4月半ば。
春の陽気が感じられ、青々とした牧草が風に撫でられて草の匂いを牧場に広がっている。
そんな中で何処の牧場も産まれたばかりの仔馬が母馬に寄り添って、放牧地を駆けたりしている。
Kanonファームの生産馬もようやく仔馬が全頭産まれて、悠々と母馬と共に佇む光景が。
最初に産まれた2頭――フォックスハウンドとエアウインドの仔を除くとまだまだ母馬にべったりと寄り添っていた。
産まれた仔馬は以下の通り。
パラダイスクリーク×スノーラビット。
ヒシミラクル×イチゴサンデー。
ウォーエンブレム×タツマキマキマスカ。
ミラクルアドマイヤ×ファイアワークス。
ロージズインメイ×ヤマトノミオ。
それと4月初旬に産まれた2頭が加わって、今年は7頭の仔馬が誕生していた。
因みにスノーラビット産駒は残念ながら、3年連続で白毛馬を輩出せず今年は燻った芦毛馬だった。
インブリードを持っている産駒はスノーラビット、タツマキマキマスカとファイアワークスの3頭。
ノーザンダンサーを介しているが、非常に薄く影響は殆ど無いに等しい位なので、健康面は心配の必要は無い。
「どの仔も今の所は体調に関しては一切問題無い」
「そうか。順調なら、わたしから言うことはないな」
「……ただ、ヤマトノミオの仔は去年に続いて少し小さいのが気がかり」
「基本的にこの血筋は流産したり、不受胎になったりするからな……体質みたいな所もあるのは確かだ。まぁ、じっくりと育成するさ」
仔馬の様子を見に来た獣医――舞は名雪の対面に座り、淹れて貰ったコーヒーを口に付けて、外を眺める。
「先に産まれた2頭も順調だし、上手い具合に育つ事を願っている」
「その辺はまだ先の事だがな。どうにかするしかないだろう」
名雪は自信満々にそう返すと舞は軽く眼を閉じて、そう、と一言のみを返したが、その口調は僅かに嬉しさを纏わせていた。
さて、今週の競馬は東西で3歳重賞――NHKマイルカップのトライアルニュージーランドトロフィーと牝馬クラシック1冠桜花賞が開催される。
ニュージーランドトロフィーは距離1600mだが中山競馬場開催の為、NHKマイルカップが開催される東京とは適正が違う。
なので、その通りのまま結果に繋がる事は少ないといえる。
共にKanonファームの生産馬が出走するので、従業員の中では土日重賞制覇が達成するか話題になっていた。
フォックステイルは未勝利と黄梅賞を勝利し、4戦2勝の成績で駒を進めたが流石に初重賞挑戦がG�兇任聾靴靴い噺�られたのか、現在は4番人気。
ある程度の馬が重賞出走の実績を持つので、現状では経験は埋めがたい差があるのは事実。
因みに1番人気に支持されているのはスズカコーズウェイ――5戦2勝だが重賞は未出走となっている。
この辺は血統面と牡馬と牝馬の差がオッズに影響を与えているのだろう。
過去にはシンコウラブリィから始まって、ヒシアマゾン、ファビラスラフインとシーキングザパールの4頭が後にG�祇�覇を達成している。
即ち、それだけ牝馬には相性が良い混合重賞なので、フォックステイルにも期待が出来るという訳である。
「ここを勝ってNHKマイルカップに進まないとなぁ。勝算はある筈だし、1番人気のスズカコーズウェイには負ける気はしないしな」
実績面ではほぼ遜色ないので、その点に関しては五十歩百歩といえるだろう。
怖いのは2歳時に重賞制覇をした馬が復調して穴を開けることなので、現状ではスズカコーズウェイが一番マークしやすい。
「後は……マイネルレーニアが手強い位か」
2歳時には京王杯2歳Sを制している実績馬なので、このメンバーの中で唯一の重賞馬。
とはいえ、ここ2戦は惜敗が多いので今回は3番人気に落ち着いている。
「さて、負けたら名雪が怖いし、一丁やるか」
祐一はそう気合いを入れて、パドックで停止中のフォックステイルに騎乗して地下道の向こう――ターフに厩務員と共に向かって行った。
そして、結果は2着馬から首差届かずの3着に敗れてしまった。
3着とはいえ、勝ち馬は低人気――11番人気のトーホウレーサーでスローペースの中、先行有利という状況があって3番手から押し切った印象。
フォックステイルは中団から脚を伸ばしたが、スローペースという状況があって差し切れなかった。
「……まぁ、負けはしたが最後に脚は伸ばしたし、権利は得たから問題は無いな」
「そうか。何か言われるかと思ったから、俺としては安心したぞ」
「ん? 何か言って欲しいのか? 仕掛け遅過ぎとか、道中で進路が無くなって手綱を引きすぎた事とか」
「……ぐぅ。俺が悪かった」
「一応、NHKマイルカップの優先出走権利は得られたんだから、今日の所は不問にしておく」
名雪の言葉には次回にミスがあったら乗り代わりがあるという事が込められており、祐一は力なく返事をするのみだった。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:パラダイスクリーク……米国生産馬でアーリトンミリオンなどを制している。
注2:ヒシミラクル……勝利した全てのG�気�5番人気以下とトコトン穴馬だった。
注3:ウォーエンブレム……米国の2冠馬だが、繁殖牝馬の好みが合わないと種付けをしないという問題を持つ。
注4:ミラクルアドマイヤ……3戦1勝と成績面は大した事は無いが、兄にフサイチコンコルドや弟にボーンキングがいる。
注5:ロージズインメイ……ドバイワールドカップやホイットニーHを制している米国生産馬。