フラワーカップを勝利したトロピカルサンデーはこれで収得賞金を上乗せしたので、確実に桜花賞へと駒を進められる様になった。

     多くの競馬新聞には“3頭共、桜花賞で待っていろ!!”などと一面トップでの写真が掲載されている状況。

     中にはウイナーズサークルの写真で佐祐理が娘の祐を抱っこして撮った写真を掲載されている所もある。

     2戦2勝とはいえ、間違い無く桜花賞では有力候補に値する存在として、各陣営にマークされる立場に。

     殆どの桜花賞有力馬と当たっていないので惑星として警戒されてしまうが、そこを突き抜ければ母――イチゴサンデーと同格の実力馬となり得る。

     母はNHKマイルカップとアメリカンオークスを制しているので、母が勝てなかったクラシックを勝利すれば並ぶ事は可能になるのだから。

     とはいえ、順調にトライアルレースで権利を得たウオッカとダイワスカーレットにアストンマーチャンが桜花賞で待ち受けている。

     その3頭に比べると実績は劣ってしまうが、今回の勝利でこちらに向かせる――意識させるぐらいの存在にはなれた。

     後は如何にこの勢いをキープしたまま桜花賞に出走するかが鍵になるだろう。

 

    「ようやく、上位人気で重賞制覇か」
    「長かったな……とはいえ、これからが本番だな」

 

     秋子から名雪に牧場経営が変わった後はなかなか重賞制覇は届かず、重賞制覇をした馬は居たが、それは秋子が残していった馬で名雪の実績ではない。

     2年前にガーネットSを制したエルコンドルパサー産駒が名雪にとっては初の重賞制覇で、今回のトロピカルサンデーが2勝目という訳である。

     10年近くも経営して初めての出来事なのだが、ここが二人にとってはゴールインではなくスタート地点。

     最大の目標であるダービー制覇や海外で生産をしていると思われる秋子の馬を破るというのがあるのだから。

     この2つを達成すれば、名実と共に名雪は秋子を超えた事になるが、そこまでどれだけの年月を重ねるかは一切不明。

 

    「この勢いを維持してG�祇�覇まで持ち込みたい所だがな。そうは問屋がおろさないだろうな」
    「まぁ、それでも諦める訳にもいかないだろう?」
    「当たり前だ。僅かな勝算があるならば、それを最大限の活用しないと勿体ないだろ」

 

     ふん、と名雪は祐一に対して当たり前の事をいうなといわんばかりの表情だった。

     暫くの間はお互いにリビングのサイドボードに飾っているフラワーカップの優勝カップを眺めていた。

 

    「……まぁ、俺は目標を達成するまで最後まで付き合ってやるよ」
    「先が余計長くなりそうだな……ありがとう、祐一」

 

     珍しくお礼をいう名雪に対して、祐一は驚愕に満ちた表情になってしまうが、小さく頷いて、それ以上はお互いに口を開かなかった。

 

 

     4月になると、Kanonファームの生産馬に新たな0歳馬が加わった。

     姉に500万下を勝利したフォックステイルの半妹に、復帰直前のハネダニマケナイの半妹が産まれた。

     血統は以下の通り。

     アグネスフライト×フォックスハウンド。

     サクラバクシンオー×エアウインド。

     フォックスハウンドの方は父がアグネスタキオンの全兄ながら種付け料も安く、アグネスタキオンに比べると人気は無い。

     既に重賞馬を輩出しているアグネスタキオンと比べてアグネスフライト産駒は精々2勝馬か3勝馬辺りまで。

     アグネスフライトはダービー馬とはいえ、産駒に能力を伝えていないのが実情である。

     そんな種牡馬を種付けしたのはアグネスタキオンの申し込みが満杯で、代理として同血統に魅力を感じたからに過ぎない。

     エアウインドの方は今までの相手がステイヤーやパワーがある重厚な血統を主に種付けされていた。

     が、結果はなかなか振るわない状況――4勝馬が最高という結果で、現1歳馬からはアドマイヤコジーンが付けられている。

     とはいえ、現2歳馬のフサイチコンコルド産駒――ソニックブームが活躍すれば、また中距離適正のスタミナタイプを種付けする可能性も。

 

    「現2歳勢もそろそろ入厩時期ですね」
    「そうだな……やれる事はやったし後は所属先の陣営に任せるだけか。今年こそは担当馬が重賞勝利して欲しいぜ」
    「あはは……すいません。先に勝利してしまったみたいで」
    「あー……お前は運が良すぎなんだよ。一弥」

 

     佐祐理の弟として実家の牧場でも馬を扱っていたからこそ、当然ながら北川よりも腕前は上なので、名雪としても任せやすいのだから。

     北川も既に10年選手だが、未だに重賞馬となった馬の担当をした事がない。

     どの馬が重賞馬になるかは誰にも分からないので、こればかりは運次第としかいいようがない。

 

    「大丈夫ですよ。北川さんが担当した3歳馬は逃げ切り勝ちを収めたホワイトクラウドじゃないですか。何時かチャンスは巡ってきますよ」
    「だと良いんだけどなぁ。そろそろ始動するみたいだし、まずは無事に走ってもらわないと」

 

     すっかりと牧場生活に馴染んだ北川は勝利よりも馬の無事を口にして、牧場作業を行う為に一弥と共に厩舎へ向かっていった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:アグネスフライト……父サンデーサイレンスでアグネスタキオンの全兄。