前年の有馬記念でディープインパクトが2年前の借りを返して、G�毅珪〔椶亮蠹攣困納鏖看脇�りを果たした2007年。

     既に日本競馬のあらゆる記録を塗り替え偉大なる金字塔を築き上げた種牡馬――サンデーサイレンスとノーザンテーストの巨頭が亡くなっていた。

     1997年から10年の間に牡馬牝馬合わせて33頭のG�鞠呂鯒攴个掘�中央だけではなく地方海外を含め、通算62勝のG�気鮠〕�。

     これだけ圧倒的な成績を遺し、日本競馬の血統図を塗り替えたサンデーサイレンスの亡き後は群雄割拠の時代に移行している。

     2006年では2位のフジキセキに圧倒的な差を付けて、12年連続リーディングサイアーの座に輝いている。

     だが、前記の通り無敗の3冠馬で、天皇賞・春+宝塚記念+ジャパンカップ+有馬記念を制した最高傑作――ディープインパクトが引退。

     即ち、2002年を最後に種付けし、2003年に誕生した産駒が最後の世代の為、現役頭数は減少してしまった。

     現役の4歳世代が如何に踏ん張れるかが、サンデーサイレンスを13年連続リーディングサイアーに輝かせるかの瀬戸際である。

     と、殆どの競馬雑誌がサンデーサイレンス産駒のG�気�揃って引退した事で、厳しい情勢を予想していた。

 

 

     ここ、北海道日高地区は10年前に比べると廃業した牧場が増加し、馬が売れない事と人手が少なくなった事で寂れた状況を醸し出している。

     それでも多くの牧場は放牧地に馬で駆けている風景を生み出し、生産を続けていくしか道はない。

     そんな中、日高地区で繁栄している牧場は10年前にトップが変わってからもそれなりの成績を残し続けて、現在まで生き延びている。

     過去にはウインドバレーがダートG�気鬘仮,掘▲潺好肇院璽廚�エリザベス女王杯を。

     イチゴサンデーが日本馬初の米国G�機宗愁▲瓮螢�ンオークスで歴史的制覇を果たし、菊花賞を逃げ切ったホワイトファントムを輩出している名門。

     その牧場の名を、Kanonファームという。

     既に3世代続く牧場で、日高地区では息長く存命している牧場ともいえる。

     前社長である水瀬秋子の所在が不明になり、娘の水瀬名雪が社長として手腕を発揮している。

     最初のうちは馬も馬主交代に気づいたのか、なかなか勝利に結びつかず、低迷したが、徐々に持ち直し今は過去の実績に近づく程に。

     言葉にするのは簡単だが、秋子から跡を継いだ名雪にとってはプレッシャーの日々で当時は穏やかで優しい目は、今や肝が据わった表情になっていた。

     それだけ、10年前よりも過酷で先が分からない中で生き抜いたのが伺える。

     現在は牧場に残っていた繁殖牝馬を徐々に入れ替えて、ファントム―イチゴサンデーから連なる血統とフラワーロック達の血統がメイン。

     新たな血統は海外から取り入れたもので、停滞していたKanonファームの血統に活力を与えていっている。

     その血を受け継いだ仔馬とKanonファーム在来の血を引く仔馬が放牧地を駆けていく。

     血統だけではなくKanonファームは、大手牧場と対等に戦える様に距離600m勾配差が+3mの坂路を所持し、屋内馬場も設置されている。

     これだけの施設だが、名雪は日高地区の牧場関係者も使用出来る様に共同調教施設として、日高地区の成績向上に繋げていた。

     それでも容易に成績と結びつく訳でないので、畳む牧場が多いのもまた事実であった。

 

    「やれやれ、また1つの牧場が畳まれたか」

 

     売り地と書かれた看板が掲げられた牧場には過去のものとなり、繁栄していた情景が過ぎ去っていく。

     そんな風景を眺めつつ、肩ほどまで伸ばしたショートヘアが風になびくのを抑えながら、女性は感傷げに呟いた。

     暫くすると、この場に似つかわしくない電子音が鳴り響き、女性はコートのポケットから取り出して通話をし始める。

 

    「……ああ、そういえば今日だったな。待たせておけば良い」

 

     通話相手からは慌てた様な声が響くが、女性は相手の言い分を無視して押し通すと、相手は諦めたのか暫し口を閉ざしてしまう。

 

    「ああ、勝手に牧場内を見るだろうし、案内は必要無いと思うので放置しておけ」

 

     そういってから携帯電話の受話ボタンを切って、小さく吐息を吐き出し自家用車に乗り込んでハンドルを握り、所定の場所に向かい始めた。

 

 

     その場所は広大な敷居を持ち、多くのサラブレットが放牧地で駆けており、オーナーブリーダーを示す勝負服の絵が描かれた看板が掲げられている。

     kanonファームと書かれた牧場名を確認する事無く、女性は車から降りると来訪者が向かったと思われる放牧地に向かう。

     そこには一人の男性が放牧地の中に入っているが、女性は注意する事無く一切警戒しないで近づいていく。

 

    「久しぶりだな。佐祐理さんとの結婚式以来だったか? 祐一」
    「それ以来となるか……名雪は全くという程、変わっていないんだな」
    「口調の事か? それなら10年前から牧場を生き延びさせる為に足掻いて、絶望も見てきたからな。当時のわたしではこうにもならざるを得ない」
    「……そうだな。あれから10年も経ったんだ。こうにもなるよな……と、陰気臭いのはここまでにして、今日は何の様だ?」

 

     名雪と祐一は軽口を叩きながら、お互いにそこそこ挨拶を済ませ、10年前から変わっていないKanonファームの外れに構えている家に向かう。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     注1:ディープインパクト……シンボリルドルフに次ぐ無敗の3冠馬で他には天皇賞・秋を除く古馬中長距離G�気鬘款,靴討い襦�