フユノハナビ、氷上競馬に出走。
競馬新聞の片隅に隅々まで、見渡さない限り見逃しそうな程、小さなスペースに表題の見出しが書かれていた。
――去年の愛知杯を3歳馬ながら制したフユノハナビが、スイスのサンモリッツ湖で開催される氷上競馬に挑戦する事になった。
氷上競馬とは凍結したサンモリッツ湖畔の氷上に雪をクッションとして、敷き詰られ、コースは芝でもなくダートでもなく、雪と氷上の外観からホワイトターフと呼ばれている。
そのターフの美しさは馬が駆ける度に粒子として、敷き詰められた雪が粉雪として舞い上がり、煌びやかにターフを包み込む。
その特殊性として、湖畔の凍結具合で開催中止になる可能性もあるが、日本では見る事が出来ない氷上競馬として一見の価値がある。
さて、フユノハナビが出走を決めたサンモリッツ大賞は雪2000mのG�兇嚢餾欒壁佞韻気譴織譟璽后�
1週が1200mと小回りのコースだが、横幅が広く設定されており、滑った影響が出ないようにされている。
2月の欧州は基本的に競馬オフシーズンだが、ここを狙う陣営も多く地元スイス以外はドイツ、フランス辺りの出走が。
日本馬ではフユノハナビが初出走で、ノウハウが全く無い状況となるが、ある程度は期待してみたい所。
日本では典型的な冬馬だが、異国の地で氷上競馬でも冬馬として実力を発揮出来るかが鍵だろう。
「さて、そんな訳で真琴が騎乗してこい」
「何がそんな訳なのよぅ!」
祐一は要点を思いっきり省き、簡略した説明を行うが、状況が飲み込めていない真琴が怒るのは無理もない。
ポンと真琴の肩を叩いた祐一は良い表情でサムズアップするが、真琴は顔を顰めるしかなかった。
「地方競馬新聞と中央競馬新聞だと情報の記載に違いがあるんだから、分かる訳無いでしょ!」
真琴は全体に競馬新聞を読む訳ではなく、自分が所属している川崎競馬場の競馬新聞しか読まない為、情報は一部しか手に入らない。
真琴は中央競馬で騎乗する事は増えたが、その時のみ調整ルーム内に置かれている中央競馬の各競馬新聞を読む位。
なので、中央で騎乗機会が無いと最新の情報を得られない訳であった。
「ネット類は……真琴だし、やらせる方が危ないか」
「どういう意味よ!」
祐一は真琴と目を合わせず、露骨に事実を避けようとして、沈黙を選択する。
真琴にネットをやらせたら、危ないと判断した真琴の所属厩舎である天野家に感謝するしかないだろう。
本人は自身の性格からして分かっていないようだが。
「まぁ、それは横に置いておいて……フユノハナビで海外遠征があるんだが、真琴が騎乗してこいって訳だ」
「横に置かないでよぅ……んで、あたしが海外で乗れと?」
「おう、それも日本人初となるスイスのサンモリッツでの騎乗だ」
「……サンモリッツは分かるけど、どこよ。それ」
サンモリッツ自体は知っていても、サンモリッツに冬季限定で競馬が開催されるのは知らなかったようだ。
祐一は1からサンモリッツ競馬場の事を真琴に教えると、子供っぽい表情で、眼を輝かせていた。
「そんな所で乗れるなんて最高じゃない!」
真琴の口から出た感想は単純に嬉しさが爆発した様な至極真っ当な反応。
日本人騎手と日本馬の初参戦となれば、自分の足跡を最初に残せる偉業となるので、騎手としては名誉になるのは違いない。
これで勝てれば最高だが、まだ結果に関しては口に出すのも憚れるだろう。
「まぁ、向こうの氷上次第で開催されるかは不明だけどな」
時々、開催が中止になる事もあったという事をしっかりと釘を指しておく祐一だが、舞い上がっている様な状況では聞き入れにくいだろう。
そこで祐一は真琴の傍に控えて、言葉を発していなかった美汐に釘を刺すようにいっておく。
「こうなると真琴は中々、聞き入れてくれませんからね。暫く経ってから話してみます」
美汐は少しばかり嘆息を吐きながらも、しっかりと伝えるという事は祐一と約束をする。
ただ、真琴が受け入れるかどうかまでは保証していない。
「所で祐一は遠征でスイスに行かないの?」
「開催日は日曜日だし、共同通信杯の予定も既に決まっているから無理だな」
祐一は既に今年の3歳牡馬路線はラストリグレット1頭で進むと明言しているので、開催日が被ったフユノハナビは真琴が行くしかない。
祐一と名雪にとっては優先順位はラストリグレットの方が上なのだから。
真琴は祐一と一緒に行くもの――調教助手として思っていたのか、しょんぼりとした表情を覗かせた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。