本日の競馬にはヤマトノミオが新馬戦に出走する。

     父グランドオペラと母のクイーンキラは共に未勝利馬同士であるが、グランドオペラは良血の塊。

     母系はカナダの年度代表馬とアメリカ最優秀古馬牝馬の2つ称号を得ているグローリアスソング。

     おじにはデヴィルズバッグ、半弟には短距離で活躍したラーイがいるほど超が付くほどの良血である。

     なので、グランドオペラが未勝利なのは良血に相応しくない成績かもしれないが、サラブレットの世界ではこれが一般的。

     どれだけ良血で固めようとも、敗北する確率の方が高いのだから。

     さて、現時点の人気ではやはりと言うべきか、父と母が未勝利なので12頭中10番人気と2桁人気であった。

     競馬新聞の短評も厳しい、などが多く良いコメントは1つも無いので、低人気に反発してくれるのを期待するしかない。

     出走する競馬場と距離は札幌ダート1000m。

     母クイーンキラと同じ様にダート路線で初出走となったが、どこまでやれるかが一番の疑問だろう。

     母と同じ様に未勝利になる可能性が高く、1勝でも出来れば十分と言わざるを得ない。

 

    「さて、どうなるかな?」
    「ちょっと厳しいと思うが……」

 

     珍しく名雪と祐一がそれぞれヤマトノミオの評価を行っているのは理由がある。

     それは2人で配合を考えたからであり、ある意味2人が生みの親なのでレースが気になるのも当たり前だろう。

     名雪は不機嫌そうに眼を細めて腕組みをしつつ、右手の指先で軽く左腕の二の腕をリズム良く軽く叩いている。

     名雪の傍で丸まっているピロは急激に底冷えする雰囲気に当てられたのか、一目散に逃げてしまう。

 

    「不機嫌そうだな」
    「そりゃあ……人気がないんだし、こうにもなっちゃうよ」

 

     それに、と名雪は一言付け足しつつ、一言一言を紡ぎだす。

 

    「まだまだ、わたしでは配合の考えが甘いのかな、と思っちゃうんだよね……」

 

     名雪は軽く肩を竦めつつ、深く吐息を吐き出してしまう。

     その後リビングには沈黙が訪れてしまい、TV画面から競馬の実況が流れるのみだった。

 

 

     そして、ヤマトノミオが出走する新馬戦のパドックが行われる。

     3枠3番のヤマトノミオはデビュー前とは思えず落ち着いているが、デビュー戦なので、本馬場に入った途端に入れ込む可能性あり。

     母クイーンキラよりも落ち着きがあるのは好材料の1つで、後はレース振りがどれだけ良いかがチェックする部分。

     結果は二の次なので、初戦であっさりと勝ち上がれるのは実力がある馬かマグレ勝ちの2つしかないのだから。

 

    「んー、結構落ち着いているね」
    「クイーンキラは怖がりだったのに……反面教師だったのかもしれないな」

 

     馬でも反面教師はあるかは不明だが、母よりも娘の方が落ち着いている事を鑑みるとありえる話かもしれない。

     他馬は入れ込んでいる馬が多くいる中、ヤマトノミオだけはキッチリと落ち着いているので僅かにだが勝率が上がっただろう。

     そのお陰で、オッズの売れがアップしたのか単勝人気が9番人気までに移行した。

     そして、騎手が騎乗して地下道から本馬場に向って行く。

     数分後。

     無事に本馬場で軽くキャンターで走ってから待機場に向うヤマトノミオとジョッキー。

     レース開始前の時間になり、他馬からやや離れてゲートに向って闊歩して行く。

     ヤマトノミオはゲートも無難に入るも、ゲート内でややチャカついているのはデビュー前の馬なら当たり前なので予測内になる。

     最後に12番の馬が入り、ゲートが開かれた。

     ヤマトノミオはスッとスタートを切ると、激しい先行争い――ダート1000mから逃れるように先行からやや離れた6番手辺りに位置付ける。

     ペースはこの様子だと早いので、先行勢には厳しいレースだろうが初デビューの馬にはリズムの方が大事だから簡単に下げる事は不可能。

 

    「これなら……いけるかな?」
    「現状のペースなら差せる可能性も高いけど、どれだけの切れ味があるかだな」

 

     1000m戦なので、あっという間に4コーナーに到達している先行馬勢。

     スルスルと内からヤマトノミオが上がってきて、一気に4番手となる。

     最内に1頭おり、前に先行馬が3頭居るので外に持ち出して交わすしかないがロスがあるので、内が開いた時に突っ込ませるしかない。

     そして、残り100m。

     ヤマトノミオの騎手は僅かに開いた馬体同士の隙間に突っ込ませて、弾丸のように勢い良く先頭に立つ。

     最内からも1頭の馬が伸びて来ているが、勢いの差でヤマトノミオが押し切り勝ってしまう。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。