闇夜の中で瞬く多数の発光体――カクテルライトが星空を消し去るように輝いている。
カクテルライトを浴びている場所には多数の観客が押し寄せて混雑を生み出しつつ、冬の気温を書き換えるほどの熱気が。
この日は1992年度の集大成であるG�機宗重豕�大賞典が開催されるので、トゥインクルレースを見に来たファンや純粋なギャンブラーも訪れている。
ざわめきの中で馬券検証が行われていたり、パドックで馬の調子を確認していたりと、人々によって行動理論に違いが現れていた。
そして、1レースが終わる毎に外れた馬券がゴミとなり、クシャクシャに丸められた物、或いは破れた物が紙吹雪となって大井競馬場を舞う。
数時間後。
秋子は三つ編みを解いてストレートヘアにしており先端部分を軽く弄りながら、各馬の様子をパドックの中心から眺めている。
その真横に名雪が佇んでおり、いつもの髪型――ストレートから縫い上げているので、うなじがチラチラと覗かせていた。
先ほどの条件戦が行われていた時間帯よりも多数の人物がパドックに押しかけて、規制状態になる程の人数が東京大賞典に注目している。
「5枠12番ウインドバレー。馬体重は前走比からマイナス4kgです」
「前走のダービーグランプリから約3ヶ月振りの出走になりますが、調教を積んでいる分体調は良さそうです」
「ただ、今回は古馬も居ますので実力的にはちょっと厳しいと思います」
と、アナウンサーと解説者がウインドバレーに関するやや辛口な評価を与えている。
実際にウインドバレーの人気は6番人気――競馬新聞の印欄には△と▲がそれぞれ2つずつ押されているのみ。
けれど、競馬新聞の成績表の下にある調子の短評部分では抜群の手応え、と書かれているので、ほんの僅かだけ勝率がアップしたと言える。
「意外と人気ね……2桁人気も覚悟していたけど」
「そうだね、実績はG�靴�2勝だけだしね」
但し、オッズは19.4倍と上位5頭とは大きく離されているので、厳しいのは間違いないだろう。
それと大井競馬場で2戦2敗なのが判断されての相乗効果で、この人気ならば当たり前だろう。
「まぁ、体調は良いみたいだし案外やれるんじゃないかしら?」
「それは同意するけど、やっぱり古馬との実力差が分からないのが不安」
今まで同年齢――3歳路線のみで戦ってきたウインドバレーは歴戦の古馬と積み重ねた実績の重さはまったく違う。
その為、一度古馬戦を叩いた方が良かったかもしれないが、いまさら言っても後の祭り。
それに、一叩きして調子が落ちてしまったら、出走出来ない可能性があるので元も子もない。
そして、どの馬も100%の仕上げで出走しているので、高レベルのレースが展開されるだろう。
パドックの真横にある騎手待機所から、選ばれた18人のジョッキーが並び競馬職員が一言二言喋ってから騎手が各馬に向う。
ウインドバレーの騎手は天野騎手から落馬負傷した主戦の井守騎手に戻っている。
「では、お願いしますね」
「ええ、古馬にどこまで太刀打ち出来るか分かりませんが、全力で勝負させてきますよ」
秋子と名雪はその言葉にコクリと力強く頷いて、騎手と調教師と厩務員、そしてウインドバレーを戦場と言うターフに送り出す。
数分後。
アナウンサーの紹介に合わせて、各馬各馬が本馬場入場していく。
「3度目の正直でG�祇�覇を手中に収めるか? 5枠12番ウインドバレーと井守騎手です」
ウインドバレーは実況に釣られるように、キビキビと駈足――キャンターを披露して待機場に向っていく。
本馬場入場になる前に、秋子と名雪は馬主席にギリギリのタイミングで戻っており、無事にウインドバレーの晴れの姿を確認。
「走りは……気持ちが入っているのか随分と良さそうね」
「これなら勝てそうだけど……メンバーがちょっとね」
そう、それくらい強力な出走メンバーが目白押しで、出走馬は以下の通り。
1番人気:トミシノポルンガ。
2番人気:スイフトセイダイ。
3番人気:グレートホープ。
4番人気:ミスタートウジン。
5番人気:ドラールオウカン。
6番人気:ウインドバレー。
と、上位3頭は地方競馬が生み出した名馬であり、この3頭だけで中央と地方を含めたG�犠〕�数は10勝近く。
超が付くほどの実力を有する地方馬を前にして、ウインドバレーが如何なる走りを見せ付けるかが秋子と名雪にとって1番の楽しみな事だろう。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。