各馬は発走時間が近づいた事で待機所からキャンターでゲート前に集合し、僅かな残り時間を利用して輪乗りをする。

     既に誘導員が引き手を頭絡にセットしている状況だが、最後の準備運動に近いので騎手はパートナーを落ち着かせるのが役目。

     それもその筈。

     東京芝2400mのスタート地点はゴール板に近い箇所――即ち、観客の視線が自然と集まるのだから。

     そのため、歓声も非常に響きやすく経験が少ない3歳牝馬には、距離も含めて東京芝2400mは厳しいレースになりやすい。

     中にはこうした自体に備えて、レース直前までメンコを被せている陣営も居れば、ブリンカーの代わりにパシュファイヤーをセットしている所も。

     とはいえ、ゲートに入るまでの対策なので大抵の競馬新聞には、ブリンカー装着を示す表示はなされていない。

     その中でもトロピカルサンデーはブリンカーもパシュファイヤーもセットしていないが2回目のG�祇錣世韻△辰董�非常に落ち着いている状態。

     落ち着いていれば、この距離では勝算は僅かながら上昇するが、この時点で落ち着いていてもレースになればどうなるかは誰も分からない。

     だからこそ、細心の注意を払ってゲートに誘導しなければならないので、どの騎手も緊張感が馬に伝わらないように平常心で勤めている事だろう。

     そして、スターターが赤旗を振ると同時に、東京競馬場G�祇錣離侫.鵐侫 璽譴�生演奏される。

     それに合せるように観客が丸めた競馬新聞をリズム良く叩き、騒然とした状況に。

     その間に各馬がゲート内に収まって、騎手は8枠18番の馬――ザレマが入るまでパートナーを落ち着かせる。

     中には前掻きして、スタートを待ち望んでいるかの様な馬もおり、既に臨戦態勢は整っているのだろう。

 

    「最後にザレマが入って、第68回優駿牝馬のスタートが今切られました!! 7枠15番が僅かに立ち後れたか?」

 

     大外からのスタートとなったザレマの騎手が距離ロスを嫌ったのか、果敢と先行策を取り、内ラチから3頭分付近の位置を奪い4〜5番手で駆ける。

     2番人気のベッラレイアはゲートから出た瞬間、5番の馬が寄れてしまって6番の馬がそれにぶつかって、ベッラレイアも僅かに接触してしまう。

     そのため、大外から内に進路を向けたザレマの方が勢い良く、先手を奪いベッラレイアはザレマを先に行かせた状況。

     NHKマイルカップで鼻差の2着に敗れたピンクカメオはシンボルであるシャドロールを揺らしながらベッラレイアをマークするかの様に後方待機。

     そして、桜花賞3着の実績を買われて、ウオッカとダイワスカーレットが不在の中、1番人気に支持されたトロピカルサンデーは中団。

     絶好のスタートとは言い難いが、まずまずのスタートを切ったトロピカルサンデーは無理に内ラチに寄らず、3頭分程を外に出している。

     その理由はトロピカルサンデーの左側にピッタリとくっ付いている人気薄の馬が居るので、外を走らされているというのが正しい。

     厭らしい作戦とはいえ、僅かでも勝算を上げる為に行動しているのだから、この騎手は間違った騎乗ではない。

     内に行けない分、僅かな距離ロスが最後に響く可能性もあり得る状況だが、1番人気に課せられた宿命。

     とはいえ、前方に壁――2頭がガッチリとくっ付いたまま走っているので、佐祐理の腕前ならば前の2頭を追い抜こうとする事はあり得ないだろう。

     ベッラレイアとザレマが前に居るので、2番人気とベテラン騎手とそれぞれ分かりやすい対象の様子をマーク出来る絶好の位置。

 

    「先頭から最後方までおよそ20馬身と縦長の展開になっています。1000mの通過タイムは59秒1です。逃げているスマートストームには厳しい展開」

 

     とても3歳牝馬には耐えられるペースではなく、2400mという長距離では後方の馬も厳しいので、どの馬が抜け出すかが分からなくなった。

     1200m地点――レースがようやく半分終了した所で徐々にだが、後方に待機していた馬がなだらかに動き始める。

     だが、中団に位置している馬は見を選択したままなのか、動きだす気配は無い。

     それもその筈。

     人気を占めているトロピカルサンデーとベッラレイアの2頭が動かない為、固まってしまっているのが実情。

     唯一、中団から僅か離れた位置で駆けているピンクカメオが内ラチに沿って、スルスルと上がってきた。

     残り1000mとなり、父がダンスインザダークとスタミナに自身があるのか、ザレマが4〜5番手に浮上。

     それに釣られるようにベッラレイアも徐々に進出するが、ザレマの様に勢い良くではなく、ゆったりと上がっていく。

     徐々にスマートストームとの差が詰まってきた為、中団付近で固まっていた馬群がばらついている状況。

     そして、トロピカルサンデーは馬群がばらついたお陰で、残り距離は少ないながら一瞬の隙を突いて、内に馬体を寄せる。

     横に居た人気薄の馬はずっと内に入られないようにマークしていたのだが、トロピカルサンデーが発する圧力とプレッシャーに敗れ下がっていった。

     そのため、ポッカリと内への進路が開いた状況になったので、ピンクカメオと馬体を併せた状態で上がっていく。

 

    「さあ、先頭のスマートストームが直線に入り、各馬ここからどう上がっていくのか!?」

 

     激流かのように勢い良く各馬が動きだして、残り500mにも関わらずリードを保っていたスマートストームが追いつかれる。

     ここで一気に上がってきたのはピンクカメオで、その横にはトロピカルサンデーが半馬身程をワンテンポ遅らせて息を入れていた。

     一気に突き放す程の余裕がある訳でも無く、1馬身以上離されてしまうと最内に居る3番の馬に挟まれて推力を失ってしまう。

     つまり、8割の力を引き出して追撃をしている状況なので、後はタイミング良く抜け出すのみ。

     外からは抜群の切れ味で一刀両断する様に騎手の鞭に反応して、ベッラレイアがグイグイと脚を伸ばす。

     残り200m。

     ここで佐祐理が手綱を大きく開く事でトロピカルサンデーのハミが緩み、元から加速していた分よりも更に走りやすくなる。

     鞭を大きく振るい、力強く手綱を扱き、前へと進む意思が乗り移ったかの様に勢いを増す。

     残り50m。

     既にトロピカルサンデーとベッラレイアの一騎打ちと思われたが、外から芦毛の馬――ローブデコルテが追い詰めてきた。

     必死に三者三様の格好でパートナーに檄を飛ばし、3頭が並んでゴールイン。

 

    「トロピカルサンデー、ベッラレイア、ローブデコルテの内、オークスの称号を得られるのは1頭のみ!! 果たして勝利の女神はどの馬に微笑んだのでしょうか!?」

 

     電光掲示板には2、7、10と馬連順に表示されているのみで、結果が判明するのは少し時間が掛かりそうだった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。