駆ける馬　１９０話

　　　　　――１９９２年上半期のＧⅠが全て終了した。

　　　　　恒例通りにまずは古馬戦から１つ１つレース結果を書き連ねていこう。天皇賞・春。

　　　　　このレースは２強対決――メジロマックイーンＶＳトウカイテイオーの争いだと見込まれていたが、結果はメジロマックイーンの圧勝に終わった。

　　　　　世紀の争いは一瞬で呆気無く四散して、メジロマックイーンがグングンと天を昇るように突き抜けたのは実に圧巻。

　　　　　しかし、このレース後に両頭が故障発生――骨折してしまい長期離脱が余儀なくされポッカリと古馬戦線に空洞が。

　　　　　１番人気と２番人気、勝者と敗者の命運は同じ方向に向かってしまったが、両頭ともまだまだ現役続行する事は関係者から伝わって来ている。

　　　　　そして、名馬である両頭がいない宝塚記念ではＧⅠ馬が２頭――ダイユウサクとダイタクヘリオスのみと少し寂しいメンバー構造。

　　　　　だが、ＧⅠ馬である２頭を除けて勝利したのはメジロ軍団の逃げ馬――メジロパーマー。

　　　　　父メジロイーグルは往年の競馬ファンには懐かしい馬であり、小柄の馬体４００ｋｇ前後で精一杯の逃げを見せ付けるので人気は高かった。

　　　　　メジロパーマーは障害戦帰りで変わった戦歴を持つので、人気が無かったのも納得かもしれない。

　　　　　まぁ、実際には宝塚記念の前に新潟大賞典を制覇しているので、安易にフロック勝ちとは評価出来ないだろう。

　　　　　続いては短距離路線――高松宮記念と安田記念。

　　　　　この路線は相変わらず空洞化しやすく、ダイイチルビーが引退した事で王者はダイタクヘリオスが暫定的に候補に。

　　　　　だが、空洞化を止めるべくに１頭の馬が現れたことで短距離路線に一筋の光明が差し込んできた。

　　　　　その馬の名はヤマニンゼファー。

　　　　　高松宮記念はダイタクヘリオスの３着だったが、脅威の成長力で安田記念はリベンジし見事に優勝を果たした。

　　　　　牡馬牝馬クラシック路線は殆どの読者が知っているように、皐月賞と日本ダービーがミホノブルボンの逃げ切りで２冠達成。

　　　　　桜花賞は持ち込み馬のニシノフラワーが直前のトライアル――チューリップ賞で２着からキッチリと巻き返しての勝利。

　　　　　だが、オークスは距離が長すぎたのか良い所がまったく見せられないまま７着に敗れてしまう。

　　　　　そのため、秋は短距離――スプリンターズＳを目指すと関係者が明言しており、短距離路線に楽しみが広がったと言える。

　　　　　オークスを勝利したアドラーブルはチューリップ賞でニシノフラワーを破った実績を持ち、これで対ニシノフラワーは２勝２敗。

　　　　　最後にダート路線を。

　　　　　ジャパンカップダートを制したミスタートウジンがスイフトセイダイを何とか凌いで勝利。

　　　　　これでＧⅠ２勝目なのだが、既に６歳――旧年齢で言えば７歳で、今年一杯で引退するのは目に見えている。

　　　　　秋までにはダート路線の世代交代を受け継ぐ馬が誕生して欲しいものだ。

　　　　　と、主なダート路線を引き継いで欲しい馬の中にはウインドバレーの名も小さくだが書かれていた。

　　　　　上半期のレースが全て終わり、これからは真夏の競馬――夏開催のローカル競馬の時期が訪れる。

　　　　　既に今年の新馬戦が行われて、新種牡馬の仔が如何に走るかが牧場関係者の中で話題となって、来年の種付け時に付けるかどうかなどの会話もある。

　　　　　実際に初年度から失敗した種牡馬は何百、何千もおり一度失敗したら、汚名返上の撤回は不可能に近い。

　　　　　最近は新種牡馬の結果が早い内に求められる様になっており、初年度産駒がデビューするまでに付けられた３世代で成功しないと失敗の烙印が。

　　　　「再来年にはサンデー産駒がデビューか」
　　　　「そうですね……どれくらい走るかは未知数ですが」

　　　　　それが楽しいんですけどね、と重賞制覇をしたせいか少々余裕のある発言をする秋子だが、秋名は窘めようとしない。

　　　　　今までの様に余裕が無さ過ぎるのも問題だが、これくらいの余裕を持っていた方が牧場経営は上昇気流に乗りやすいのも事実。

　　　　「上半期の勝利もそれなりに維持しているで、余裕が出てきたとも言えますけどね」

　　　　　今年の上半期の勝利数は去年の４勝から７勝と僅かに増えただけだが、ＯＰ戦を２勝と重賞１勝は中身は非常に濃くなっている。

　　　　　Kanonファームでは久しぶりの上半期黒字になったと言えるので、下半期もこの勢いが維持出来れば、今後の牧場経営にも自信が付く。

　　　　　ふむ、と秋名は顎に軽く握った拳で頬杖を付きながら同意の言葉を返し、

　　　　「この勢いでジャパンダートダービーはいけるか？」

　　　　　この事を聞かれると、まだまだＧⅠの方までは余裕が無いのか秋子は口を濁してしまう。

　　　　　地方のＧⅠとは言え高レベルなメンバーが揃うレースなので、その点からすると中央のＧⅠにも劣らないレース。

　　　　　ウインドバレーは無事に選出され、ジャパンダートダービーまで残り１週間を切っていた。

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　　　　　この話で出た簡潔競馬用語

　　　　　注１：メジロパーマー……この時点では、札幌記念と新潟大賞典を制覇。
　　　　　注２：メジロイーグル……重賞勝ちは京都新聞杯の１つのみ。
　　　　　注３：ヤマニンゼファー……父にニホンピロウイナーを持つ。
　　　　　注４：アドラーブル……父はノーザンテーストで兄に中山大障害の覇者ノーザンレインボーがいる。