テレビには軽快な足取りで競馬場のコースを駆け――逃げている白毛馬が映されている。
他馬よりも目立つ馬体と鬣を風に靡かせて駆けている姿は、誰もが魅力されてしまい、このレースでは1番人気に支持されている。
それだけ白毛の逃げ馬というのは話題になりやすく、目立つ風体がオッズに影響を及びやすい。
そのため、現在はマークされている状況で前走のように大きく突き放して逃げている訳ではなく、後ろから突っつかれているような状態。
人気薄の馬が白毛――ホワイトクラウドにやぶれかぶれでくっ付いているので、かなりペースが速くなっていた。
後ろの方で様子を窺っている騎手からしてみれば絶好のチャンスに過ぎず、仕掛け所を読み合って、脚を溜めさせているのが分かる。
距離は早いペースが多い1600m戦とはいえ、現在の1000m――5ハロンの通過タイムが58.9では早いのだから。
やぶれかぶれで付いて来た人気薄の馬は既に脚が上がった状態で、ズルズルとホワイトクラウドから離されて馬群に沈んでいく。
そして、好機だと判断したのか後方で待機していた集団が勢い良く押しかけて、ホワイトクラウドを飲み込もうと仕掛けてきた。
最終コーナーを回って直線に入ろうとした直前に、ホワイトクラウドを捕らえる勢いで1頭の馬が大外一気に捲ってきた。
ホワイトクラウドの騎手はチラリと外に向かって視線を向けたのか、一呼吸置いてから手綱を扱き始める。
だが、一呼吸置いてから扱いたとはいえ、今までの通過タイムを考えると脚は残っていないに等しい。
そして、躱された時に気持ちが途切れたのか、あっさりと大外から捲ってきた馬に抜かれてしまう。
掲示板には1着から5着まで馬のゼッケンが表示されているが、その中にホワイトクラウドのゼッケン――7番は表示されていない。
即ち、結果は敗北となってしまった。
残り1ハロン――200mまでは粘ったのだが、そこからはズルズルと下がって躱された。
着順は12頭中7着とハイペースが祟った結果と一目で分かるが、後ろから突っつく馬が居なければ、また結果は違っていたのは必然だろう。
とはいえ、1着馬とのタイム差は0.2秒差なので惜敗といえるかもしれない。
「まだまだ、突っつかれると弱いか」
「スピードは十分あるんですけど、今はスタミナ面がまだ不安ですね」
「そうか……しばらくは体力作りを中心にした方が良さそうだな」
「父がセイウンスカイですから、しっかりと鍛えれば開花する筈なので、今は待つしかないですね」
調教師と騎手は検量室にあるテレビを見上げながら、残念そうな表情で結果を分析していた。
敗れたといえ、3ヶ月振りに加えて初の昇級レースだったので、十分な見所があったのは確か。
今秋か来年には確実に走ると思われているので、今は少しずつ成長させなければならないのだから。
「楽しみなのは確かですし、このまま乗り続けたいものですよ」
「まぁ、それは私ではなく水瀬社長に言ってくれ。ジョッキーがそこまで入れ込んでいるのは分かったが」
今回の結果では乗り代わりもあり得るので、騎手は調教師にお願いするが無意味に近い。
「それもそうですよね。月曜日に聞いてみますか……っと、そろそろ次のレースなのでこれで」
そういって、騎手は次のレースに備えて、鞍などを取りに向かって行った。
一方、Kanonファームの方ではこのレースを見ていた従業員達は残念そうに結果を見てから作業に戻っていく。
馬券を購入した者はちり紙にもならない馬券を破り、普通に観戦していた者よりも、一目で悔しさを浮かべているのが分かってしまう。
「くっ……」
「あー……北川も外したのか」
「直前のレースで取った1万が一瞬で消えましたよ」
直前のレースにはバックドラフトが未勝利戦に出走しており、低人気ながら勝てはしなかったのだが3着に食い込んでいた。
相変わらず、ジリジリとしか伸びなかったが、騎手が早めに仕掛けた事で入着した様な結果。
ただ、未勝利のまま引退という可能性は低く、近い内に勝ち上がれそうな走りは見せていた。
「せめて、半分にしておけばマシだったんじゃないか?」
「いやいや、自分の担当馬が出走するんだったら、人気薄でもドンと張るのが普通でしょう」
「北川の言い分はもっともだが、人それぞれだと言っておこう」
従業員はそう言うと厩舎に向かって行き、休憩室には馬券を外した北川だけが黄昏れていた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。