フユノハナビがスイスの氷上競馬に向けて出国の準備――栗東では軽く調整し、向こうの気温と氷上に慣れる為、早めに出国。
日本からチューリッヒまでの所要時間が約12時間前後で、そこからサンモリッツへの輸送があるので、長時間の旅となる。
出国の際にお馴染みの検疫――検疫前に最低7日間隔離されて、出国検疫開始の際にも他馬と接触出来ない。
そもそも、スイスに出国するサラブレッドはフユノハナビしかいないので接触のしようが無いとも言えるが。
閑話休題。
雪上でのレースは日本ではあり得ないが、冬の北海道で放牧している最中は雪の中で駆けるのが当然なので、ほぼ問題は無いだろう。
後は氷上でのレースとなるので、人馬一体にならないと初めての氷上競馬は厳しいのは間違い無い。
とはいえ、開催されるかは不明瞭な所もあるので、人馬一体を披露する事もなく、帰国する可能性もあり得る。
そうなるとただの観光旅行になってしまうが、いざとなれば欧州の何処かでレースを使ってから帰国しないと経験すら積めないのだから。
この時期の欧州競馬はオフシーズン――3月頃には本格的に開催されるので、そのまま滞在も視野に入れても良いだろう。
「フユノハナビはもう少し暖かい時期でも走ってくれれば、使えるレースが増えるんだが」
「ギリギリ4月位までなら、使えるレースも1つか2つはあるんですけど、成績は良くないだろうし」
「今年の目標はエリザベス女王杯から有馬記念辺りの予定だが、現時点では出走は厳しいだろうな」
「サンモリッツ大賞を勝利出来れば、少しは安泰かもしれないですね」
名の通り、冬が得意なのでサンモリッツに出走させるのは、誰も反対する事はなかった。
使えるレースが多い馬だったら、サンモリッツ大賞に出走する事はなかったので、運があるのは確かだろう。
日本馬で初挑戦となるのはフユノハナビと歴史に残るのだから。
今週の競馬は3歳未勝利戦にブラッドハウンドとアヴァランチが出走する。
そして、共同通信杯にラストリグレットが出走となる。
ブラッドハウンドは小倉芝1200mと前走の札幌芝1200mと同距離となり、約5ヶ月振りのレースとなる。
アヴァランチもブラッドハウンドと同じく5ヶ月振りの出走。
こちらは200mの距離延長となっている。
ブラッドハウンドは血統的に晩成寄りなので、今の所は姉であるサンユベールとフォックステイルに比べるのは酷だろう。
ラストリグレットはここでは実績が抜けているので、圧倒的1番人気に支持されている。
どの競馬新聞を見ても本命を示す◎が押されており、ここではライバルがいないという見解で一致。
とはいえ、16頭立てなので、どの馬も虎視眈々とラストリグレットの首を狙っているのは確か。
ここで賞金を上積み出来れば、クラシックに向けての優先出走権利を得られなくても、賞金順位で可能性の芽が出てくるのだから。
ラストリグレットに続く2番人気の馬はブレイクランアウト――父にスマートストライクを持ち、朝日杯フューチュリティステークスで3着になった実績。
サンユベールに続くスマートストライク旋風を日本に広められるかの鍵を握っている馬であり、ここで結果を残せば、年末にスマートストライク産駒の輸入が更なる増加になってもおかしくない。
サンデーサイレンス系との相性は不明だが、少なくとも薄いインブリードがある位で、種付けしやすい血統なのだから。
3番人気にはトーセンジョーダン。
未勝利戦→葉牡丹賞→ホープフルステークスと3連勝しての出走だが、連勝中は外人の短期騎乗だったので、乗り代わりで人気が落ちているといった所。
この3頭で人気は決したと評価されたのか、他馬の人気は殆ど無かった。
「楽勝でとはいわないが、ダービーの為にしっかりと乗ってこい」
「ああ、分かっている。ダービーに向けて試せるのは後1回か2回しかないからな。ここで下手な乗り方は出来ないぞ」
祐一と名雪はこれといった共同通信杯での乗り方については指示を出さず、先のダービーを見据えて騎乗する事を念押しする。
それだけの言葉で十分なのだから。
そして、結果はラストリグレットがブレイクランアウトを半馬身抑えての勝利となった。
大差付けての圧勝ではなく、半馬身しか突き放していないように見えるが道中は馬群の中で待機させ、徐々に進出させてから直線は鞭を入れずに軽く追うだけで、それ以上の負担を与えていない。
ブレイクランアウトに馬体を併せてからも鞭を入れておらず、完勝とはこの事を指すという位のお手本。
ラストリグレットは余裕の走りでダービーへの道を切り開いたのは間違い無い。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。