地方協賛レース。

     地方競馬で行われているレースの1つで、レース名には独特な物が多い。

     その理由は企業や個人が低価格でレース名命名権を購入して、付けられるという物。

     主に子供の誕生日や企業の節目などに利用されるので、財源が少ない地方競馬ではお手軽に出来てファンから好評なイベント。

     中にはゲームキャラの誕生日を記念したレースもあるのだが、主催者にとっては長く続けたいイベントなので黙認しているような状況。

     まぁ、契約書には現実にある物ではなければならないと書かれていないし、主催者は名前を見て判断しなければならないのだから。

     閑話休題。

     さて、本日は5月5日と子供の日――端午の節句であり、佐祐理の誕生日でもある。

     相変わらず、10代と変わらぬ肌の張りと絹のように繊細な栗色の髪に可憐な表情と、レース時には打って変わった凛々しい表情が人気となっている。

     年齢を重ねても実績を残している辺り、佐祐理が未だに人気である事が判断出来てしまう。

     本日は佐祐理の誕生日ということもあって本来なら家族団欒が可能なのだが、前々から依頼されていた馬で騎乗しなければならない。

     騎乗馬は1頭だけだが、突然の乗り代わりで回ってくる可能性も。

     因みに騎乗する馬は500万下クラスの条件馬なので、大した成績は無いが前走は穴人気ながら未勝利を勝利している。

     なので、前走勝利を貢献した佐祐理に騎乗依頼が回ってくるのが必然だった。

     これも中央競馬と地方競馬の交流が盛んになり、お互いの競馬が切磋琢磨する条件になったのだから、騎手としては嬉しい悲鳴しか出ないだろう。

 

 

     佐祐理が騎乗するレースは船橋1400m戦のB3三と下から数えた方が早いクラス。

     地方競馬のクラス分けは中央と違い、5着までに入った賞金の総額に合せてクラスが決定するので、負け残りといえるかもしれない。

     さて、そんな訳で未勝利を勝ち上がったばかりの馬とはいえ、この中では上位人気に支持されている。

     勝ち上がった勢いを買われたに過ぎず、初の地方遠征に初距離とアウェイでのレースは実力馬でも厳しいのだから、1勝馬ではもっと厳しい。

 

    「今までは全て右回りだったし、左回りはどうかな? そこを確認しないと、結果が変わりそうだなぁ」
    「その点は私も何とも言えないな。もしかしたら手前を変えるのにギクシャクするかもしれん」
    「東京と中京で使えていたら、ここまで判断に迷う事は無かったでしょうけど、やれるだけやってみますね」
    「ああ、全面的に任せる。希望としては出来れば掲示板には入って欲しい」
    「了解です……所で、レース名がこれだったのは知っていたんですか?」

 

     佐祐理は電光掲示板に表示されているレース名に指差しながら、調教師に質問するが返答は曖昧なもの。

     調教師ですらも予見出来なかったのか、二人はあまり視線を向けないようにしているが、どうしても印象に残ってしまうレース名。

     そのレース名は“まじかる☆さゆりん杯”と、本人からしてみれば、目を背けたくなる様なもの。

     時々、人気薄でも佐祐理の腕で持ってくる事があるので、そこが一定のファンには魅力的に見えるのか、その為“まじかる”が付いているのだろう。

 

    「まさか、自分が出走する馬に騎乗して、このレース名に接する事になるとは思わなかったなぁ」
    「……ご愁傷様。まぁ、人気者の宿命だと思っておけ。結果を残さなくなったら、こういう自体には2度とお目にかかれないぞ」
    「そうですね。ファンがあってこそのレースですし、レース名はあれですけどちょっと頑張ってきます」

 

     佐祐理はそういってから、騎乗している馬をキャンターで馬場を走らせて、ゲート方向に向かっていった。

 

 

     さて、結果の方は佐祐理自身の誕生日なだけあって、普段よりもバイオリズムが上昇していたのか、殆ど隙間が無かった内から強引に抜き去っていた。

     華麗とは無縁といわんばかりに地方のベテラン騎手を競り落とした時には歓声が競馬場に響き、噂に違わぬ腕っ節に騎手は舌を巻く。

     伊達にトロピカルサンデーでフラワーカップを勝利し、桜花賞で3着に持ってきた実力があるのだから。

 

    「これで勝ち癖が付けば、良いんだがな」
    「左回りも問題ありませんでしたし、これならある程度は活躍してくれると思いますよ」

 

     観客からの歓声を浴びながら、佐祐理は騎乗した馬の左回り適正を調教師に報告しながら、検量室に向かって行った。

     その後、佐祐理はインタビューをこなした後に、観客に差し出された色紙にサインをするなどして調教師と共に帰路についた。

 

 

     1部に戻る   2部に戻る      

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。