夏競馬開催中、とＴＶＣＭでそれぞれの競馬場で行われるメインレース時期を詳細に乗せつつ流れていく。
既に夏真っ盛りであり、ここ日高地区も例外無くジワジワと日差しが照らして家内だろうが野外だろうが、気温が上昇している。
本州に比べると気温の上昇はマシだが、夏が暑いのはどこも変わり無いだろう。
そんな中では人も馬もだれてしまい動きが緩慢となりつつも、木陰や涼しい場所を探しているが時間が立てば立つ程、日向の範囲が広まっていく。
Kanonファームの敷地内には一本の大木が唯一の木陰を放牧地の青々とした牧草の上に影が浮かぶ。
その影の部分には今年産まれた繁殖牝馬と０歳馬が寄り添うように、牧草の上に座り込んでいる。
この特典は繁殖牝馬と０歳馬だけが味わえる絶景の場所なので、リーダーの繁殖牝馬が優先して良い場所を取ってしまう。
１歳馬や古馬、功労馬はこの場所には入れないので、それぞれの場所にある厩舎で涼しむしか方法は無い。
因みに厩舎は夜間放牧が出来る構造で自由に出入り可能となっているので、現在は殆どの馬が日差しを避けて厩舎内で寛いでいた。
「暑いなぁ」
名雪は額から流れる汗を軽くほっそりとした女性らしい腕で拭うと、小さく吐息を吐き出す。
黒のタンクトップにデニム生地のハーフパンツなので、機能性を重視した服装。
少女らしく健康美な身体で、ほんの少しだけ日焼けによって健康な肌色に焼けている。
そして、何よりも腰の上部まである長く艶のある髪は邪魔にならない様にポニーテイル状と毛先を軽くゴムで結んでいる。
名雪は軽く愚痴を飛ばしつつも厩舎内の掃除を行って、放牧地に出ない馬の様子を見ながら、暫く掃除を続けた。
「……これで終わりかな」
小さく背伸びをしてから掃除道具を持ち、名雪は小走りで家に戻ろうとすると何処からとも無く何かの鳴き声が聞こえてきた。
耳を良く澄ますと、猫の鳴き声らしく何処かの馬房内から、にゃーとお馴染の声が。
名雪は軽く溜息を吐いてから、１つ１つ馬房をもう一度ゆっくりと見回り、猫がいる場所を発見した。
馬房に敷き詰められた寝藁に包まるように猫は鎮座しており、ジッと名雪の方を純粋な瞳で見つめている。
その猫は白い毛と茶色い毛を合わせ持ち、どちらかと言うと三毛猫に近い毛色。
そして、何よりも生後数ヶ月付近と一目で分かるくらい身体が小さく子猫と言っても良い。
「やれやれ、何処から迷い込んだんだが」
はふぅ、と深く嘆息を吐いてから、名雪は子猫が怯えない様にしゃがみ込んで視線を軽く合わせ首っこを掴む。
にゃー、と可愛らしい声を上げながら名雪に抵抗する事無く、大人しく懐いていると見て良い状況。
このままほったらかしにして置く程、名雪は冷酷では無いので家に連れて帰る。
軽く両手で抱きこんで。
家に連れて帰ると、子猫を廊下に下ろしてから名雪が移動すると、にゃーと一鳴きしてから名雪の後を付いて来る。
猫の声に反応したのか、カチャリと廊下とリビングを繋ぐドアが開き、秋子が気になったのか軽く顔を覗かせていた。
「その子はどうしたの？」
「厩舎に迷い込んだみたいで、一応連れて来た」
野良か捨て猫かは不明だけどね、と一言名雪は付け加えてからリビングに向かって移動を再開すると、子猫も後を追う様にチョコチョコと歩いて来る。
「随分と懐かれたわね」
「ん、まぁ……馬で慣れているからだからかもしれないけどね」
既に子猫は名雪の足元に擦り寄りつつ、クルクルと８の字を書く様に足の隙間を潜り抜けていた。
んで、と名雪は子猫に向かって人差し指で指して、これどうすると言いたげに秋子の顔を覗き込む。
「それだけ、懐かれているのに放り出す訳にいかないでしょ」
「……まぁ良いけど、世話が大変だな」
暫し思考してから、名雪は溜息混じりに同意。
二人の会話内容が分かっていたのか、気のせいか子猫は先ほどよりも嬉しげな声で鳴く。
こうして、一匹の子猫が新たにKanonファームの住民になった。
「名前はどうしようかしら？」
「んー、ニホンピロウイナーから一部を取って、“ピロ”はどう？」
……子猫の名前はＧ�鞠呂任△襯縫曠鵐團蹈Εぅ福爾�ら取ってピロとなったのだが、子猫――ピロは由来の意味は分からないだろう。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。