弥生賞――皐月賞のトライアルレースとして有力3歳牡馬が皐月賞と同距離同コースなだけあって、出走馬のレベルは一定のレベルはある。

     今年は朝日杯フューチュリティSを制したドリームジャーニーが出走となっているが、人気はアドマイヤオーラに譲っている。

     半兄には京成杯を制したアドマイヤジャパンがおり、アドマイヤオーラは前走のシンザン記念でダイワスカーレットに差の無い2着。

     まだ重賞制覇の実績は無いが、血統の良さがファンに買われた様なものだろう。

     同じサンデーサイレンスの血を引くが、地味なステイゴールド産駒と超良血のアグネスタキオン産駒では後者の方が人気になるのも仕方ない。

     ある意味、牡馬クラシックの明暗を分けそうな弥生賞といえるかもしれない。

     閑話休題。

     クラシック路線とは無縁とはいえ、今週の競馬にはフォックステイルが中山芝1600m戦の500万下特別――黄梅賞に出走。

     前走の未勝利戦は10番人気と低評価ながら、馬群の中で脚を溜めてしっかりと差し切っての勝利。

     元から走ると言われていたが、新馬戦と未勝利戦ではパドックから入れ込んでいたので結果は度外視しても問題はなかった。

     3戦目の未勝利戦で乗り代わった騎手――沢渡真琴が馬の実力を引き出したともいわれる結果に。

     そして、今回も沢渡真琴から相沢祐一への乗り代わりがある為、フォックステイルにとっては試金石といえる舞台。

     本来は1月の出走時に相沢祐一が騎乗予定だったが、直前のポカで騎乗停止という憂い目にあい、代理で沢渡真琴に白羽の矢が立った。

     そのため、今回の乗り代わりは約束通りの騎乗依頼といえるだろう。

 

    「名雪の馬に騎乗するのは……05年のガーネットS以来か」
    「まだ2年しか経っていないんだがな。まぁ、わたしは騎乗させるという約束は果たしたから、結果に関しては任せる」
    「……へいへい。後が怖いのは目に見えているし、ちゃんと結果は出すさ」
    「当たり前だ。わたしは慈善事業をやっている訳ではないからな。降ろされなかったら結果を出せば良いだけだ」

 

     ピシャリと切り捨てるかのように言葉を続けた名雪だが、秋子に比べると乗り代わりの指示頻度が多い。

     勝ち上がる為に出来る事を実行しているのだから、名雪の行動は現状では間違っていないのだから。

 

    「所でフォックステイルのローテーションはどうなっているんだ?」
    「この後はニュージーランドトロフィーからNHKマイルカップの予定だ。ここで負けたら、そのローテーションはご破算だがな」
    「責任重大だな」

 

     余裕のあるローテーションとなると、これが最も間隔が空きすぎる訳でも無く詰めすぎる訳でも無いので使い易いのは間違いない。

     祐一は肩を竦めて、そのプレッシャーを楽しむかのような表情。

 

    「そろそろ芝も勝たないと移籍した意味が無いからな。ちっと頑張るか」

 

     祐一はダート戦では既に6勝しており、掲示板に載る確率も高いのでダート路線では人気になりやすい存在になっていた。

     代わって芝ではまだ1勝もしていないので極端な成績な所があり、祐一としてもそろそろ勝利したい所なのだろう。

 

    「そうか。期待はしておこう」

 

     名雪はそういうと次の打ち合わせがある為、いそいそと他の厩舎に向かって行った。

     デビュー前の2歳馬などに関する話し合いがあるので、そう長い時間は留まっていられないのだから。

 

 

     そして、水曜日と木曜日の軽く調教――15−15で調教をし終えて、発走当日となった。

     現時点では前走の勝ちっぷりと騎手の再度乗り代わりという理由が相反している為か、3番人気に留まっている。

     祐一は名雪が馬主である事を示す勝負服――青と白の縦縞に黒の腕輪を着ており、レース発走時間が近いのが分かる。

     既に計量は済ませているので、後はパドックでフォックステイルの動きをチェックし、レース展開を考えるのみ。

     殆どの騎手も同じように考えているのは一目瞭然であり、自身が騎乗する馬を1着にするのが仕事なのだから余念がない。

 

 

     刻々と時間が経過し、レース発走時間になる。

     スピーカーから流れる味気ないファンファーレに合わせ、各馬が順調にゲート内に収まっていく。

     最終的に2番人気で留まったフォックステイルはゲートを嫌がる素振りを見せずに落ち着いて収まる。

     そして、スタートが切られると真っ先に飛び出したのはフォックステイル。

     前走と違い思い切った走りだが、まるで掛かったかのように見えたのか他の騎手は追いかけずに控えてしまう。

 

    「おいおい、お前舐められているみたいだぞ。新馬戦と未勝利戦で散々暴走したみたいだし、そう受け取られても仕方ないか?」

 

     2番手に4馬身近く突き放したフォックステイルの耳元近くで囁く祐一だが、当の本馬は耳を立てたまま走りに余裕のある事を示していた。

     勿論、祐一が囁いても無意味な行為で、相変わらずフォックステイルは先頭を突っ走っている。

     ここらで後方の馬が徐々に動きだし、2番手の馬を飲み込む勢いで駆け上がってきた馬もいる。

     祐一はチラリと後方を確認すると、ワンテンポ遅らせるという事もせず大胆に仕掛け、場内の観客を騒然とさせてしまう。

     前走が差しての勝利だったので、ここまで粘る脚を持っているとは思わなかったのだろう。

     そして、最後まで先頭を譲ることなくフォックステイルは2着に2馬身差を付けて勝利した。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。