駆ける馬　２部　１０２話

　　　　　２００８年度下半期のＧⅠ戦線が全て終了し、有馬記念で引退した馬や今期に向ける陣営など多様な動きが合間見られる。

　　　　　Kanonファームの生産馬で引退したのは有馬記念前に引退を決定したトロピカルサンデーのみで、他の馬は揃って現役続行。

　　　　　ＧⅠ制覇に向けての意気込みがあったが、日経新春杯以降未勝利で終わったが、掲示板を外したのはオーストラリアに遠征したメルボルカップのみで、安定性はまだまだ衰えていないだろう。

　　　　　現在は有馬記念後に放牧に出された馬と入れ替わるタイミングで帰厩しており、ＡＪＣＣを目標に調教中といった所。

　　　　　宝塚記念を制したハネダニマケナイも現役続行で、去年は惜しくも２着に敗れた天皇賞・春が最大の目標で、宝塚記念の方だがこちらは天皇賞次第。

　　　　　去年は菊花賞→阪神大賞典→天皇賞・春と長距離３連戦からの結果なので、今年は京都記念からの始動で、変化による刺激を与えて勝利を目指す。

　　　　　ラストフローズンとサンユベールは当初の予定通り放牧中で、それぞれの目標を目指す形。

　　　　　ラストフローズンは中山記念から安田記念が当初の目標で、安田記念次第で宝塚記念に参戦。

　　　　　サンユベールはヴィクトリアマイルでＧⅠ４勝目を目指すが、ステップが決まっておらず、牡馬混合戦が復帰になる可能性も。

　　　　　関屋記念を制したバックドラフトは年末の阪神カップで４番人気５着と掲示板に入ったが、休養に入らないでオープン特別のニューイヤーステークスに駒を進める。

　　　　　オープン特別のディセンバーステークスではソニックブームが低人気の逃げ切り勝ちを収め、これで４勝目となる。

　　　　　１８００ｍでは３勝目なので相性は良いのだが非根幹距離の為、使うレースが限定されてしまうので、少しずつ様々な距離を試すしかない。

　　　　　オルタナティブはファイナルステークスに出走するも後方から伸びるが、９着が精一杯だったが、着差は０.２秒と大きな差は無いので次走次第。

　　　　　フユノハナビは１６００万下特別の修学院ステークスを楽勝し、返す刀でＧⅢの愛知杯に出走すると中団から差し切り、万馬券を演出。

　　　　　これで１１月の磐梯山特別から３連勝と実力を見せて名の通り、冬馬として１１月から１月まで実績は５戦５勝とパーフェクト。

　　　　　この後は冬の間――おそらく２月一杯までが成績が良い時期なので、春になるまでは稼がせたいところ。

　　　　「古馬はＧ１馬とホワイトクラウドを休ませて、バックドラフト、オルタナティブとソニックブームにフユノハナビは厩舎に置いておくんですね」

　　　　　放牧に出しても、しっかりと乗り込みは必要なので完全な休養という訳にはいかず、人数が限られるスタッフにも割当てが必要。

　　　　　特にＧⅠ馬に騎乗するという事はＧⅠ馬の背中を知る事が出来るし、スタッフの腕前向上にも役立つのだから、乗り役が手を挙げるのは必然。

　　　　「古馬に関してはそうだな。３歳馬の方はラストリグレット以外、出走回数が少ないから厩舎に置いておくが」
　　　　「ラストリグレットの担当はどうしますか？　騎手は固定するみたいなので、毎日の調教で乗り換えをする訳にもいかないと思いますが」
　　　　「ラストリグレットの担当は……潤だったな。そのまま担当を変えずに、調教もラストリグレットを専念させるようにしておけ」

　　　　　ラストリグレットの担当は美浦に入厩する前と変わらず、北川が担当する事になり、Kanonファーム期待の一番馬を担当するにはさぞかしプレッシャーが掛かる事だろう。

　　　　「ラストリグレットはラジオＮＩＫＫＥＩ杯でロジユニヴァースの２着でしたからね。３着のリーチザクラウンとの着差はありませんし、現状では逆転点が厳しいですね」
　　　　「能力があるのは確かだからな。じゃなければ、この相手に２着は無理だろう」

　　　　　京都２歳ステークスでは３着にアンライバルド――新馬戦では阪神ジュベナイルフィリーズを制したブエナビスタを破っており、リーチザクラウンが２着だった。

　　　　　そのリーチザクラウンとぶつかったのが今回のラジオＮＩＫＫＥＩ杯なので、牡馬路線では間違い無く上位に位置するのだから。

　　　　　そのトップが新馬戦、札幌２歳ステークス、ラジオＮＩＫＫＥＩ杯と３戦３勝のロジユニヴァースな訳である。

　　　　　なので、ラストリグレットはアンライバルド、リーチザクラウンと並んだ２番手の評価で、僅差でせめぎ合っていると思った方が良いだろう。

　　　　「ローテーションは共同通信杯から皐月賞、ダービーの予定になると思うからある程度の余裕を持って調教する様に伝えてくれ」
　　　　「休み明け初戦は弥生賞ではないんですか？」
　　　　「最近は３月頃になると中山競馬場の芝荒れが徐々に出てくる頃だからな。……電話か」

　　　　　名雪は一旦、スタッフとの会話を打ち切ると、コールナンバーを眺めてから普段の口調では無く営業向けの口調で話す。

　　　　　その電話の内容から察すると、Kanonファーム生産馬であるサンユベールが最優秀３歳牝馬を満票で得た事とラストフローズンが最優秀３歳牡馬は逃したが、競馬の盛り上げに一役買ったという事で特別賞に。

　　　　　名雪は電話越しの為、喜びを爆発させるような事は無かったが、それでも顔は分かりやすく変わっていたと記しておく。

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　　　　　この話で出た簡潔競馬用語

　　　　　特に無し。