駆ける馬　２部　１０４話

　　　　　さて、今週の３歳未勝利戦にミスターシルフィが出走し、新馬戦にはテンペストクィーンも出走。

　　　　　ミスターシルフィは京都芝１６００ｍの未勝利戦で、テンペストクィーンが中京芝２０００ｍの新馬戦。

　　　　　テンペストクィーンの父はファンタステッィクライトで上に３勝馬のオルタナティブが居る血統。

　　　　　ファンタステッィクライトは２０００ｍ～２４００ｍを中心とした馬で米国、アイルランド、イギリス、ドバイ、日本、香港と各国を渡ってＧⅠを挑戦し続けた頑丈さを持つ。

　　　　　ＧⅠ勝ちはＢＣターフ、愛チャンピオン、香港Ｃなど主要レースを制している。

　　　　　ジャパンカップではテイエムオペラオーの３着にもなり、日本競馬にも対応していた所も。

　　　　　インブリードに二ジンスキーの３×３を持つので気性は荒いが、上手くインブリードの効果が出ていれば、それなりに期待は出来るだろう。

　　　　　ただ、今の日本競馬では二ジンスキーの血統はラムタラが失敗した所もあって、切れ味や瞬発力が求められている現状もあり、厳しい所があるのも確か。

　　　　　この血統は母父にリヴリアを持つので、キレはそれなりに補ってくれている事を期待するしかない。

　　　　　少なくともマイル向きでないのは確かだが、牝馬のデビューとしては２０００ｍは長い気もするが、他に適鞍は無い。

　　　　「テンペストクィーンは１回使ってから、今後のレース選択が必要だな」
　　　　「一応、京成杯を制したジャリスコライトがいますから、この距離は大丈夫だと思いますが、牝馬ですから案外長い可能性もありますよね」

　　　　　そんな訳で、テンペストクィーンの評価は今一つで競馬新聞の印もせいぜい△と▲が２、３個並ぶ位。

　　　　　そして、結果の方は初レースとなるので仕方ない面もあったが、７番手辺りに上手く付けるも、直線で伸びず１０着に敗れている。

　　　　　やはり、欧州血統の重さが出てしまったようで、タフなレースにならないと結果には結び付かないという見解に。

　　　　　とはいえ、１戦で引退という事は無く、まだ仕上がりきっていない部分もあるので、今後に期待といった所。

　　　　「直線では止まったというよりも切れ負けですから、パワーが必要な競馬場だったらもう少し上には行きそうです」

　　　　　騎手の評価として瞬発力は無いが、パワーが必要となる条件ならば、もう少し走るという評価。

　　　　　そして、ミスターシルフィの方は前走が逃げて粘った４着だったが、今回は１６００ｍと２００ｍの距離延長をものとせず、逃げ切り勝ちを収める。

　　　　　東京競馬場での長い直線と坂で逃げ粘れたので、京都競馬場は直線が平坦の為、逃げ切るのに向いていたのだろう。

　　　　　着差はゴール直前に追い詰められたが、ギリギリで２着馬との頭差を凌ぎきったので、距離がギリギリだったのかもしれない。

　　　　　今後は１６００ｍも使うが、主に１２００ｍ～１４００ｍが主戦場になる可能性も。

　　　　「１４００ｍだと使えるレースが限定されますし、１６００ｍも時々使って距離に慣れてくれれば良いと思っています」
　　　　「世界的に１４００ｍ戦は少ないから、１６００ｍを使うのは仕方ないな。１２００ｍでの逃げ切りは難しいだろうし」

　　　　　ミスターシルフィは短距離路線を、テンペストクィーンがパワーを有する競馬場限定と、２頭の今後が決定したといえる。

　　　　　あくまでも予定なので、成長次第ではもう少し使えるレースの幅が広がってもおかしくない。

　　　　　このミスターシルフィの勝利で、２００９年度もKanonファーム生産馬が早々と１勝目を上げた。

　　　　　ここから続けて勝利を重ねていけば、前年の重賞勝利に匹敵する位、勝ちを伸ばせるかも知れないので、肝心なスタートとしては十分な結果。

　　　　「まずは１勝上げられた事だし、今年も良いところまで行けると良いが」

　　　　　名雪はホッとした表情で１勝上げられた事を口にして、一安心という様子を見せる。

　　　　　栗東トレーニングセンターに所属するフユノハナビだが、今冬のローテーションが決まらない状況であった。

　　　　「京都牝馬ステークスは１６００ｍ戦だから、２０００ｍを走ってきたフユノハナビには厳しいな」
　　　　「ＡＪＣＣか京都記念が距離適正バッチリですけど、ちょっと厳しい所もありますからね」

　　　　　この時期は２０００ｍ前後のオープンクラスは少なく、冬馬であるフユノハナビには使えるレースが非常に少ないのが難点。

　　　　　マイラーだったならば、使えるレースは多いが、現状では無い物ねだりしかない。

　　　　「冬馬だから、３月になると走る気を無くすでしょうし、いっその事、２月に開催されるスイスの氷上競馬を狙ってみません？」

　　　　　祐一が笑いながら海外遠征、それも一定の期間――スイスのサンモリッツ湖の氷上で行われるレースを出したので、調教師も一旦話を止めてしまう。

　　　　　一応、知識としてはあるのだが、わざわざ狙うようなレースでもないのも確かだろう。

　　　　　そのレースはＧⅡで雪上２０００ｍの距離で、欧州遠征馬が多くいるが、一流馬はオフシーズンなので、日本馬にもチャンスはある。

　　　　「寒くないとやる気が出ない馬ですから、トコトン寒い場所で走らせた方が良いんじゃないですか？」

　　　　　祐一の言葉に対して、調教師は案として考えておくというだけに留まった。

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　　　　　この話で出た簡潔競馬用語

　　　　　特に無し。