冷たい風が肌を突き刺す様に吹き荒れている10月の日々。

     強弱を付けた風の音がビュウビュウ、と草木を揺らして枯れた葉っぱ同士が擦れ合ってざわめいている。

     そして、ハラハラと舞い落ちる枯れ葉がKanonファームの敷地や放牧地に散らばっていく。

     その為、毎日特定の時間になると箒で落ち葉を掃く音が風に乗って、独特な音が響いてくる。

 

    「まったく、これだけが面倒なんだよなぁ」
    「これが無ければ楽なんだがな」

 

     名雪と祐一は異口同音でタイミング良く似た発言を一致させて、お互いに苦笑いを洩らしてしまう。

     面倒な理由はただ1つ。

     風が強いだけではなく、既に気温は一桁代となっているので2人の服装はハイネックのセーターやコートを着込んで完全防寒になる程の寒さ。

     それくらい日高地区は他の北海道全域に比べると温暖な場所なのだが、寒いのは変わらない事例。

     気温と吹き荒れる風が一番のネックなのは確かで、身体を動かしていないよりも動かしていた方が汗を掻く分マシだろう。

     喋りながらもキチンと仕事は行っており、手際良くサッサと落ち葉を箒で掃いている音がリズムに乗っていた。

 

 

     数時間後。

     掃き終わった落ち葉は大量に集まり、名雪と祐一の膝くらいまでの高さがある枯れ葉の山が完成していた。

     本日の落ち葉掃きが終了した所で、秋子と秋名が両手に4本のサツマイモを抱えてやって来る。

 

    「お疲れ様。じゃあ焼き芋を焼きましょうか」

 

     秋名は、秋子の言葉に反応してコクリと小さく頷いて、手に持っていた古びたジッポライターを点火させ、もう一方の手に持っていた古紙に着火。

     燻っていた火が風にまかれて勢いよく古紙を燃やした所で、枯れ葉の山に置かれて火が徐々に燃え盛っていく。

     枯れ葉が回りに燃え移らないように鉄板で覆われており、その中にアルミで包まれたサツマイモを投下する秋子。

     灰色の煙がゆらゆらと不規則に風に揺られながら空に昇っており、焚き火を囲んで4人が近くにある木製の椅子に腰を下ろす。

 

    「……ダービーグランプリは後少しの差だったわね」

 

     焚き火に当たりながら、秋子は一言呟くと3人も同じ事を思っていたのか同時に頷く。

     ダービーグランプリは又もトミシノポルンガに栄冠を阻まれて、鼻差の2着だった。

     ジャパンダートダービーと同じく直線から競り合ったのだが、鼻差の壁が果てしなく高い壁だと実感させる結果。

     ただ3着の馬との差は4馬身と、ウインドバレーの走りがパワーアップした事が窺えるのは結果としては良い方である。

 

    「まったく、競馬の神様は意地悪だなぁ……こんなに美人家族が頑張っているのに」

 

     秋子は名雪の発言に対して反論しようとする前に、秋名が手で秋子の事を制して代わりに発言する。

 

    「ちょっとそれは違うな名雪ちゃん。正しくは勝利の女神が私達に嫉妬した方が正解だ」
    「……姉さん」

 

     秋子の言葉を無視して秋名は悪乗りして更に言葉を続けていった。

 

    「つまり、競馬の神様は男でそっちの承認は取れたけど、直前で勝利の女神がわたし達に嫉妬した訳だね」

 

     秋名は大きく頷くと、ビッと親指を名雪に向かって立てて名雪も笑みを浮かべて秋名と同じ様に親指を立てている。

     秋子は疲れた様な表情を浮かべつつ、両手に抱えている焼き立ての焼き芋を俯きつつ小さく食べ始めていた。

     祐一も秋子と同じ様に焼き芋を食べているが、違うのは先が先鋭になっている木の枝に突き刺して豪快に食べている。

 

    「次は東京大賞典だったよね……3度目の正直になると良いんだけど」
    「ほふ……大井競馬場の成績が2戦2敗だしな」

 

     名雪は自身の傍に落ちていた木の枝を燃え盛る枯れ葉の中に投げ入れて、心配事を呟いてしまう。

     次走は古馬も含む地方最高峰のレース、中央で言う有馬記念なので、ダービーグランプリに比べるとレースレベルは遥かに高い。

     そして、何よりも大井競馬場で開催されるので、現時点のウインドバレーが苦手意識を出さずに走れるかが問題。

 

    「距離も問題無いし、古馬が相手だと何処までやれるかが疑問だな」

 

     そして、9月の成績は夏に走った馬を一息入れたため、5戦1勝2着1回3着1回のみに止まった。

     その内の1つである2着がダービーグランプリの成績なので、この結果が先月の総取得賞金を支えたと言える。

 

    「ひとまず東京大賞典でリベンジを果たしてくれると良いですね」

 

     秋子が願望を呟くと、3人は頷いてから立ち上る煙を中心にして焼き芋をゆっくりと口に入れ、ほふほふと焼き立てを味わう姿が見受けられた。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。